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発見

初めまして、あるいは再会ですね。僕の名前は綾城あやしろ れんと申します。この一文に目を留め、拙作を手に取ってくださったこと——ただそれだけで、僕は心から感謝しています。言葉では足りないほど、嬉しいです。


さて、自己紹介はこの辺りにしまして……本題へ参りましょうか。

今回お届けするのは、僕の初めてのライトノベル、マンガ以外での初作品——


田舎町・常磐木ときわぎに生きる青年**ヒロト**は、無愛想ながらも町の人々に溶け込む郵便配達員。ある日、役場の片隅で偶然「百年もの間、誰にも届けられずに眠る手紙の山」を発見する。 恋文、別れの通知、謎めいた遺言、叶わなかった夢の断片…… 手紙には、この町で生きた人々の喜びや後悔、消えかけた記憶が詰まっていた。 ヒロトは「届けられなかった想い」を現代に解き放つため、古びた住所を手掛かりに奔走する。 しかし、一通一通を届けるたび、町の歴史を繋ぐ「ある謎」が浮かび上がる。

過去と現在が交差する時、ヒロト自身の人生も、静かに変わっていく——

『忘れられた郵便』

広人は、常磐町ののんびりとした日常をこよなく愛していた。郵便局員として、手紙の仕分けや配達、顔見知りの住民たちとのささやかな会話に喜びを見出し、自分がこの町の縁の下の力持ちであることに誇りを感じていた。しかし、彼の平凡な日常を一変させる「発見」が待ち受けているとは、このときまだ知る由もなかった。


常磐郵便局の木製カウンターに朝日が差し込み、積まれた封筒や小包に黄金の光を降り注いでいた。広人は慣れた手つきで手紙を仕分けながら、作業のリズムに身を任せていた。


「滝本さん、今日の荷物ですよ!」


広人は明るく微笑みながら、きれいに包装された小包を手渡した。


老婦人は目を細めてにっこりと笑った。「いつも迅速で助かるわ、広人くん」


「仕事ですから!」


滝本夫人が帰った後、広人はこの日、地下室の整理を命じられる。


薄暗い地下室は埃まみれの段ボールや古新聞で埋もれていた。広人が箱を運び出していると、ふと視界に奇妙なものが飛び込んだ。


書類の山に半ば隠された、小さなドア。


好奇心に駆られた広人は書類をどかし、軋む音と共にドアを開けた。中には秘密の部屋が現れ、壁際の棚には無数の黄ばんだ封筒が雑然と積まれていた。消印には**大正十二年**の日付が読み取れるものもあった。


「……ここは一体?」


震える指で封筒に触れる。百年近く誰にも届けられなかった手紙たち。受取人の存在さえ不確かなこれらの文面に、広人は胸を締め付けられるような感覚を覚えた。


夕暮れの町広場。広人は古い手紙を握りしめ、ベンチに腰かけていた。たまたま通りかかった司書の桜が、彼の様子に気づいて声をかける。


「広人くん、それ何かしら?」


広人は目を輝かせて振り向いた。「郵便局の地下室で見つけたんだ。百年近く放置されていた手紙だよ」


桜が封筒を覗き込む。「中身は読んだの?」


「まだ……でも、たとえ受取人が亡くなっていても、家族に届けるべきだと思う。ここには、誰かの人生の断片が詰まっているんだ」


桜は優しく微笑んだ。「ならば、今こそ本来の居場所へ導くときかもね」


広人は静かに頷いた。明日から彼は、単なる郵便配達員ではなく、過去からの伝言者としての旅を始める。常磐町に眠る無数の物語が、一枚の古い封筒ごとに解き放たれていく


常磐町トキワマチは朝の光に包まれ、石畳の道はまだ露で湿っていた。鳥たちが屋根の間を飛び交い、柔らかなさえずりが空気に満ち、町のパン屋から漂う焼きたてのパンの香りが風に乗っていた。ここは静かで、語られずにいる物語が潜んでいるような、そんな平和な場所だった。


広人は郵便袋のストラップを調整しながら、通りを歩いていた。彼の指は、袋の中にしまわれた古びた封筒に触れた。これらはただの手紙ではなかった。過去の名残、郵便局の倉庫の奥深くに忘れられていた未配達の手紙たち。それぞれが歴史を秘め、まだ聞かれていない声を持っていた。


彼が袋に手を伸ばすと、一通の手紙が目に留まった。封筒の端は擦り切れ、黄ばんでいて、優雅な筆記体で宛名が書かれていた。「**ベネット・エミ様、楓通り25番地**」。消印には「大正十二年」と記されていた。


広人は静かに息を吐き、その日付を見つめた。ほぼ一世紀前の手紙だ。彼は指でインクの跡をなぞり、周りの町を見渡した。常磐町は長い年月を経て変わっていたが、記憶や感情といったものは永遠に残るものだ。


「これが最初の手紙だな」と彼は思った。「さあ、どこへ導かれるのか見てみよう」


楓通りの家はこぢんまりとしていて、庭には色とりどりの花が植えられ、小道に沿って並んでいた。広人はドアに近づき、ノックした。しばらくすると、銀色の髪をきちんとまとめた老婦人がドアを開けた。彼女の目は温かく、静かな知恵が宿っているようだった。


「おはようございます」と彼女は優しく微笑みながら挨拶した。「どういったご用でしょうか?」


広人は笑顔を返し、封筒を差し出した。「ベネット・エミさんですよね?はじめまして、私は広人といいます。常磐町の郵便局で働いています。最近、古い手紙のコレクションが見つかりまして…この手紙はあなた宛てのものです」


エミの視線は広人の手にある手紙に向けられ、一瞬、時間が止まったかのようだった。彼女の表情は柔らかくなり、手がわずかに震えながら封筒に触れた。


「まあ…」と彼女は息をのむように呟いた。「この手紙をまた見ることができるなんて思いもしませんでした」


彼女は一歩下がり、広人を中に招き入れた。「どうぞ、お入りください」


リビングルームは居心地が良く、アンティークの家具や本棚が並び、そこには一生分の物語が詰まった本が並んでいた。壁にはセピア色の写真が飾られ、過去の瞬間が保存されていた。広人はエミの向かいに座り、彼女が慎重に手紙を開封するのを見守った。彼女はまるで壊れやすい封印を破るのをためらっているかのようだった。


「この手紙は…」とエミは懐かしそうに語り始めた。「私の亡き夫、ヘンリーからのものです。彼が戦争に行く前に書いてくれた手紙です」


広人は彼女がパーチメントを優しく広げるのを見つめた。インクは薄れていたが、言葉はそのまま残っていた。時を超えて凍りついたメッセージだ。


エミは息を整え、声を出して読み始めた。


「最愛のエミへ、もしこれを読んでいるなら、私はもう遠くに行ってしまったということです。何が起こっても、私のあなたへの愛は決して色あせることはないことを知ってほしい…」


彼女が読み進めるにつれ、広人の心の中には過去の光景が浮かび上がった。若い兵士が制服を着て、木製の机に向かい、一つひとつの言葉を丁寧に書き記す姿。揺れるろうそくの光、ページに込められた彼の感情の重み。時を超えて運ばれる約束の甘く切ない希望。


エミの声は手紙の終わりに近づくにつれて震えた。彼女は胸に手を当て、目に涙を浮かべた。「彼は帰ってきませんでした」と彼女は囁いた。「でも、これ…これはまるで彼の一部がようやく戻ってきたような気がします」


広人は喉の詰まりを飲み込み、深く感動した。「あなたに届けることができてよかったです」と彼は心から言った。「このような手紙がまだたくさんあります。どれも聞かれるべき物語を持っていると思います」


エミはうなずき、手紙を丁寧に折りたたんだ。「あなたは特別なことをしているのよ、広人さん。これらの手紙…それはただの言葉ではありません。過去と現在をつなぐ架け橋なのです」


エミの家を出ると、広人の心には任務の重みが深く刻まれた。それは重荷ではなく、使命として。


一通の手紙が届けられた。まだ無数に残された手紙たち。


彼は袋の中の次の封筒を見つめ、年季の入った名前と住所をかすかに読み取った。そして、静かに息を整え、語られるのを待つ次の物語へと一歩を踏み出した。

お疲れ様でした!最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

実は、僕は執筆中に必ず「カレーライス」を食べるという変な癖があります。カレーのスパイスが頭を刺激して、物語のアイデアがどんどん浮かんでくるんです。たまに辛すぎて涙を流しながら書いていることもありますが……それもまた楽しい思い出です(笑)。

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