雑多と沖田
調理場を掃除していた器用雑多は、沖田との戦いを思い出していた。
「あの感覚……初めてだったな」
沖田総司と戦っていた時、雑多はとてつもなく集中していた。
そして自分の想像以上のパフォーマンスで、沖田を追い詰めていた雑多は覚えている。
超能力に目覚めたような不思議な感覚を。
沖田の動きが遅く見えて、全てが分かる感覚を。
自分が最強になったような感覚を。
雑多は忘れることができなかった。
「きっとあれがゾーンなんだな。でも……なんかできそうだったな」
雑多は試しに、ゾーンを使うことにした。
ポンポン発動できるようなものではないのは知っている。
だが彼は、なんとなくできると確信していた。
「確か……こんな感じだったよな」
雑多は意識を集中させる。
そして戦いたいと強く念じた。
すると雑多の瞳孔が縦に割れ、蛇のような目になる。
「おお……これだこれ!この感覚!!」
自分がとてつもなく集中しているような感覚を、雑多は感じていた。
今ならなんでもできそうと思ったその時、突然彼に疲労感と目眩が襲う。
「あ……れ……?」
脚がふらつき、雑多が倒れそうになった。
その時、彼の身体を一人の少女が支える。
「大丈夫?器用くん」
声の主は沖田総司だった。
「沖田……さん?」
「ダメだよ。それをポンポンと使っちゃ。初めてでしょ?その超集中状態」
明るい声で叱る沖田。
彼女の声を聞いていた雑多の目が、普通の状態に戻る。
「それを使うと頭と体がとっても疲れるの。だから慣れるまで訓練しないとね」
「そう……なんですか」
「もう大丈夫?」
「あ、はい。すみません」
「ならよかった」
明るく微笑む沖田。
本当に先ほど自分と戦っていた彼女と同一人物かと、雑多は本気で疑う。
戦っている時の沖田は死神のように恐ろしく、強い。
だからこそ雑多は聞かずにはいられなかった。
「あの……沖田さん」
「なに?」
「ずっと聞きたかったんですけど……なんで俺と初めて会った時、殺気なんて放っていたんですか?」
「あ~えっと……それはね……器用くんが私と同類だって気付いたからだよ」
「同類?さっきも言ってましたよね?」
雑多は首を傾げる。
「それって先ほど言っていた化物のことですか?」
「それもあるけど……君と私は……」
「君と私は?」
「……女の子のおっぱいやお尻を揉みしだきたいと願う変態なんだよ」
「おい、なに言ってんだこの人!?」
沖田の発言に、雑多は思わずツッコミを入れる。
「私は小さい頃から、同性の胸や尻を意識していたの」
「いきなりとんでもねぇことを言ってるよ、この人」
「君なら分かるよね!?大きな胸と小さな胸も、形が整ったお尻も最高なんだよ」
「いや……それはちょっと」
「私はみんなとお風呂に入る時、めちゃくちゃ興奮するの」
「誰かー!ここに変態がいますよー!」
雑多は大声を上げた。
そんな彼の口を沖田は両手で塞ぐ。
「しー!ダメだよ。変態同士、仲良くしようよ」
「んんんんんん!!(お前と一緒にするな!)」
「もし私が変態であることを秘密にしてくれたら……超集中状態のコツ、教えてあげる」
「!?」
超集中状態……つまりゾーンの使い方。
それを教えてくれると聞いて雑多は目を見開く。
「どう?」
「……」
雑多は少し考えた。
(分かってる。沖田さんはわざと自分が変態だと言っているのは)
雑多は気付いていた。
沖田総司が嘘を言っていることに。
彼女は自分が変態だと嘘を言い、自然な流れでゾーンのことを雑多に教えようとしている。
(なぜ沖田さんが俺にゾーンのことを教えようとしているのかわからない。だけど……この話を逃すわけにはいかない)
雑多はコクリと頷いた。
すると彼の口を塞いでいた手を沖田は離す。
「よし!じゃあ明日から頑張ろうか!」
「よろしくお願いします。沖田さん」
<><><><>
翌日、訓練所にやってきた沖田と雑多は模擬戦をしていた。
魔装で戦うのは危ないと土方に言われたため、木刀を使っている。
二人は激しく動き、木刀と木刀をぶつけ合う。
「シッ!」
「ハァ!」
まったく同じ動きで木刀を振るう雑多と沖田。
恐ろしくも、美しい剣技。
木刀同士がぶつけ合う音が訓練所に響き渡る。
彼らはゾーンを発動しながら、三十分以上戦っていた。
「ハァ……ハァ……」
木刀を振るいながら、荒い呼吸をする雑多。
彼は大量の汗を流しており、眩暈を起こしていた。
そして木刀を床に落とす。
「はい。今日はここまでだね」
両膝と両手を床につけて、ゼーゼーと息をする雑多。
そんな彼を見て沖田は木刀を肩に担ぐ。
「お疲れ様、器用くん」
「お疲れ……さまでした」
「すっごい疲れてるね」
「いや……これでも身体は鍛えている方なんですが」
「身体を鍛えてもダメだよ。この超集中は頭を鍛えないとダメなんだよ」
「どういう意味です?」
言っている意味が分からず、雑多は首を傾げる。
「えっとね。そもそもこの超集中は誰でも自由に使えるものじゃないの。でも私と君はポンポンと使えるの」
「まぁ……はい。それはわかります」
「この超集中は頭や体力をたくさん使うの。特に頭の負担が大きい。分かりやすく言うと頭をめちゃくちゃ使うってわけ」
「なるほど」
「だからこの超集中を何度も使って、何時間でも使えるようにするの」
沖田の言っている意味が、雑多はようやく理解した。
ゾーンは頭をフル活動させている状態。
だからとてつもない疲労感に襲われる。
何時間でも使えるようにするには、ゾーンを何度でも使って頭を鍛えるしかない。
「因みに沖田さんはどれくらい使えるんですか?」
「私は五時間ぐらいかな」
「五時間!?」
人差し指を顎に当てて答える沖田を、化物だと思った雑多。
三十分ぐらいゾーンを使って、雑多はもう疲れて動けないでいた。
「まぁ、慣れればなんとか……ゲホゲホ!」
突然、強く咳をする沖田。
そんな彼女を見て、雑多は慌てて立ち上がる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ……大丈夫。大したことないよ。じゃあ今日はこれぐらいにして終わりにしよう」
そう言って沖田はフラフラしながら、訓練所から出て行く。
彼女の背中を、雑多は心配そうな顔で見ていた。
「大丈夫かな……沖田さん?」
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