異世界人
雑多は女性定員にある部屋に案内された。
その部屋には一人の男性が椅子に座っている。
男性は少し痩せており、身体が細い。
三十代ぐらいだろう。
「やぁ、君が僕と同じ世界から来た人かな?」
「は、はじめまして。器用雑多と言います」
「僕は甘口砂糖。話をしよう」
雑多は用意された椅子に座る。
「いや~まさか僕と同じ異世界人と会えるなんて嬉しいよ」
「俺もです。正直びっくりしてます」
「僕もだよ。それにしてもこの団子屋に異世界人がいるってよくわかったね」
「ギャラクシークリーム団子。こんな江戸時代風の異世界でそんな言葉は聞きません」
「ハハハ、確かに。で……君はこの世界に来てからどれくらい経つの?」
「まだ数か月ですね。大変でしたよ。いきなり転移したかと思ったら、怪異に襲われて。助けが来なかったら死んでましたよ」
「それは災難だね」
甘口は苦笑を浮かべながら、雑多に同情した。
「あの……俺、どうしてもあなたに聞きたいことがあって」
「なにかな?」
「どうしたら……元の世界に帰れますか?」
「……」
甘口は口を閉じて、ポリポリと頬を掻く。
「わからない……かな。僕も十年ぐらい前にここに来たけど、帰り方の方法なんてわからない」
「そう……ですか」
雑多は落ち込んだ声を漏らし、俯く。
「それに帰る方法が分かっても、僕はこの世界に残るよ」
「え?どうしてですか?」
「……僕は前の世界でパティシエをしていたんだけど、ある日この世界に転移したんだ」
「……」
「この世界に来たばかりの僕は困っていた。そんな僕を助けてくれたのが、団子屋の一人娘……今の妻だ。彼女には色々世話になってお礼に僕もできることをした。そしたらいつのまにか結婚をしたんだ。子供もできた。前の世界に未練がないと言えば嘘になるが、今の妻と子供を大切にしたい」
甘口の言葉を聞いて、雑多は「そうですか」と呟く。
この世界に来て、妻と子供ができたから今を大切にしたい。
それは当然の答えだ。
「君のことも聞かせてくれないかな?今はどんな生活をしているのとか」
「ええ、いいですよ。今は新選組の雑用係として働いているんです」
「新選組?あの……新選組?」
「え?あ、はい」
甘口は少し驚いた表情を浮かべ、顎に手を当てる。
彼の反応を見て、雑多は首を傾げる。
「えっと……どうしました?」
「……器用くん。悪いことは言わない。今すぐに新選組から離れた方がいい」
「え?どうして……ですか?」
「……今、新選組同士で争っているんだ」
「はぁ!?」
甘口の言葉を聞いて、雑多は勢いよく椅子から立ち上がる。
「え?え?ちょ、ちょっと待ってください。初めて聞きましたよ?そんな話!?」
「……今、新選組は二つの派閥に分かれている」
「二つの……派閥?」
「一つは近藤派。二つ目は永倉派」
「永倉って……永倉新八のことですか?」
甘口はコクリと頷く。
(永倉新八。俺がいた世界では神道無念流の剣術を使う二番隊組長。近藤勇とはあまり仲が良くなく、彼の元から去ったと聞いている。この世界でも同じなのか?いやでも……なんで争っているんだ?)
雑多は深く考えたが分からなかった。
「あの……なんで争っているんですか?」
「……分からない。新選組の者達しかわからない」
「……そうですか」
「君も危ないから新選組を離れたほうが……」
「いえ、そういうわけにはいきません」
ハッキリと雑多はそう言った。
「新選組には恩があります。仇で返したくありません」
「……そうか。困ったことがあったらいつでも言ってよ」
「はい。ありがとうございます」
<><><><>
沖田は団子を食べながら、雑多のことを待っていた。
「器用くん……なにを話しているんだろう」
そう呟いた沖田は、チラッと仲のいい男女を見る。
「恋人……か」
沖田はふと思い出す。
血塗れの自分の手と、身体が真っ二つにされた多くの女剣士たちを。
「私に作る資格はないね」
沖田がもう一本の団子を食べようとした。
その時、
「沖田さん」
聞き覚えのある少年の子が聞こえた。
声が聞こえた方向に視線を向けると、
「あ!器用くん!」
少年—――器用雑多を見て、沖田は明るく……そしてどこか嬉しそうに笑う。
「おまたせしました」
「うん。大丈夫だよ」
雑多と話をしていた沖田はふと疑問を抱く。
(あれ?なんで私、器用くんの顔を見てこんなに嬉しいと思うんだろう?)
沖田自身にも分からなかった。
なぜか雑多の顔を見て、声を聞くと嬉しいと感じる。
(不思議だな~。初めて会った時は殺そうと思ったけど)
沖田は明るい笑顔を浮かべて、団子を雑多の口に突っ込む。
「食べてみて。とてもおいしいよ~!」
「ん……んん」
雑多は団子を咀嚼した後、ゴクリと呑み込む。
「どう?」
「美味しいです」
「だよね」
沖田総司は笑顔を浮かべながら、願う。
どうか雑多が自分と同じ道を歩まぬことを。
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