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63話

 

 高級喫茶店には穏やかなクラシック音楽が流れている。マホガニー色をした家具が配置された店内は、コーヒーを飲みながら新聞を読んだりするのに適した空間だ。


 そんな店内の片隅のテーブルの上で、口の周りをプリンでべとべとにしたネズミが胸を張っている。


「あー美味かった。ああそうだ、オイラとしたことが挨拶がまだでしたね。名前はマイケル、悪魔です」


「あくま!?」


 ルーナが座っていた椅子から跳び上がった。


「まあまあそう固くならなくても大丈夫です、人間にとって悪魔は恐ろしい存在だと思いますけど、オイラは優しい悪魔ですから」


「やさしいあくま?」


「そうですそうです。悪魔と言っても色んな性格のやつがいて、全員が全員争いが好きってわけじゃないんですよ。俺みたいに全世界が平和であれば良いなって、毎日思っているよなやつもいるんですねこれが」


「そうなんだ………」


「マイケルだっけ?」


 張りのある声でスライムが聞く。


「そうですよ、セトの兄貴」


「誰が兄貴だ」


「プリンを食わせてくれたんだから兄貴ですよ」


「意味が分からんけどまあいい………お前は人間と仲良くしたいから俺たちのテーブルにやって来たわけか?」


「それももちろんあるんですけど、それだけじゃありません。実はオイラは契約相手を探しているんですよ」


「契約?」


「そうです。こう見えてオイラはかなり力を持った悪魔です。なのでオイラの力を使えば、兄貴たちは人間の世界の王になることだって難しいことじゃない」


「王?ずいぶんと大げさな話だな」


「大げさなんてことは全く無いです。オイラの話を聞いてもらえればそれが分かると思います」


 ネズミは自信ありげに笑った。


「セト、駄目だよ!」


 急に大きな声を出したルーナだったが、ここが静かな喫茶店だという事を思い出して声を潜める。


「悪魔との契約なんて身を滅ぼすだけよ。そういうことを書いてある本を私達は今まで何冊も読んできたでしょ?」


「確かにそうだな」


「いやいや、本なんてもんは大体にして大げさに書くもんですよ、だってそうじゃないですか?悪魔と契約して一生楽しく暮らしましたなんて面白くもなんともないでしょう?」


「なるほどな、それも一理ある」


「やっぱり兄貴だ、分かってくれると思ってましたよ」


「セト!」


「話を聞くだけなら問題は無いだろう?悪魔と話が出来る機会なんてそうは無いんだから」


「でも………」


「それじゃあその詳しい内容を教えてくれるか?タダでな」


「わかりました………」


 少し薄暗い店内にあるマホガニー色のテーブルの上に立つネズミの表情がルーナには少し怖かった。





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