戦闘狂
「最高でした♪」
はっきりと、そして楽しそうに器用雑多はそう言った。
彼の言葉を聞いて、近藤勇は目を細める。
「初めて命を懸けて戦ってみて、俺は興奮しましたよ。全身の血が熱くなるのを感じました。脳みそからアドレナリンが溢れ出していたのを感じました」
雑多は目をギラギラと輝かせながら、早口で喋る。
「まるでパズルのピースがすべて埋まったような感覚。飢えが満たされたような感覚。本当に……本当に良かった!」
雑多は笑みを深める。
まるで悪魔のように。
「この生きていると実感できるような感覚。もっと味わいたい。もっともっと戦いたい。もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと―――」
「この快感を死ぬまで味わいたい!」
それはある意味、人間が持っていて当たり前のものであり、狂気だった。
人間には闘争本能というものがあり、生存競争において優位性を確保し、種を存続させるための本能的な欲求。
生き残るために必要な欲求。
しかし器用雑多の闘争本能は、常軌を逸していた。
器用雑多の闘争本能は普通の人よりも強く、そのせいでなにも満たされない。
なにをやっても満足感を得られない地獄を雑多は味わったきた。
しかし命を懸けた戦いをすることで、脳内でアドレナリンやドーパミンが分泌され、雑多に快感を与えたのだ。
その快感が雑多の飢えを満たした。
「ああ、これから忙しくなるな。魔装をうまく使えるようにしないとな。他の魔装も複製できるようにしないと。それから怪異を見つけ―――」
まるで危険ドラッグを使用して、忘れることができなくなった薬物依存者のような顔をしていた器用雑多。
彼は両手からむにぃと柔らかな感触を突然感じた。
「え?」
雑多は両手に視線を向け、目を見開く。
彼の両手は鷲掴みしていた。
近藤勇のおっぱいを。
「うおっ!?」
顔を真っ赤に染めた雑多は、近藤勇の胸から慌てて両手を離す。
「やっと正気に戻ったか。やはりおっぱいを触らせて正解だったな。ガハハハハハハ!」
豪快に笑う勇。
どうやら彼女は自分の胸を触らせたらしい。
「な、なにをやってるんですか!胸なんて触らせて!?」
「こうでもしないと、危なかったからな」
勇は真剣な表情を浮かべて、両手で雑多の肩を掴む。
「器用。今のお前は危険だ。他人を傷つける可能性がある」
「!」
「欲望に支配されるな。欲望を制御しろ。そして戦いという飢えを抑えろ」
「で、でも……」
「難しいのは分かっている。人間ってのは、欲望に弱いからな」
勇の言う通り、人間は欲望に弱い生物だ。
お金を大量に欲しいために汚いことに手を染めるように。
異性と性行為して性欲を満たしたいように。
弱者を支配し、強者であり続けようとするように。
だから、
「だからこそ、欲望に負けちゃあいけない!」
真っすぐな瞳で勇は雑多の目を見つめながら、強くそう言った。
彼女は本気で雑多のために言っている。
それを理解しているからこそ、器用雑多は力強く頷く。
「わかりました」
「よし!いい子だ!」
勇はギュウゥゥゥゥと雑多を強く抱き締めた。
おっぱいの間に顔が挟まった彼は、頭が沸騰するような感覚を覚える。
「ちょ、近藤さん!?離してください!」
「ハハハ!なんだ?嫌なのか?」
「い…嫌では」
「おっぱい吸うか?」
「吸いませんよ!?」
<><><><>
風呂場から出た近藤勇は、幹部である三人をとある部屋に呼び出した。
一人は副長である土方歳三。
二人目は一番隊組長である沖田総司。
三人目は三番隊組長である斎藤一。
「よく集まってくれた、三人とも。今日、集まってもらったのは他でもない。器用雑多のことだ」
蝋燭の火で照らされた部屋で、勇は三人に話した。
雑多が魔装を使えることを。
雑多が他人の魔装と技をコピーできることを。
そして雑多が……戦闘狂であることを。
話を聞いていた斎藤は目を大きく見開いていた。
「近藤さん。それ全部……本当ですか?」
「ああ。残念ながらな」
「今すぐアイツを追い出しましょう!!」
斎藤は大声で叫ぶ。
「戦闘狂なんて危険すぎます!新選組の中に爆弾があるようなものじゃないですか!?」
「ダメだ。器用を追い出すことはできない」
「どうしてですか!?」
「危険すぎるからだ。もし放置して雑多が戦闘を求めて暴れたら、多くの被害が出る」
「そ……それは」
「それにアイツのおかげで屯所は綺麗になってうまい飯が喰える。新選組のみんなの士気が上がっている。アイツは新選組に必要な人材だ」
近藤勇の言う通り、器用雑多は新選組に必要不可欠な存在になっていた。
彼が雑用係として働いているお陰で厠や風呂場などが綺麗になり、美味しい食事が食べられるようになっている。
その結果、新選組の者達は元気に働けていた。
「それは……そうですが」
勇の言っていることは全て正しい。
故に斎藤はなにも言えなかった。
顎に手を当てて黙っていた土方は、ゆっくりと口を開く。
「近藤さん。器用を戦いから遠ざけられないか?」
「いや、ダメだ。それでは精神的負荷が溜まって、逆に暴走する可能性がある」
「なるほど……なら適度に怪異と戦わせよう。それと時々、私達の戦闘訓練にも参加させよう。満足はできないが、飢えをマシにすることができるだろう」
「ああ、頼む。あとは……器用の監視役だ。アイツを一人にさせるのは不安だ」
勇が腕を組んで深く考えていると、沖田総司が手を挙げる。
「私がやります!」
明るい笑顔で沖田はそう言った。
「総司……しかしお前は」
「大丈夫ですよ!私ならなんとかできますし、彼の飢えを私なら満たせます。それに器用くんは私と同類ですし」
沖田総司は瞳を怪しく光らせる。
まるで死神のように。
「もしもの時は……私が器用くんを殺しますよ」
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