婚約者が急に散歩に誘ってきたんですが、返り討ちにしてさしあげますわ!
「マーガレット、散歩に行かないか?」
婚約者のアキレス様に誘われた。珍しい。何か企んでる?
アキレス・シュナウザー侯爵令息。私の婚約者。金遣いが荒いシュナウザー家の次男。アンダルシア伯爵家に婿入りする予定の男。彼には懇意にしている女性がいると噂されていた。
おかげで面白がった女たちに言われ放題。我が家では厄災を齎す男と呼ばれていた。我が家としては彼のような不良物件は不要。なんとか婚約を解消したいと思っていた。
向こうから仕掛けてくるなら好都合。私は誘いに乗ることにした。勿論万全の用意をして。
アキレスは馬車で私を迎えにきた。やっと婚約者と向き合う気になった息子に喜んだ父親がお膳立てしてくれたらしい。
気の毒な侯爵。息子の本質が見えていない。
植物園に連れてこられた。園内を散歩しようと言う。接待モードのアキレスはなかなかに案内上手だった。説明が分かりやすくて丁寧。休憩のタイミングも最適。一瞬別人かと疑った。思いの外楽しい時間が過ごせた。
急にアキレスがソワソワし始めた。そろそろ仕掛けてくるのか?来た!破落戸召喚。いやいや、分かりやす過ぎる。
王立植物園に入場料をわざわざ払って来るわけない。ほら、案の定うちの者が動く前に職員に連れ出された。ここの職員は騎士だよ?あらら。あからさまにガッカリするアキレス。隠す気はないのか?この場合想定されるのは二つ。
私を襲って傷物にする。
襲われている私を助けて感謝される。
どちらにせよ失敗ですね。分かりやすく元気がない。もう終わり?と思った矢先、アキレスが顔を急に上げた。
「マーガレット、ちょっとお手洗いに行ってくる。ここで待っていてくれ」
ここ?周囲に何もありませんが?喫茶室とか向こうにあったよ?アキレスは過去一の速さで居なくなった。
周囲を見ると、人が疎だ。
「なるほどねぇ」
思わず声が出た。これは私を一人で放置して、事件を起こし、難癖を付けて婚約破棄に持っていこうとしている?
本気? 稚拙すぎる。私はアキレスを見限ることにした。後を尾けてもらっていた者たちに合図を出す。アキレス捜索班とマーガレット保護班に分かれて、あっという間に帰宅。
アキレスは街の飲み屋に居た。仕掛けた事が後ろめたく、酒が必要だったようだ。
「アキレス様」
私は声を掛けた。
「うわぁぁー!」
そんな、お化けみたいに……私を消すつもりだったってこと?
この後私は無事婚約解消、アキレスは男性用更生施設に入った。
誤字報告ありがとうございました!