54話
静謐な空気に満ちた道場に木刀を持って立つ二人の男女がいる。
こいつは駄目だな。
微動だにせず正眼に構える男は溜息をつきたくなるのを堪えた。魔女の塔に挑むにふさわしい実力を持っているかどうか見てくれ、そう言われてきたものの、わざわざ試す価値すらも無い。
「ふぇ………」
へっぴり腰で声を震わせ体を震わせ立つ少女。木刀を持って立つのが精いっぱいで風が吹けば倒れてしまいそうでもある。
「こわいよぉ、セト………」
その気持ちは理解できる。魔法を持たない人間は修練を積んだ魔法使いの前に立つ、ただそれだけで恐怖を感じる。それだけ魔法使いが持つ力は強い。
「それじゃあ試験は不合格だな。俺が魔女の塔に行っている間、ルーナは大人しく待っていてくれ」
どこか投げやりな調子でスライムが言った。
「それはヤダ」
「だったら頑張れ」
「くぅ………」
疑問。このスライムは一体何を期待しているのだろう。家族同然に仲が良いのは分かるが、どう贔屓目に見てもルーナが戦えるわけはない。
「先生」
「ん?」
「魔武器を使ってもいいですか?」
予想外の言葉。
「使えるのか?」
「たぶん………」
「知っているとは思うが、魔武器というのは悪魔の魂を宿した武器。普通の人間だと触ることさえ危険なんだぞ」
学業優秀のルーナが知らないはずは無いと思いつつ一応言う。
「前に一度使ったことがあるから大丈夫だと思う」
スライムが言った。
「どういうことだ?」
「実は今日来てもらったのはそれを試したいからなんだ。ルーナはちゃんと自分で制御できるはずだと言ったが、それが本当かどうか」
「何を言っているのかよくわからん」
「やってみればわかるだろう。暴走した時の準備もしてきたから心配ない」
「まあいいか、魔武器を使ってもいいぞ。ただし、危ないと思ったらすぐに手を離すんだぞ?」
「わかりました」
木刀を壁にかけて戻ってきたルーナは何も持っていなかった。
「お前は木刀で良いのか?さすがはAランク探索者だな」
スライムがニヤニヤしながら言っている。
「も、もちろんだ………」
しまった。持って来た愛刀に替えようと思っていたが、ルーナの動きから目が離せなくてただ突っ立っていた。
「本当に良いんですか?」
「ああ………」
大丈夫、いくら魔武器とはいってもその性能はピンキリで、ほとんど普通の武器と変わらないようなものの方が多いのだ。
「好きにかかって来るといい」
自分は教師であり大人であり、そしてAランク探索者でもある。慌てふためいて武器を取りに行くなんて姿は晒したくない。
若干の嫌な予感を感じつつも、つい格好をつけてしまった。
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