72話
私は苦しくなった。
息を吸っても吸っても体の中に入ってこない感じがして、頭の血管だドクドク鳴って気持ちが悪くなってきた。
「ビックリさせて悪かったな、お前を迎えに来たんだ」
むかえにきた?
「この人がダグラスさんの言ってたリアムさんなの?」
天使みたいな女の子が言った。嫌だ、見ないで、こんなに汚くて醜い私のことを見ないでほしい。
「そうです。今はあんな隅っこでまん丸くなってますけど、将来間違いなく強くなります」
「なんだか似てる………」
「店主、リアムはどんな人間なのか教えてくれよ」
「ネズミが喋ってる………」
「店主!」
「あ、ああすいません。………ええと、リアムは義理の父親であるナクシタを殺した罪で奴隷になりました。けれどそれには事情がありまして、ナクシタは転職を機に仕事が上手くいかなくなり、酒に溺れるようになり、家族に暴力を振るうようになりました。リアムは家族のために義父を殺してしまったのです」
「違います!あの時は家族の為だなんてこと思っていませんでした。私はただあの人が憎くて、毎日毎日お酒を飲んでお母さんに暴力をふるうあの人が憎くて、怖くて、それで殺したんです!あの人が寝ている時に花瓶で何度も何度も頭を殴りつけて殺したんです!」
叫んだあとでリアムはえずいてえずいて、吐瀉物を床にまき散らしてしまった。
「リアム、俺たちはお前のそういう事情も全部分かった上で迎えに来たんだ」
嗚咽する肩に乗ったネズミが優しく語り掛ける。
「どうですかルーナさん、セトさん、俺はこんなルーナを迎い入れたいと思っています」
「だ、ぐらす………」
そんなの無理だよ。こんな私を誰が迎い入れてくれるっていうんだ。
「どうだろうルーナ………」
今まで一度も聞こえていなかった声が聞こえる。
「もし俺がこのリアムと同じ立場だとしたら、同じように義父を殺していたかもしれない。いや、多分俺の場合はもっとひどいな、きっと俺は殺したとしても罪悪感なんか感じることは無かったはずだ。そう考えればこのリアムはそこまでの極悪人とは思えない」
「うん………」
「このふたりには深い絆が芽生えているようだし、もし二人が望むのなら外の世界に連れ出してやって、働いてもらっても良いと思うんだがどうだ?あとはリアムの主人となるルーナが決めてくれ」
気になって顔をあげてみれば、喋っているのはスライムだった。
「私もそれでいいと思う………二人がそう望むなら」
「よっしゃ!」
耳元で鳴るダグラスの声。
「良かったなリアム!どうだ、俺と一緒に外の世界に出ないか?」
今日もいつもと同じように暗くて臭い日が始まるのかと思っていた。
それなのに………何が起きているのか分からなくて、頭が上手く回ってくれなくて、なんて言ったらいいのか分からなくて、私は声をあげて泣いていた。
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