52話
朝の空気は澄んでいて湿っぽい。小鳥たちが喜びを表現するかのようによく通る元気な声を震わせている。
魔女が作ったと伝えられている魔女の塔の周辺にも続々と人が集まってきている。
兵士や探索者らしき人に混じって一般人の姿も見える。ここは世界一危険なダンジョンであり、観光名所でもある。
サグラダファミリアに似た塔には埋め尽くすと言って良いほどの彫刻が施されている為、王都に来た立ち寄るのが定番となっている。
僅かな音。
塔の根元にある黄色い魔方陣にボルビックとスライムが姿を現した。観光客たちは一斉に振り向いて声をあげ、木々にいる鳥たちはそれを聞いて飛び立った。
「朝だぞ」
「朝だな」
ボルビックが答えた。
「俺は言ったよな、ここにはルーナに内緒で来ているから夜の内にも王都に戻りたいって」
「すまん、すっかり忘れていた」
「何をだ」
「魔女の塔の中では時間がデタラメになるんだった。体感よりも外の時間が進んでいたりいなかったり」
「そういえば何かで読んだような………」
「魔女の塔の内部は違う時空にある可能性があるとかっていう説があるんだが良く分からん。とにかく魔女の塔は時間の目算が付かないから時間の余裕があるときにしか入ったら駄目なんだ」
ため息をついたスライム。
「まあいいじゃないの、たかが5階層とはいえ、ちゃんと戻ることは出来たし、宝も手に入ったんだからさ。最初はどうなるかと思ったけどレベルも上がったんだろう?次は10階層にチャレンジできるくらいの実力は十分にあるって太鼓判押してやるよ」
ボルビックは失態を帳消しにしようとしているかのように、今回の探索のメリットを捲し立てた。
「戻ろう………」
「そういえば俺も朝から職員会議があったような気がする。やばいな、一回遅刻してるから今日は絶対に遅刻できない。急に眠くなってきたけどゆっくり寝る時間は無さそうだな」
集まった観光客の人波を割くようにしてふたりは早足で去っていった。
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ルーナは待っていた。
最初はトイレに行ったのかと思っていたセトがずっと戻ってこないので何か事件事故に巻き込まれたんじゃないかと心配でずっとずっと起きていた。一睡もせずに待っていた。
涙ながらにルーナは語った。
魔女の塔に行くなら行くで、どうして私に何も言ってくれなかったのか。それが寂しいし、悲しいし、悔しい。
危険なのは分かるけど、わたしだって魔力を使えるようになったんだ。それなのにどうして、どうして、どうして………。
喋っているうちに涙があふれて来て、ついには泣いてしまった。どうして私を置いて行ったのか、私は邪魔者なのか、悲しい、辛い、悔しい。
ルーナは喋りつづけた、泣き続けた。
スライムは何度も何度も謝った。
次は絶対にルーナも一緒に行くことを約束した。
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