49話
魔方陣で転移した時の、酒に酔った時の様な頭がくらっとする独特の感覚がした。
世界の限られた場所にしかないと言われるこの転移魔方陣には今まで何度も載っているが未だに慣れることは無い。時間にすればほんの数秒、もしかしたら一秒くらいなのかもしれないが良く分からない。
体を少し揺すりながら全身をリラックスさせる。探索者になった初めての日から繰り返してきたルーティーンだ。
獣の臭いがした。
「最悪だ………」
視界が戻ったと同時にボルビックは言った。
広い部屋中に大量の魔物。
ダンジョン探索の中で不運とされる「魔物部屋」。本来は階層の中に散らばっているはずの魔物が一つの部屋に集結していて、しかも数が多い。
勝てない、という意味で言ったわけでは無い。長年探索者をやって来たから魔物部屋に当たったことは何度もある。
気がかりなのは、今日初めてこの塔に挑むスライムだ。初心者はちょっとしたことですぐにパニックを起こす。だからまずはゆっくりと探索をしながら出てきた魔物を一体一体確実に仕留めたかった。そうすれば段々と落ち着いてくるはずだ。
それなのに初日の初回で魔物部屋。こんな組み合わせは滅多くない。学校ではふてぶてしく生意気だったスライムが、ここに来てからは人が変わったかのように覇気がなかった。
「何も問題は無いから大人しくしていろ」
「うおーーーーー!!」
ボルビックの声は天井の低い室内にかき消された。
肩掛け鞄からずぼっという音がして、飛び出した黄色いスライムが魔物に向かって突進していった。
「おい待て!」
慌ててその後ろを追いかけたが速い。飛び跳ねる姿はどこか可愛くもあるのだが、その移動速度は全くかわいくない。
「くそっ!」
「うららららーーーー!」
大声を張り上げながらゴブリンとオークの間をすり抜け突っ走っていく。
「セト!止まれ!」
「ぐあらがぐらーーー!」
訳の分からない叫び声をあげながら、声も聞こえないほど興奮している。当たり前のことだが、こうなった魔法使いは死にやすい。
魔力というものは心が落ち着いた状態で操るのが最も効率よく扱うことが出来るからだ。
「メテオインパクトぉーーー!」
大きく跳び上がったスライムが体当たりを喰らわせたのは、この魔物部屋の中で一番目立つ赤い色をした巨体のオークだった。
「ぐもももも!」
顔面に直撃したにもかかわらず、微動だにせずその体当たりを受けたオークは驚いたような顔をした後で笑った。この程度の攻撃取るに足らん、そう言わんばかりだった。
「ごも!?」
一歩下がった。自分でも自分がなぜ動いてしまったのか分からない、足が勝手に動いたことに驚いている様子。
「ぼもももおお!」
頭が膨れた。
「ぼぼぼぼぴーーー!!」
膨れて膨れて膨れて、そしてまた一歩後ろに下がって、さらに膨れた頭が爆発した。
「破壊拳か?!」
相手の体内に自分の魔力を通し、爆発させるという魔力を使ったすでにる攻撃の中でも上級に位置する技。
頭部を失ったレッドオークの体がゆっくりと倒れていく。
「死ね死ね死ね死ねーーー!」
「だから待てって言ってんだろ!!」
スライムが次々に魔物を爆発させていく中、ボルビックも負けじと魔物を斬り倒していく。
「こんにゃろがーー!」
ところでこいつの耳には届かない、分かっていても苛立ちと叫びを止めることが出来なかった。
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