9話 ~新任教師~
教室の扉がゆっくりと開いた。
新しい担任はどんなものかとソワソワしながら待っていた生徒たちだったが、それが2時間以上も続いたことで、さすがに気力を大きく減退させ、誰もがぐったりとしている。
長身の男の顔がにゅっと教室の中に姿を現した。誰も何も言わない静寂の中、ぼさぼさの髪をボリボリかきながら体を引きずるようにしてゆっくりと教壇に立った。
「あー、新しく担任になったボルビックだ」
なんだかフラフラしているし呂律も回っていない、そして異常なほど顔が青白いしアルコールの臭いがする。目の下の隈と無精ひげを整えれば、もしかしたらイケメンなのかもしれないという雰囲気は感じさせる顔だ。
「しょじぞー、諸事情により今日の授業は全部体育だ。授業の内容は、えーとどうするかな………走れ」
いかにも今思いつき増したみたいな感じで話す。
「走ることはスポーツでも何でも全部の基本だからな、何をするのにも役に立つ。将来冒険者とか探索者になりたいって思ってるやつでも料理人、商人、学者になりたいやつとかも役に立つぞ。働くってことは体力勝負だからな、わかったな?」
頭をボリボリ書きながら何だかそれっぽいことを言っているのだが全く心に響いてこない。
こいつ………。
セトにはこの担任の様子に見覚えがあった。駄目な大人が何度も何度もかかる病。
こいつ、まさかとは思うが二日酔いなんじゃないか?
体育?
真面目に授業をしたくないから生徒たちを走らせるつもりなんじゃないか?
頭が痛くて吐きそうで、しゃべるのが怠いからただ見ているだけで言い体育を選んだんじゃないか?出会って一分の教師を疑いたくは無いがそうとしか思えない。
「あー具合悪りぃ、あー飲み過ぎた………」
正解だった。
他の生徒たちからの視線を感じる。多分俺がこの担任の事が気に入らなくて喧嘩になるかもしれないと思っているのだろうが、そんなことはしない。
体育は立派な授業だ。
あの極悪教師の場合とは全く違う。そもそも俺は平和主義者、気に入らないからという理由で暴力に頼るような野蛮な性格ではない。イギリス紳士のようにスマートな大人なんだ。
「うぅ………」
ルーナの呻き声が聞こえる。見ると二日酔い担任教師と同じくらいに青い顔をしている。
ルーナは運動苦手だからなぁ。
王子という事で小さい頃から勉強や礼儀作法などありとあらゆることを習わされている彼女だが、一番苦手なのは体を動かすことだ。
ぷにぷになので筋力は無いし、魔法が使えないから魔力でカバーすることも出来ない。おまけに闘争心も無いので、せっかく一流の剣術家や格闘家が教えてくれても、なにひとつまともに習得できないのだ。
教室を出るときにボルビックと目が合った。
この男、間違いなく魔法使い。
そして強い。
全身を覆う白い湯気のような靄がそれを表していた。
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