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57話

 


 教室の扉がゆっくりと開いて入って来たのは第14王子ルーナ。


 一斉に視線が集まる。


「?」


 一瞬の間をおいてから、「勝ったー」とか「負けたー」とか「破産だ」とか「耳揃えて全財産だしな」とか「一週間だけ待ってください、そうすれば金が………」とかの声が湧き上がった。


 居心地の悪さを感じながら、軋む体を押し込むようにして教室の中に入って、近くにいたエイトに聞く。


「ねぇエイト、なんか教室の雰囲気変じゃない?」


 学校に来て最初の頃を思い出してちょっと嫌な気持ちになる。あの時は皆がルーナを王族としてしか見ていなかった気がする。


「バレたか」


「バレるよ、なに?」


「いや、実はな賭けをしてたんだよ」


「賭け?」


「ルーナが今日学校に来るかどうかっていう賭け」


「なにそれ!?」


「だってルーナっていきなり学校を休む時が結構あるからさ、それを賭けにしたら面白いんじゃないかって思ってさ」


「ちょっと!誰がそんなこと言いだしたの?」


「オレ!」


「なにしてんの!そういうの止めてよね」


「駄目なの?」


 ぽかんとした顔のエイト。


「いくら私が休みが多いからって賭けの対象にされるのは嫌だよ」


「そうかーそれは気付かなかったな、ごめんよ。嫌な思いをさせるつもりは無かったんだよ。今日で終わりにする」


「おねがいね」


「約束する」


「ところで何を賭けてたの?」


「屋台の食券」


 クラスメイト達が次々に持って来る食券がエイトの手の平の上に積み重なっていく。


「儲け儲け。これでしばらくはタダ飯が食えるぞ」


 ルーナはため息をついた後、関節を曲げないようにしながらゆっくりと自分の席に着く。


 これが一番体が痛くないという事を学んだ。いつもよりも結構時間の余裕をもって学校に来たのに、遅刻するかもしれないと思って焦った。


「なんだよその歩きかた、めっちゃ面白いんだけど!」


 エイトという少女は人見知りしないし元気いっぱいだ。もちろん声も大きいので、その声に釣られてクラス中の視線がルーナに集まった。


「大きい声出さないでよ」


「オレはいつもこんな感じだけどな、体調悪いのか?」


「筋肉痛」


「なーんだ、ただの筋肉痛か………」


 この言い方にはちょっと頭にきた。


 今日どれだけ苦しい思いをしてここまで来たか。筋肉痛って言っても軽いやつから重いやつまで色々あるんだ、そしてこれはとんでもない最上級の筋肉痛なんだと言いたかった。だけどたぶん言っても伝わらないだろうと思ってあきらめた。


「うぅ………」


 理解されない苦しさからルーナのうめき声が出たところで始業チャイムが鳴り、生徒たちが自分の席に着席した。


「おいーーーっす」


 上機嫌な様子で入って来たのはボルビック。新任教師とは思えないほどすっかりクラスに馴染んでいる。


 性格は適当な感じだが、相談する生徒には熱心に答えてくれるし、前任者と違って理不尽に怒ったりもしない。さらにはAランク探索者ということで、戦闘系の授業の時には圧倒的な動きを見せてくれるのであっという間に人気になった。


「あれ?何その格好、いつものヨレヨレの服は?」


「あーなんだ、気付いちまったかお前ら」


「なんか雰囲気違う」


 ボルビックは教壇の上でクルっと一回転して止まった。


「ゴルバチョフ製オーダーメードスーツだ」


「知ってるー!それってすんごく高いお店のやつじゃないの?」


「オーダーメイド!?」


 マイケルジャクソンのようなポーズを決める。


「ふふふふふ………最近ちょっとした臨時収入があったもんでね、思い切って買っちまったよ。どうだ、イカしてんだろ?」


「かっこいいー!」


「えーなんかホストみたいじゃない?」


 生徒たちから様々な声が上がる。


「今日の授業はマラソン大会だ」


「「えーーーーー!?」」


 不満の声が噴出した。世界が変わろうともマラソン大会というのは圧倒的不人気科目、そしてルーナは石像のように固まっていた。


「そのつもりだったんだけど、これが汚れちまったら嫌だから読書発表会に変更だ。各自筆記用具をもって図書室に移動しろ」


 歓声が上がる。


 その中で一番大きな声をあげていたのはルーナ。まるでオリンピックで金メダルを取ったみいなガッツポーズだった。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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