78話
「ウサギ、今日はセトとルーナがケーキを持ってきてくれたぞ」
ボルビックがベッドで寝ている少女に向かって優しく話しかけた。
ここはボルビックの住む一軒家。室内は物があまり無いが、テーブルや椅子などは割と質の良さそうなものが揃っているので、貧乏と言うわけでは無くただたんにシンプルな方が好きなのだと分かる。
「似てないな」
「は?」
「丸顔で可愛いな、細目無精ひげ教師とはえらい違いだ」
「ウサギは可愛い可愛いたったひとりの俺の妹だ、もし万が一手を出したりしたら輪切りにするからなスライム!」
「おー怖っ」
ボルビックの鋭い視線を軽く躱したセトがニヤニヤしながら言った。
「それで?」
「ん?」
「何が俺に用があってわざわざ家にまでやって来たんだろ?早く言えよ」
椅子に座ってすぐにボルビックが言った。
「ずいぶんとせっかちだな」
「気を悪くするなよ。今まであまり人を家に読んだことが無いんでな、どこか落ち着かない分なんだ」
「そうか、実は魔女の塔での護衛を頼みたいんだ。学校の方もそろそろ落ち着いてきたころじゃないかと思ってな」
「やはりそれか」
「今度はルーナも一緒に連れて行くつもりだ」
「おいちょっと待て、大丈夫なのかよ。王子が魔女の塔を探索するなんて聞いたことが無いぞ」
「いや、外には言ってないだけで実はけっこうあるんだ。だから心配しなくても大丈夫だ」
「そうなのか?」
ボルビックが首をひねる。
「レベルアップのためにあそこは一番手っ取り早いからな」
「それはたしかにそうだが………」
「ルーナの実力に関してはこの前見てもらったから分かるだろ?」
「そりゃあそうだが、道場での練習と本番とは大違いだ。とくに魔女の塔みたいなダンジョンだと尚の事、それはセトだってわかるだろ?」
「まあ確かに、俺の初めての魔女の塔探索は合格とはとても言えないできだったからな」
「私なら大丈夫です!」
ルーナがいつになく強い口調で言い切った。
「魔女の塔は本当に危険な場所だ。一度入ってしまったら嫌でもダンジョンのルールに従わないといけない。普通よりも魔物も強力だしーーー」
「私だって魔法使いになったんです」
ボルビックが驚いた顔でルーナを見る。
「私に内緒にしてふたりだけで魔女の塔に行ったって聞いた時すごく悲しかったんです。どうして私の事は連れて行ってくれないんだろうって、私のこと足手まといだと思ってるのかなって。確かにいまの私は弱いですけど、頑張っていれば強くなります。私にはわかるんです。だから今度は絶対に一緒に行くんです」
王族は皆、特別な魔法使いである。子供の頃から何度も聞かされたその言葉を、ボルビックはいま確かに実感していた。
魔法使いに覚醒して、ほんの僅かの日数しか経っていないはずで、実戦経験もほとんど無いだろう。
しかしこの迫力。
この迫力は確かに力のある魔法使いのものだった。
「わかったよ」
「本当ですか?!」
「セトが了承しているという事は、それなりに確信があるから言っていることなんだろうさ。二人だけで勝手に行かれても迷惑だ、俺も付いて行くよ」
「ありがとうございます」
「ただし、ダンジョンの内部では俺の指示にちゃんと従う事、いいな?」
「はい!」
ルーナはいい笑顔で頷いた。
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