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80話

 


 青い魔方陣を踏んですぐ、酒に酔った時の頭がくらっとする独特の感覚がした。


 ボルビックにとってはいつもの感覚。驚くことは無いし恐れることは無い。しかしながら初めて魔女の塔にやって来たものにとっては違う。ここの魔方陣は普通よりもその感覚が強く、そして深いのだ。


 獣の臭いがした。


「ルーナ、大丈夫だから落ち着くんだ!」


 視界が開けた途端に現れたのは、広い室内に見渡す限りいる魔物の群れだった。


 最悪。


 これはダンジョン探索の中で不運とされる「魔物部屋」。


 勝てない、という意味で言ったわけでは無い。長年探索者をやって来たから魔物部屋に当たったことは何度もある。


 気がかりなのは今日初めてこの塔に挑むルーナだ。初心者はちょっとしたことですぐにパニックを起こす。だからまずはゆっくりと探索をしながら出てきた魔物を一体一体確実に仕留めたかった。そうすれば段々と落ち着いてくるはずだ。


 それなのに初日の初回で魔物部屋。こんな組み合わせは滅多くない。


「うおーーーーー!!」


 ボルビックが見たものは、スライムを投げ捨て魔物へ向かって突進していく黄色い髪の少女だった。


 その手にいつの間にかある赤いナイフ。まるで突きをそのまま縮めたような形をしている。いや、今はそんなことどうでもいい、とにかくあいつを止めなければ。


「「ルーナ待て!」」


 ボルビックの叫びと重なったセトの声。見れば投げ捨てられたセトも即座に体勢を立て直しルーナの背中を追っている。


 速い。


 ルーナも速いがセトも速い。素早さはスライムが持つ特性、セトは自分自身に付いてそう語っていた。


 ブルーゴブリンの首が鮮血と共に跳んだ。


「止まれや!」


 ルーナは走りながら斬った。そしてすぐに近くにいたもう一体のブルーゴブリンの首を刎ねた。


「メテオインパクトぉーーー!」


 ボルビックよりも一足先に追いついたセトはイエローオークに向かって体当たりを喰らわせた。


「ぶもおおーーーー!」


 この中で一番強いイエローモンスターを選んで爆発させた。これはセトの良い判断だ。


 ルーナの動きは想像以上に素早く滑らか。イエローモンスターよりも力の劣るブルーモンスター相手ならば苦戦することは無いだろう。これなら何とかなりそうだ。


 そう思いつつボルビックもイエローオークの首を刎ねた。


「うおーーーーー!!」


 ルーナの雄叫びが響く。


「一体どうなってるんだ、セトの時と全く同じじゃねぇかよ」


 セトを初めてここに連れてきた時にも、魔物を見た途端に暴走して魔物に突っ込んでいった。いくらいつも一緒にいるからってこんなとこまで一緒じゃなくていいだろう。


 文句が止まらないボルビックだったが、その体はAランク探索者にふさわしく、一切の無駄な動きも無く魔物の群れを殲滅していく。


 すごいな………。


 王族は特別な魔法使いである。


 鮮血の中を舞うように切り裂く少女はその伝承に恥じぬ動きを見せていた。





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