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第1話 可愛い子なので旅をします①

「(どどどどどどうしよう〜!!)」


荷物を引く馬車の音、走って遊ぶ子供たちの足音、談笑する人達の話し声。

騒がしくも微笑ましい街の日常。で、あるはずが、私からしたら全部が悪魔の笑い声に聞こえてしまう。


「そ、そうだ!帝兵国と聖国の情報を集めなきゃいけないんだった」


危ない、つい人混みの恐ろしさで目的を忘れてしまっていた。

他の国に行くから、その為の情報収集に来たんだった。


・・・誰に?どうやって?


ううう、私にはやっぱり無理です師匠!

知らない人に物を尋ねるなんて、そんな難しい事できっこないし。

でも、それじゃあ師匠が私を信じて託してくれた最後のお使いが叶えられなくなってしまう。

一体どうしたら。。。


考えろアステル。私は大賢者サピエンティアの一番弟子なんだから。絶対に何かいい作戦を思いつくはず。


「そ、そうだ!パン屋さんに話を聞きに行こう!」


そう、知らない人に話しかけられないのならば、知っている人に話しかけに行けば良いのである!!

ふふ、またひとつ賢くなった、、、!




「はーい毎度あり!また買いに来てよー!」


パン屋の前には、大笑いをしながら太い腕でパンを詰めている女性が立っている。


「(い、いた。パン屋のワッカさん)」


自然に、いつも師匠と話していたみたいに話しかけよう。大丈夫、軽く世間話をするだけ。


「あ、あああ、あのっ!」


うわーっ!本当に私はどうしてこうなんだろう。

ワッカさんは巨体を大きく揺らしながら振り向き、こちらを覗き込む。


「んんん?」


「ひ、ひぃ、、、」


思わず情けない声が出てしまう。

よく考えたら私なんかを覚えてくれてるわけないんじゃ?

私は師匠と違って人と話せないし、人助けもしてないし、なんで覚えてもらってるなんて思い上がっちゃったんだろう。


帰ろう。帰って薬草を愛でながら一生を終えよう。



「おお!アステルちゃんじゃないかい!」


「ひゃいっ!」


良かった。覚えてもらってた!


「珍しいねぇ1人で街に来るだなんて。お使いかい?」


「は、はい。そんな感じです」


「それで、何をお求めで?昼食にもおやつにも、ピッタリのパンがいっぱいだよ!」


「あ、はい。えっと、あの、じ、じゃあサンドイッチ1つください。」


「はいよ!」


やばいやばいやばい。どうしよう。

聞きたいことがあるって言わなきゃ。

せっかく会話が続いてるのに話が終わっちゃう。


「あ、あのっ!」


「うん?」


「帝兵国と聖国が今どんな状態かって、ご、ご存知ですか?」


「うーん、最近はこの街から出てないからねぇ。あんまり他国の情勢には詳しくないんだ。悪いね」


「そ、そうですか、、、」


唯一の頼みの綱が消えてしまった。

これから一体どうすれば。

肩を落としていると、グイッと力強く引き寄せられる。


「!?」


「そんなに暗い顔しなさんな。どうしたんだい?おばちゃんに何か話してごらんよ」


え、笑顔が眩しい。なんてかっこいいんだろう。どうしてこの人を相手に怯えていたのか、過去の自分を責めたくなる程だ。


「あ、じ、実は、聖女様と剣聖様のお弟子さん達に会いに行かなきゃいけなくて」


「はー、それもお使いかい。アステルちゃん1人にそんな遠くに行かせようとするなんて、あの爺さんも酷だねぇ」


「国について聞いてた理由は分かったよ。

まあ、もし行くってんなら距離的にも無難に聖国かねえ」


「あ、実は、私もそう思ってたんです。聖国って言うくらいだからみんな優しそうだし、聖女様のお弟子さんとなら、きっとお友達になれそうだし。ふふ、友達。」


友達。友達!なんて素敵な響きなんだろう

初めての友達が出来たら何しよう。

ピクニックかな、それともお菓子作りとか?妄想が膨らんで止まらない。

どうしよう、ついに楽しみになってきてしまった。

まだ私にもこんな感情が残ってたなんて。

早く出発を──────


『号外!!号外!!聖国で教皇の悪事が露見!聖女派によるクーデターが勃発!!内乱で凄いことになっているらしいぞ!!!』


・・・。


「・・・らしいけど、どうするんだい?」


「み、皆優しそう、だしぃ、お友達に、なれるかも、だしぃ、、!」


「半泣きになるくらいならやめときな。それに別に帝兵国も悪いところじゃないよ。なんてったって私の生まれ故郷だしね」


「良くも悪くも皆元気いっぱいでね。騒がしいけど良い国だよ」


どこか物寂しそうに語りながら、ワッカさんはニカッと笑う。


「そうだ、ちょっと待ってな。そうと決まればこれを渡しとかなきゃね」


一体何を持ってくるんだろう。

考えがまとまらないうちに、ワッカさんはドン!と音を立てて大きな袋を置いた。


「あ、あの、これは、、、?」


「あたしの特製サンドイッチ5日分だよ!帝兵国までは遠いからね。しっかり保護の魔法もかかってるから、腐ることはないから安心して持っていきな!」


「あ、はい。分かりました。えっと、お代は、、」


「何言ってんだい!お代なんていらないよ」


「そ、そういう訳にはいきません。物にはちゃんと対価を払えと、師匠に言われています」


「それを言うなら、これがあたしからの”対価”なんだよ」


「?それはどういう、、」


「前に火事が起きたことあったろ?あん時は、あたし達じゃもうどうにもならなくてね。皆諦めてたんだ」


「それを止めてこの街を救ってくれたお礼さね」


確かに大きなお家が燃えている所を見つけて消火しに向かったことはある。でも、


「でも、あれは師匠が消火してくれただけで私が何かしたわけじゃ無いです。私の初級水魔法では、あの大きさの炎を消すことはできませんでした」


あの時の事は今でも思い出す。

街の人達が鎮火を願ってるのに、私の魔法では火は弱まらなくて、どんどん火は他の家に燃え移っていって、その時の皆の視線が、、、!


「何言ってんだい。皆あんたに感謝してるんだよ」


「・・・え?」


「あんたが迷わずに魔法を使ってくれたおかげで、あのじいさんがその魔力に反応して飛んできてくれたんだからね」


「自分じゃあ解決出来ないと分かっていながら、それでも助けに来てくれたあんたの勇気のおかげで、誰も人死が出なかったんだ。感謝したってしきれないよ」


「ッ!!」


「そんな、私なんか、半人前で。1人じゃ、何にもできないのに、感謝なんて、」


目頭が熱くなって声が震える。

私に、感謝してくれている人が居る、、?


「あら、あんた泣いてんのかい。悪いね、そんな湿っぽい空気にする気は無かったんだよ」


「いえ、大丈夫、です」



人と話すことも難しくて、使える魔法も少ない私だけど。

ちゃんと人の役に立てるんだ。立ててたんだ。




師匠の言う通り、こんな私でも、本当になれるのかもしれない。


師匠みたいな英雄に。

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