61話
ボルビックはAランク探索者である。
魔法を持たない人間の限界とされるランクがCランク。超人と称されるのがBランク。そして完全防備の軍人およそ40人ほどの戦力をたった一人で持っているとされるのがAランク。
ボルビックは特殊魔法「氷」の使い手である。
特殊魔法とは土、水、火、風の四大魔法とは違ったさまざまな性質を持つ魔法の事で、氷は水の上位互換であり攻守両面に置いて優れた力を持っているとされる極めてレアなもの。
セトは思う。
いまのボルビックを果たしてたった軍人40人如きで止めれるものだろうか。武器を持ち、防具を纏った黒づくめの侵入者10人ほどが不意打ちで氷の弾丸「魔雹散弾射」を喰らった。
腕が飛び、足が飛んだ。
それだけの威力。
当然ながら侵入者達は大パニックとなり襲撃者の存在を探す。もっとも自分の体が吹き飛んだ者たちはその限りでは無かったが。
ゆっくりと斜面を降りてくるボルビックは氷霧を纏っている。
別に意識したわけでない。ボルビックが持つ氷の魔力によって空気が冷やされてできた、ただそれだけ。しかしながらそれは敵から見れば神々しさを感じるほどに恐ろしい光景。
パニックになった襲撃者たちは魔銃を打つ。狙いなど定まったものではない。さらに襲撃者たちを絶望させたのは、当たるはずのない銃弾をボルビックが圧倒的速度で躱したから。
その足元は凍っている。
まるでスケートでもしているかのように体ごと高速で移動したことにより、銃弾は当たらないから見当違いの方向に撃たれたへと変化する。
魔銃の出現によって魔法使いは時代遅れとなった。雑誌は最近よくそれを好んで取り上げている話題だが、それは本当に正しいのか。その答えは一歩ずつ近づいてくるボルビックを目の前にした侵入者たちが知っているだろう。
恐慌に陥った襲撃者の中でただひとりだけ、平常を保っているものがいた。
ゴーレム。
土魔法により全身を纏い全長3m程となっている正体不明の存在。襲撃者と共にいながらもどこか異質。襲撃者の中で最も強いとセトが感じている者。
魔雹散弾射によって弾け飛んだ外装がさらにバラバラと足元に落ちていく。内部の人間にまで致命傷を与えたのか?
ボルビックは一瞬そう思ったが、それが間違いであることはすぐに分かった。
外装が剥がれ落ちた末に現れたのは彫像のような姿。一瞬身構えたボルビック、しかしその直後に見たのはクラウチングスタートで走っていくそいつの姿。
「放っておけ!」
スライムの大声がして我に返る。そうだ、セトの予想によればあいつは襲撃者たちに雇われただけのやつ。戦況が不利だと思って逃げ出したという事はもう帰っては来ないだろう。
今一番大切なのは生徒たちを襲撃者達から守ること、逃げる敵を追っていってそれを蔑ろにすることは愚かなことだ。
「見ろ!あそこにいるのは王子ルーナだぞ!」
「本当だ、王族があそこにいるぞ!」
「あれを人質にすれば全ては計画通り、俺たちの勝ちだ!」
「イケーー!」
窮地に陥った襲撃者たちは丘の上にいるルーナを目指して突進する。追い詰められたものというのは得てして不可能なことを可能と思ってしまう。
逃がさない。
学校の教師なんか自分には合っていない、そう思っていた。けれど毎日顔を合わせていればいやでも情が移る。だから絶対こいつらに勝ちを拾わせるわけにはいかない。
それにスライムがいる。
万が一自分が打ち漏らしたとしても、そこにはルーナを守る世界最弱の魔物がいる。たった一度、魔女の塔に入っただけで格段に力をあげたあいつがいる。
ボルビックは極めて冷静に襲撃者たちを殲滅していった。
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