48話
雲の無い夜空に向かってそそり立つ恐ろしく重厚な塔はまるでサグラダファミリアのようだ。
「魔女の塔………宝物ひとつで一生遊んで暮らせるようになると言われるダンジョン。その反面世界一探索が困難なダンジョンとも言われ、年間に何千人もの人間が帰らぬ人となる」
「怖気づいたか?」
新任教師ボルビックがニヤリと笑った。
「そうかもしれない」
「おっ!」
「なんだかうれしそうだな」
「嬉しいというより面白いな。生意気なスライムが恐怖で震えていると思ったら笑っちまうな。ここがお前の墓場になるかもしれないんだ、よく拝んどけ」
ボルビックはカッカッカッカと豪快に笑った。
「死か………」
「さっきまでと様子が違うな………どうする?今日の所は止めておくか?」
「何でこんなに何も感じないんだろうな」
「は?」
「ここが危険な場所だという事は分かっているんだが、まるで映画でも見ているみたいに何も危機感を感じないんだ。怖すぎて精神がおかしくなっているのかもしれない」
巨大な塔を見ながら感情を感じさせない声で言う。
「なんだかちょっと心配になって来たな………ちょっと脅しが過ぎたか?」
「ボルビックは今までに何人も初心者を連れてこの塔の中に入っているんだろ?」
「そうだ、それが一番安全で儲かるからな」
「こんな入口でで逃げ帰るやつはいるのか?」
まだ塔を見上げながら言う。
「俺に仕事を依頼する3分の1くらいの奴はそうだ」
ボルビックは笑った。
「そういうやつは大体散々大口を叩いていたやつだ。まあこっちとしては一番儲かるんだがな」
和ませるために笑い話をしたつもりだったが、スライムはにこりともせずにただただ魔女の塔を眺めている。
「もしお前が止めておくっていうんだったら次の機会ってことにしといてもいいぞ?俺の経験じゃ、逃げ出した奴はもう二度と戻ってこないけどな」
「行くよ」
「そうか」
ボルビックは笑った後でスライムの体をぱしぱし叩く。
「安心しろ、今日の所は俺の鞄の中に黙って入っていればいいんだ。それだけでお前は前よりも強くなって家に帰れる」
「「盗み盗り」って言ったか?自分は戦わないで近くにいるだけで経験値を貰うやつの事だ」
「恥ずかしがることは無い。そんなのは貧乏人の僻みみたいなもんだからな、出来る金があるのならそうやって強くなるのが一番安全なんだ」
「ボルビックもやったのか?」
「もちろんよ!だから気にすること無いぞ、俺も全く気にしていないからな」
「わかった。それじゃあ安心して盗み盗りさせてもらうよ」
スライムは肩掛け鞄のなかにすぽんっと入って、ボルビックは巨大な青い魔方陣の上に乗った。
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