5話 ~極悪教師3~
教室に並ぶ机を踏み台にしてスライムは跳ぶ。
目指す先は愛しき妹を泣かせた極悪非道教師。遅刻?退学?全部どうがでもいい。
「なんだスライム!最弱の癖に私に逆らうというのか!いいだろう!ここで目にもの見せてやる!」
男の体から靄が立ち昇る。
魔力。
この男間違いなく魔法使い。この学校は只勉学に励むための場所では無く魔法使いを育成するための場所でもある。その為には強い武力を持った魔法使いの教師が必要であり、このゴーダという男はそのためにここにいる。
魔力は筋力を大きく凌駕する力を持つ。だから一般人が魔法使いに喧嘩を売ることはご法度だ。法律の問題じゃない、ただたんに勝てるはずが無いから。
最弱?
確かにスライムはこの世界で最弱の魔物と言われている。だけどそんなもの知ったことか。俺は妹をイジメる奴を許さない。それだけだ。
「クソ!」
勢いよく振るわれる教鞭。
強い破裂音を発生させた鞭のような細く硬質な棒。細いだけに撓るその速度はパンチなんかとは比較にならないほど速い。
「くんらぇーーー!」
目の前まで来たそれを細かな跳躍で躱し、教卓の上でバネのように体を縮めた。
スライムに手も足も無いが柔軟な体が生み出す速度は人間に劣るものではない。
目指すべきは悪党の尖ったその鷲鼻一点のみ。
メテオインパクト!
「ふぐぅわぁーーー!!」
大げさな音を立てながら後頭部からぶっ倒れる極悪教師。
水風船のようにプニプニしたその体に魔力を通せば硬球のような硬度を持つ。メテオインパクトとはつまり、魔力でガチガチに強化した体当たり。
「ハッ、ハッ、ハッ………貴様ぁあああああああ!」
息を荒げながら、鼻を押さえながら立ち上がり叫ぶ悪党。ぽた、ぽた、ぽた、と教室の床が点々と血が落ちていく。
「この俺がスライムなんかに鼻血………?」
さすがは戦士、普通の人間ならばとっくに戦意喪失している所を、顔をあげ叫んだ。
「ゆるせぇねぇえ!ぶっころぉおおすうううう!!」
教壇に当て掛けてあった大ぶりの剣を鞘から引き抜いた。ガタガタで傷だらけで、使い込まれている本物の剣。
悲鳴を上げ、教室の隅に固まる生徒たち。
「セト!」
大丈夫だルーナ、お前はそこにいろ。
「ああ!」
女子生徒の驚いた声がした。
「はぁ!?」
極悪教師の困惑した声。床を染める赤黒い液体がどんどん増えていっている。
「な、な、なんだこりゃーーー!?」
鼻、だけではない。目から、口から、耳から、悪党の顔の穴という穴全てから血がドクドク流れて行く。
破裂。
噴水のように噴き出した血液。
「ぼふぁーーーー!」
白目を剥いた悪党は再び後頭部から床に崩れ落ちた。
メテオインパクトとは敵の体の内部に己の魔力を浸透させ、爆発させることでダメージを与えるという効果を持っているのだ。
「セト!」
涙に濡れる歓喜の顔で両手を広げ走ってきてくれたルーナ。勝利を祝福しに来てくれたのだろうか。
「え!?」
俺はそれを躱して極悪人の元に跳ぶ。そして泡を吹いているその体をドンドコドンドコ踏みつける。
まだ終わっていない。
油断させるために死んだふりをしているだけかもしれない。どうせ退学になるかもしれないのならどれだけやっても同じ。それなら徹底的にやるべきだ。
俺の妹を虐めたやつはただじゃおかない。
踏む、踏む、踏む。
ルーナに止められるまで、スライムは徹底的に男の体を痛めつけた。
そのあまりの徹底ぶりによって、教室の中ではなぜか拍手が起き始めていた。
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