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20話

 


 美しい刺繍の施された長い絨毯が続いていく廊下を気品を纏った親子が歩いて行く。ナバラ15世の公妾でありルーナの母でもあるジャンヌ・ポワソン、そして第14王子ルーナ。


 たまたまそこにいた使用人たちは廊下の隅で頭を下げて彼女たちが通り過ぎるのを待つ。これはこの世界において当たり前のことではあるが、物心ついた時から見慣れた光景ではあるがルーナは未だにむず痒さを感じてしまう。魔法使いでは無い自分が………、と。


「あなたの仕業?」


 真っ直ぐに進行方向を見ながらポワソンが問う。


「前回はちゃんと会話することもできなかったルーナが、王を相手に討論を仕掛ける。これは明らかにおかしいわよね?」


 その問いの対象がルーナが抱えている黄色いスライムであることは明白だった。


 セトは答えない。言葉を発することが出来ないので答えることが出来ないから。


「あの交渉は罠、違いますか?」


 さあどうだろう。


「あなたが何をするつもりなのかは知りませんが、きっとこの国にとってはあまりよろしくない事が起きるでしょうね。けれど私はそれを知りながらあえて止めなかった。それもあなたにとっては計算の内だったのかしら?」


 そりゃあそうだ。


「いま笑いましたか?」


 止めるはずが無いと分かっていた。この女は賢い。政治に興味が無く毎日遊びまわっていると噂の王よりも、恐らくは賢いのだろう。


 だから分かるはずだと思った。国にとっては損なことだとしてもルーナにとっては得だと思えば必ずこっちの味方をしてくれると思っていた。


「笑ったという事は私の考えている通りという事ですね」


 王と会って話をする機会がある。そして誕生日に宝物庫から好きなものをひとつだけ貰うことが出来る。


 これを知った時から狙っていた。この機会を生かし自分たちにとって最大限に利益を得る必要がある。


 だから今まで暇さえあればルーナと何度も討論の練習をした。ひとつだけ宝物を手に入れるのでは足りない。今後の自分たちの安全を考えればここで大勝負を打つ必要がある。


 王の答えは全て事前に想定していた範囲内だった。けれど問題として考えられるのは、練習と本番は違うという事。いざ王を目の前にすれば頭が真っ白になることも考えられた。


 けれど途中まででも討論を持って行くことが出来れば、あとは母であるポワソンが必ず味方をしてくれると確信していた。


 そして想定していた通りの結果を持って帰ることが出来た。宝物をひとつだけ手に入れることが出来るから、ルーナが一度に抱えることのできる分だけ宝物を手に入れるへと変更させることが出来た。


 ルーナが魔法を使えないという事を逆手に取った条件。


 魔法使いでないから強力な魔道具を持ち帰ることは出来ない。魔法使いでないから重いものを持ち帰ることは出来ない。


「あなたはルーナの味方ですよね?」


 笑ってしまった。


 もちろんそうだ。きっと俺は生みの親である貴方よりもずっとずっとルーナの味方なのだ。


 ガラス窓の外に見える薔薇園が美しい。





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