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19話 ~父との交渉~

 


 広い大理石の室内に戸惑いと困惑の気配が満ちてき始めた。


「宝物庫から持てる分だけの宝物を持って行きたい?いくらなんでもさすがに強欲がすぎるんじゃないの?」


 笑いながら、しかしどこか卑屈に王が答える。


「そうでしょうか、私はむしろかなり控えめだと思います」


 そう答えたのはナバラ15世の公妾でありルーナの母でもあるジャンヌ・ポワソン。


「それはどういうことだい?」


 エメラルドグリーンのドレスを見事に着こなし、姿勢よく立つ女性に向かって王は問う。


「思い出してみてください、ルーナは魔法が使えないんですよ?」


「あ………」


「ご存じかとは思いますが、宝物庫に収められている中で価値が高い物と言えば強力な力を持つ魔武器の類です、そうですね?」


「そうだね」


「けれど強力な魔武器というのは強い力を持つ反面、使う者を選びます。ルーナのように魔力を持たない一般人にとって、魔武器は持つことすら容易ではありません」


 そこにいる者たちの視線がルーナに集まる。魔法を使えない王族である者に対する侮蔑、そして同情、憐憫。


「そうだったね、すっかり忘れていたよ。ひどい時には意識を失ったり精神障害を起こしたりするんだっけ?」


「その通りです」


 ポワソンの表情は息子を褒める母のよう。


「つまりルーナが言う所の「自分が持てる分だけの宝物が欲しい」ということは、実際の所は力の弱い宝物をいくつか持って行くという事になるとは思いませんか?」


「なるほどねぇ。そもそもルーナは好きなものを好きなだけ持って行くことは不可能なのか」


「力の弱い宝物は実は貴族の恩賞としても使いにくい、そうではありませんか?」


「たしかにねぇ………そんなものを与えたら逆に相手を怒らせてしまうかもしれない。自分たちが国のために命懸けで魔物を討伐したのに、こんなもので済まそうとするのかってね」


「ですのでそういった物は宝物庫に残りスペースを圧迫し続けます」


「宝物庫の整理にもなるか」


「そして魔力を持たず非力なルーナでは一度に持ち運ぶことのできる数というのはたかが知れている、違いますか?」


「そうだねぇ………」


 王はルーナに目をやるが、その体は子供特有の頼りなさで力仕事が出来るようにはとても思えない。魔力は筋力を遥かに凌駕する力を持つから、魔法使いであれば話は違うが………。


「わかった、それでいいよ。ルーナの言う通りにしようじゃないか」


「しかし王!」


「いいんだ、かわいい娘の誕生日だ。これくらいの願いは叶えてあげようじゃないか」


「ですがさすがに宝物をいくつも渡すというのはさすがに………」


「もう決めた、これ以上余計なことを言うな」


 声をあげた側近を冷たい視線と言葉で圧した。


「ありがとうございます」


 ルーナは丁寧に頭を下げる。


「よくがんばったね」


 王の表情は一転し、非常に優しい。


「前に会った時は緊張していてぎこちなかったのに。今日の喋り口はまるでお母さんみたいだったよ。ずいぶんと成長したじゃないか」


「はい。がんばりました」


「うんうん、これからもがんばるんだよ?」


「はい」


 しばらく見つめ合った後で、王は席を立ちルーナは静かにゆっくりと息を吐いた。


 そして母であるポワソンと目を合わせアイコンタクトを交わす。そのあとで隣にいる黄色いスライムとアイコンタクトをして、ルーナも退室していった。


 計算通り………。


 ルーナと共に去っていくスライムが、悪い顔の下でそうに考えているとは、その場にいる者たちの誰も知らなかった。





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