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58話

 


「ルーナはなにを題材にするんだ?」


 生徒たちのざわめきに満ちた大きな図書室の中でエイトが話しかけてきた。


「雷にしようかな」


「雷?」


「私雷好きだから」


「へーそうなんだ」


「廊下から悪口が聞こえてきて泣いてるときとかに雷の音が聞こえたら、すぐに窓に行って外を見てたんだ。体に響く位に大きな音が鳴ったら嬉しいし、音が鳴ってから光るまでの時間を数えたりしたら、いつの間にか辛かったことを忘れてるの」


「うーん」


「どうしたの?」


「なんかルーナも大変そうだな」


「え?」


「なんでもない」


「ルーナは雷が好きなのか?」


 足音と声が聞こえて振り返ると、そこには新調したオーダーメイドスーツを着た新任教師がいた。


「はい、好きです。ボルビック先生はどうですか?」


「時と場合によるな。家の中にいる時には好きだけど、外で仕事なんかしてる時には最悪だな。やっぱり怖いしな」


「怖い?」


「いつ自分に落ちてくるか分からないだろ?」


「そうなんですね、私はそんなこと考えたことも無かったです。外にいる時に雷が来ても嬉しいですよ。なんか心がワクワクします。もっと来いもっと来いと思っちゃいますね。全身ずぶ濡れにはなりますけど」


「ふーん、なるほどなぁ………」


 顎に手を当てながらルーナをじっくりと眺める。


「どうかしました?」


「いや別に………」


 その時、図書室のスピーカーのスイッチが入った時のブッン、という音がした。


「緊急事態発生!緊急事態発生!当校へ向かって正体不明の武装集団の接近を確認した、全校生徒は速やかに体育館へ避難せよ。これは訓練ではない。繰り返すーーー」


 耳を塞ぎたくなるほどの大音量に図書室は騒然とする。


「はいみんな落ち着いて」


 ボルビックの冷静な声がざわめきを刈り取った。


「エイト」


「はい!」


「お前が先頭になってみんなを体育館に連れて行くんだ、わかったな」


 いつものへらへらした表情とは明らかに違う。図書室全てを制圧するほどの圧力はAランク探索者の発するもの。


 普通であれば恐怖で動けなくなってもおかしくは無いのだが、その圧力はこの人のいう事を聞いていれば大丈夫だという安心感を感じさせた。


「わかりました。先生は?」


「俺はちょっくらその侵入者とやらを懲らしめてやらないといけないんだ。安心しろ、何人こようが俺が何とかしてやる」


「さすがはAランク探索者だな」


 スライムが落ち着いた声で言うと、生徒たちから安堵の声が広がっていく。


 授業を通じてボルビックの戦闘能力の高さは全員が感じている。あれほどの実力者が味方にいるのだからこれ以上心強いことは無いと誰もが思った。


「むしろチャンスだな。スーツが思ったより高くて金欠だったんだ、ここで頑張れば昇給は間違い無しだ」


 ボルビックはニヤリと笑った。





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