76話
「力を抜いて………」
黄色くて淡い光で体を包み、微笑みながらそういう黄色い髪の少女は天使様に見えた。
「はい………」
奴隷少女のリアムは緊張のあまりかすれた声しか出すことが出来なかった。
柔らかくて暖かい感触。もう少しで触れそうな距離であてがわれた両手から、どこか懐かしい気持になった。
失われていた記憶が蘇る。きっとこれは赤ちゃんの頃にお母さんに温かいお風呂に入れてもらっていたときの記憶だ。リアムはいま眠ってしまいそうなほど深いリラックス状態となった。
「もう大丈夫よ」
ルーナの声が聞こえてリアムはふっと現実世界に戻って来た。どれくらい時間が経っただろう、きっとそこまで長い時間では無かったはずだ。頭の中が蕩けるような安らぎだった。
「ほら………」
頬に触れた優しい手。
触ったらいけません、そう言おうとしたけれど私を見つめるルーナ様の瞳は優しく私を見てくれていて、私が考えていることなんか全部お見通しだから、何も言わなくて大丈夫と言ってくれているような気がした。
私は震えた。
ルーナ様の指が頬を滑らかに流れたから。
魚鱗病。
ジェイムズさんは私の病名をそう言っていた。肌が魚の鱗のようにボロボロになって何もしていなくても剥がれおちて、時に痒くてたまらなくなる病気。
服を着る時にもその鱗の様なぎざぎざが繊維に引っ掛かってガサガサと音を立てる私の肌。そんな私の肌が………。
「え………」
思わず自分で自分を触ってみる。
「ね?」
天使様の優しい微笑みが私を包む。
「私の特殊魔法「運命の慰め」は怪我や病気を治してくれる魔法。これを授かることが出来たのはきっとリアムのことを本当に治してあげたいと思ったから。だからリアム、あなたにも感謝します」
リアムは触れた。
自分の皮膚に何度も何度も触れて確かめた。頭の先から足の先まで皮膚という皮膚を全て触れて確かめた。
滑る、肌が滑る。
こんなことは夢ですら見ることが出来なかった。
リアムは泣いた。
私のためにわざわざ来てくれて、診察してくれて、他の人にうつる病気じゃないと教えてくれたジェイムズさん。
痒くて夜眠れなくてボーっとしていたらいつの間にかやってきて話し相手になってくれたネズミのダグラス。
私が昔に起こした罪を独特な言い回しで慰めてくれたスライムのセト。
そして一目見た時から天使様だと思ったルーナ様。
ここは暗くて臭い地下の牢屋の中なんかじゃない。私のために用意してくれたこのお家の窓からは朝の光が燦燦と降り注いでくれる。
美しい。
わたしみたいな人間がこんなにも美しい世界にいる。こんな私のためにみんなが連れてきてくれた美しい世界。
今までで一番大きな声で、今までで一番大きな涙を流していつまでもいつまでも泣いた。
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