ゾーン
「そんな君だから少しだけ見せてあげる。私の本気を」
氷のような冷たい声を漏らす沖田総司。
そんな彼女の瞳に、四角星の形をした光が宿る。
「!?」
咄嗟に器用雑多は距離を取る。
理由は分からない。
ただ光を宿した沖田総司の瞳を見た瞬間、雑多は自分が狩られる存在だと本能的に認識した。
そして彼の勘は当たっている。
「シッ!」
沖田総司は刀を振るう。
それに合わせて雑多も刀を振るった。
刀と刀は金属音を響かせながらぶつかり合い、
雑多の刀が真っ二つに切断される。
「!複製!」
雑多は慌てて新たな刀を生み出す。
直後、沖田の剣撃が彼を襲う。
ギリギリ反応し、彼女の剣撃を雑多は刀で防ぐ。
しかし刀はまた真っ二つになってしまう。
(さっきより剣の腕が上がってる!?これが沖田さんの本気?だけどスピードとパワーはさっきと同じだ。どういう……)
沖田の剣撃を必死に躱しながら、雑多は彼女を観察する。
そして観察し、気が付く。
沖田総司がとても集中していることに。
(そうか!沖田さんはゾーンに入ったのか!!)
ゾーン。
極限の集中状態になり、最高のパフォーマンスをすることができる精神状態。
周りの時間の流れが遅く感じたり、余計な音が一切聞こえなくなる。
ただ簡単に使えるものではなく、三つの条件を満たさないといけないと言われているのだ。
一つは明確な目標であること。
二つ目は目標は難しすぎず、簡単すぎないこと。
三つ目は目標に挑戦するのが楽しいと思うこと。
(ゾーンなんてアニメみたいにポンポンと発動できるものではない。だけど沖田さんはそれを自由に使える。ああ……なんて、なんて)
器用雑多は口元を三日月に歪める。
(なんて……最高なんだ)
雑多の心臓がドクンドクン!と高鳴る。
同時に彼の瞳孔が縦に割れた。
まるで獲物を見つけた蛇の目だ。
「最高に……興奮する!!」
雑多は両手からそれぞれ魔装を生み出す。
右手からは刀型魔装―――菊一文字血雨を。
そして左手からは銃剣型魔装―――和泉守修羅を。
「二刀流!?」
目を見開く沖田に、雑多は突撃した。
先ほどよりも速く動き、そして高く跳躍する。
跳躍した雑多は身体を回転させて、刀と銃剣を振るう。
「くっ!」
雑多の攻撃を刀で防いだ沖田は軽く吹き飛ぶ。
そんな彼女の懐に一瞬で入った雑多は荒々しくも、だけど美しく剣と銃剣を振るって斬撃を放つ。
顔をわずかに歪めた沖田は刀で雑多の連撃を受け流す。
「君、二刀流なんてできたんだ。しかもその動き……見たことないよ」
「アニメやゲームに登場した二刀流キャラの真似ですよ。それとカッコイイからアクロバティックを学んでました。まぁ……強いて言うなら、器用流戦闘術ってところですかね!」
雑多は身体を低くし、沖田の足を払う。
バランスを崩した彼女に銃剣の銃口を向け、弾丸を撃ちこむ。
超高速に放たれた弾丸を沖田は紙一重で躱し、後ろに下がった。
「やるね」
「どうも」
技とは誰もがゼロから生み出すものではない。
最初は他人の技を真似をし、アレンジを加え、新たな技へと進化させる。
器用雑多はそれと同じことをしたのだ。
今まで経験した技。
今まで溜め込んできたオタク知識。
それを戦闘の技に利用したのだ。
「沖田さん。こっからは簡単に俺を倒すことはできませんよ?」
「……」
沖田は無言のまま器用雑多を見つめる。
そしてプッと吹き出し、
「アハハハハハ!」
楽しそうに笑った。
「最高最高!こんな楽しいのは初めてだよ。しかも君の目……そこも私と同じなんだ。アハハハハハ!」
沖田総司は大きな声で笑う。
そして思いっきり笑った後、彼女はとてつもない殺気を放つ。
新選組の女性たちの何人かが気を失って、倒れる。
「君とは全力で戦いたいよ。器用くん」
「俺もです」
二人の戦士は己の武器を強く握り締める。
ここから先は本当の戦い。
全力の殺し合い。
だが二人は止まらない。
止まりたくなかった。
「行くよ」
「はい」
二人は笑いながら、全力を出そうとした。
その時、
「それまで!」
大きな声が聞こえた。
声の主は土方歳三だ。
「これ以上の戦いは私が認めない」
彼女は鬼の如き威圧を放ちながら、そう言った。
沖田と雑多はしばらく無言のままでいると、土方は目を鋭くする。
「なんか文句はあるか?」
「「ありません」」
沖田と雑多は魔装を消し去り、両手を挙げる。
「ならいい。それと雑多。今すぐ屯所に行って掃除して来い」
「え?でももうちょっとここで訓練を」
「いいからしてこい」
「……はい」
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訓練所から器用雑多が去った後、土方は沖田に近付く。
「沖田……お前」
「すみません。楽しくなっちゃって」
てへぺろ♪と舌を出す沖田。
そんな彼女を見て、ため息を吐いた土方は目頭を指で揉む。
「まぁいい。で?お前から見て、器用はどうだった?」
「そうですね。やっぱり私と同類。人の皮を被った化物です」
土方は目を細める。
「私、本気を出す時……すっごい集中できるんです。全てが遅く見えて、どう動けばいいか分かるんです。でもそれができるのは私だけ」
「……」
「でも器用くんは私と同じことができた。それも自分の意思で。きっと器用くんは天狗や鬼……もしくは龍にもなるかもしれません」
沖田は楽しそうに笑い、瞳を怪しく光らせる。
「これから楽しみだね。器用くん♪」
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