ep.6 王族と晩餐
「ノエル様。今夜はどこに泊まるおつもりで?」
「何も決めていませんね。」
ロコットは手を叩いた。
「それなら迎賓館に行かれてはいかがですか?あそこは国賓が泊まる場所なので設備もいいですし。」
「そうだな。ついでにティリス達を連れて行こう。ノエル様に会わせるのもいいかもしれん。」
(な、何か勝手に話が進んでる?!)
「ノエル様、いかがいたしますか?」
「え、えっと、じゃあ、その迎賓館?に行きます。」
パァァァと効果音がつくくらいの笑顔になった二人。
(ダメだ頰が緩んじゃう。)
「では迎賓館の者を呼ぶので少々お待ちください。」
(初対面なのにえらく懐かれたなこりゃ。)
数分後に迎賓館の人間が来た。
「ノエル様。私ウェスタードの迎賓館館長をしているスメラギでございます。」
「は、はい。」
「陛下。ノエル様は私がご案内するのでご公務にお戻りください。」
「そうね。早く公務を終わらせなければ、」
アリアンとロコットは部屋から出た。
「では、向かいましょうか。」
(フィリス、宿の老婆、エドワルド、国王夫妻、この人たちはウチに秘めた情熱があるタイプか?個性的な人間が多いと国が長く続くんだな。)
王宮内にある迎賓館に着いた。
(随分と大きい建物だな。あの宿の3倍くらい、見た目は、王宮には劣るが随分豪華だな。金かけてそう。)
「中へどうぞ。」
迎賓館の中は王宮と大差がなかった。
(王宮と比べて少し温かみがある雰囲気だな。壁や床。天井の色が暖色系で綺麗だ。)
「こちらが今回ノエル様がお泊まりになるお部屋でございます。では私はこれで。何かあればご連絡を。」
スメラギは去っていった。
「なんか昨日とは待遇が違うみたいだな。」
大きなキングサイズのベットに一人横になった。
(フラガラッハに国交の話もしなきゃいけないし、やることが沢山あるな。大変だよ全く。)
少しの間目を閉じたノエル。
〜夢の世界〜
「ノエル。起きなさいノエル。」
ノエルは夢の世界にある二人かけのソファーの上で目覚めた。
「んぁ、なんですか女神サマ。」
「目を擦らないでください。腫れますよ。」
「女神サマは浮腫とは関係ない世界を生きているんでしょう?」
「なんの話ですか?」
「…ごめんなさい。ちょっと疲れてました。」
「あなたは睡眠の必要がないのだから横になる必要はないでしょう?」
魔人は睡眠を必要としない。
「精神的に疲れるんですよ。僕は無敵でもないし、最強でもない。ただの“普通”の魔人ですよ。」
(普通、ねぇ。何を持ってして普通とするのやら。)
「ウェスタードの内情も知ることができましたし、結果オーライですよ。国交のヤツも進みますし。」
「フラガラッハですね。あなたから連絡するんですか?」
「そうに決まっているでしょう。僕しかできないんですから。」
「頑張ってくださいね。」
「他人事、いや他人か。」
「エアリオスには残ってもらはないと困ります。そこのところ、頼みますよ。」
「はいはい。フラガラッハには起きたら鳩を飛ばします。恐らくこの後この国の王女王子に会いますし、いろいろ大変です。」
「下手に動いたら承知しませんからね。」
「分かってますって。じゃあ、僕は行きますよ。」
ノエルは再び夢の世界にある2人かけのソファーで寝た。ティアは寝たノエルの隣に座り頭を撫でた。
「あなたには辛い運命を背負わせました。どうか、誰か愛してくれる人間が見つかりますように。」
目が覚めたノエル。
「フラガラッハに話を通しておかないと、」
ノエルはフラガラッハに鳩を送った。
「これで良いだろ。」
扉が叩かれた。
「ノエル様。お食事の準備ができました。」
「分かりました。」
ノエルは部屋の案内をした侍従と共に食堂へ向かった。
「ここが食堂です。中に陛下と王女、王子殿下がいらっしゃいます。くれぐれも粗相のないように。」
「分かりました。」
大きい扉が開かれた。
中にはアリアン王とロコット王妃、そして4人の若者がいた。
「ノエル様。こちら右からティリス、ルイン。俺とロコットを挟んでマーランとディラです。」
黄枯茶の肌に瑠璃紺の長髪下ろしなのがティリス。薄卵色の肌に藍白の短髪なのがルイン。薄卵色の肌に瑠璃紺の短髪がマーラン。黄枯茶の肌に藍白の長髪一つ結びがディラ。
(親の個性を引き継いだって感じの見た目だな。)
「はじめまして。エアリオス王国から来たノエル・アザリンスです。」
最初に口を開いたのは国内産業担当のマーランだった。マーランは懐から紙を出した。
「ノエル様。こちらが陛下から頼まれていた魔力が込められている作物のリストです。」
林檎をはじめとしたバラ科の果物と柑橘系の果物など、果物系が多かった。
(果物、ねぇ。野菜で唯一入っているのは人参のみ...まぁそれはどうでも良い。果物が多いとなると紅茶類が増えるだろうな。)
「これらの果物で回復薬は作れるのでしょうか?」
「一個一個に込められている魔力が微量なので濃縮にすれば作れますよ。先ほどお出しいただいた紅茶に使われていた林檎であれば、10個で一本の低級回復薬。20個で一本の中級回復薬。40個で一本の上級回復薬が作れます。効率は悪いですがね。」
マーランの隣に座っていたディラが言った。
「私が統制する軍隊には少数ですが魔人がいます。魔人は皆回復魔法が使えるので、強いて言うなら低級回復薬が欲しいです。」
次にティリスがいった。
「回復薬の市場はあれど、需要量は多いですが供給量が少ないのが現状です。ウェスタードで回復薬の生産ができれば利益はほぼ独占できるでしょう。」
「ウェスタードにとっては益しかない、ということですか。まあ作るか作らないかはあなた方次第でしょう。」
「そうですね。ではそろそろ夕食を食べましょうか。」
アリアンが侍従に合図を送った途端奥から料理が続々出てきた。
(凄い量だな。)
「作った後で申し訳ないのですが食べられないものはありませんか?」
「ないですね。なんでも食べられるので。」
(さっきから金融を担当?してるルインとかいう王子喋ってないな。なんなら睨まれてる。)
「何か、ありましたか?」
「い、いえ何も。」
(前触れなしで話しかけないで!お兄さんびっくりよ!というか何。僕の隣には誰もいないし、向かい側には王と王妃、王女王子ズがいてもう圧迫面接のソレじゃん。)
心の中ではかなり参っていたノエルだった。
「父上から、ノエル様は隣の新興国エアリオスから来たと聞きました。これからエアリオスをどうするおつもりですか?」
「ディラ王女殿下。それは、僕から解答しかねます。あくまでも僕は使い。そこら辺はフラガラッハ王に直接聞かないと分かりません。」
(理想郷を創るとしか聞いてないってティアも言っていた。つまりは良い国ってことだと思うけど、分からないんだよな。)
「そう、ですか。私は軍事省長官。そちらの動き方次第で軍の動き方も変わってきますので、できれば分かり次第教えて頂きたいですね。」
「承知いたしました。」
ノエルは目の前の食事に手をつけた。
(見た目通りの味、だな。照りがあるものは濃い味、野菜類は薄味。バランスが偏らないように作られているだけマシ、か。それはそうだろうね。食事のせいで王族が体調でも崩したら首が飛ぶのは侍従だ。)
ノエルは過去にフラガラッハの食事に毒を仕込ませた侍従が地下牢送りにされたのを思い出した。
(確かメシを作ったやつが毒を仕込んだったっけ。毒味係が気づいて良かった。って、嫌なこと思い出しちゃったな。)
ノエルは気づいていなかった。何者かが自分を監視していることを。