非常戦闘員
水で濡らした雑巾で床を拭く器用雑多。
彼は気まずそうな顔で掃除をしていた。
「あ、あの~沖田さん?なんでずっと俺の傍にいるんですか?」
「気のせいだよ」
雑多が視線を向けた先には、団子を食べる桃髪の少女—――沖田総司の姿があった。
(いや気のせいじゃないだろう。もう三日間ず~と俺の傍にいるんだけど?)
怪異と初めて戦ってから三日が経った。
その三日間、沖田総司は雑多の傍にいるのだ。
ご飯を作る時も、掃除する時も。
そして……厠や風呂に行く時も。
まるで監視されているかのよう。
(ず~と見られているからストレスが溜まるな。ああ~何とかしてストレス発散したい。漫画が読みてぇ、アニメが見てぇ、ゲームしてぇ、筋トレしてぇ、ランニングしてぇ、戦いてぇ~)
雑多が心の中で僅かにいらいらしていた時、一人の女性が近づいてきた。
土方歳三だ。
彼女は鋭い目つきで、床を掃除している雑多を睨みつける。
鬼のような威圧に、雑多はビクビクと怯えた。
「おい」
「は、はい!」
「その掃除が終わったら、訓練場に来い」
「え?」
「お前を……鍛える」
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新選組の屯所にある大きな道場。
そこでは剣や槍、弓などの魔装で新選組の女性たちは訓練していた。
ある者は剣と剣をぶつけ合い。
ある者は的に向かって矢を放ち。
ある者は怪異のような形をした動く石像と戦っていた。
「ここは新選組専用訓練道場……ですよね?」
「そうだ、器用。この道場は製作系魔装で作られた特別製。ここではどんな激しく戦おうが建物は壊れないし、怪異を模した動く石像と戦えるし、しかも怪我をしてもすぐに治る」
土方の言葉を聞いて、雑多は「すげぇ~」と声を漏らす。
「魔装にも色んな種類があるんですね」
「そうだ。魔装には戦うものもあれば、怪我を治したり、なにかを作ったりするものもある」
「へぇ~」
「お前は週に三日、ここで訓練してもらう」
「あの……理由を聞いても?」
「……ここ最近、怪異の出現が多くてな。もしもの時があるかもしれない。そこで非常用の戦闘員としてお前を育てることにした。近藤さんからお前が魔装を使うことができるのは聞いている」
僅かに間を開けて、視線を右下に向ける土方歳三。
そんな彼女を見て、雑多は気付く。
土方歳三はなにかを隠していると。
(人間ってのは嘘を言う時、必ず顔か身体に出る。目を泳がせたり、早口になったり、口元に手を当てたりなど……色々ある。さっき土方さんが言ったことは嘘ではないが、本当でもない。もっと他の理由があるんだろう。でも……まぁいい。戦闘訓練できるならな)
器用雑多は口元を三日月に歪め、瞳を怪しく光らせる。
(ここでなら飢えをマシにすることができるし、なによりここで鍛えれば強くなれる)
人間は誰もが強くなりたいと願う。
その心理は弱さを隠したい、他人から認められたいという劣等感や承認欲求などだ。
強くなることで不安から解放しようとする。
人はなぜ勉強を頑張って、テスト一位を目指す?
人はなぜ体を鍛えて、スポーツ大会で金メダルを目指す?
答えは簡単。己が最強であると証明したいから。
だが器用雑多は違う。
彼が強くなりたい理由……それは、
(強くなれば、さらに強い怪異と戦える)
雑多の願いは、強者との命懸けの戦闘。
強力な怪異と激しい戦いをしたい。
そのためには戦えるようにならなければならない。
故に強くなりたい。
そんな飢えた猛獣のような闘争心が、雑多の本質。
「……とりあえず一人一人に教えてもらえ」
「わかりました、土方さん。……って、誰から教えてもらえれば」
「そうだな……まずは私の魔装を複製し、動きを覚えろ」
「わ、わかりました」
雑多から少し離れ、土方歳三は唱える。
「魔装顕現、和泉守修羅」
次の瞬間、なにもないところから銃身が長い銃が出現。
その銃の銃身には剣のような刃がついていた。
言葉で言い表すなら銃剣だ。
「これが私の魔装だ。能力はあらゆる動きを加速させるというものだ」
「おお~!かっこいい!!」
瞳をキラキラと輝かせながら、雑多は土方の銃剣型魔装を見つめる。
すると土方は目を鋭くした。
「おい、ジロジロ見るな」
「す、すいません!」
慌てて頭を下げる器用雑多。
そんな彼を見て、土方歳三はため息を吐く。
「……とりあえず今から怪異を模した石像と戦うから見ていろ」
土方はパチンと指を鳴らした。
すると床から異形の怪物の形をした石像が現れる。
その石像は四本の腕を生やし、目がない。
「フゥ―……」
土方は銃剣を両手で構え、息を静かに吐く。
そして弾丸の如き速さで突撃した。
石像は四本の腕を振るい、迫りくる土方に攻撃を仕掛ける。
四つの拳を土方は素早く銃剣で受け流し、弾丸で破壊した。
「フゥ!」
土方は一瞬で石像の背後に回り込み、素早く首を斬り飛ばした。
首を斬り飛ばされた石像は砂と化して消滅。
予想以上に石像を早く倒した土方を見て、器用雑多は驚いて目を見開く。
「すっげぇ~……流石は新選組副長だな」
「ボケっとしてないで、さっさと訓練を始めろ」
「は、はい」
器用雑多は慌てて唱える。
己の武器の名を。
「魔装顕現、写鏡腕輪」
次の瞬間、雑多の右手首に鏡が埋め込まれた腕輪が出現する。
「複製」
雑多がそう言うと、なにもないところから銃剣型魔装―――和泉守修羅が現れる。
「ほう。確かに私の魔装とそっくりだ」
興味深そうに土方は、雑多が生み出した複製品を見つめる。
「よし。ならそれで戦え」
「はい。わかりました」
土方がパチンと指を鳴らすと、さきほどと同じ怪物の石像が現れる。
「フゥ―……」
器用雑多は静かに息を吐き、両手で銃剣を構える。
その構えは、土方歳三と同じだった。
「行きます」
床を強く蹴り、素早く突撃する雑多。
そんな彼に向かって石像は四本の腕を振るい、拳を放つ。
迫りくる拳を雑多は銃剣で受け流し、弾丸で破壊する。
土方歳三と比べたら遅い動き。
だが間違いなく彼女の技。
呼吸の仕方も、足の動きも、銃剣の使い方も……全てが土方歳三と同じ。
「シッ!」
雑多は素早く石像の背後に回り込む。
そして……石像の肘と膝の裏すべてに弾丸を撃ちこみ、首を斬り飛ばした。
石像は砂と化して消滅していく。
「フゥ」
石像を倒した雑多は息を吐き、肩から力を抜く。
そんな彼に土方歳三はゆっくりと近づき、問い掛ける。
威圧するような声で。
「おい。最後になんで肘と膝に弾丸を撃った?」
「え、えっとですね……そっちのほうが確実に倒せると思ったからです」
「なに?」
「肘や膝などの関節を破壊することで動きを封じ、敵の首を斬り飛ばす。そちらのほうがいいと思いました」
「……」
土方は目を細めながら、顎に手を当てる。
「……よし、他の奴らからも魔装を複製できるようにして、技を盗み、自分のものにしろ」
「は、はい!」
雑多が慌てて返事をした時、
「器用くん。ちょっといいかな?」
少し離れたところにいた沖田総司が桃髪を揺らしながら、雑多に近付く。
彼女は明るく、ニコニコと笑っていた。
「な、なんでしょう?沖田さん」
「ん~とね。実はお願いがあって」
「お願い……ですか?」
「うん!そう」
沖田は桃色の瞳を怪しく光らせながら、雑多を見つめる。
「私と……戦ってくれないかな?」
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