ep.11 皇帝 フォニア・リーシェリウス
出てきたのはエランより少し背が高い薄い蜂蜜色の肌に青紫の長髪ポニーテール一本結びのエランより少し肉付きがいい女性。
「私は外におります。また何かあればご連絡ください。」
エランは部屋に出て扉のそばについた。
「で、ノエルとやら。シリウスから話は聞いている。どうも国交を結びたいらしいな。」
「は、はい。」
「内容はこちらが不利になるものばかりと聞いているが、書状を見せてはくれないか。」
ノエルは懐から先程シリウスに渡した書を出した。
「読ませてもらおう。」
(ゴクリ)
「.........アイツ昔から成長していないな。これではまるで子供同士のお遊びでないか。」
「フラガラッハ王から陛下は旧友と伺いました。本当なんですか?」
「旧友といえば聞こえはいい。ようはただの腐れ縁だ。私の父がフラガラッハの師匠だから向こうが勝手に旧友と言っているだけ。剣の腕や魔法の腕は私に勝つことは一回もなかった。だから少しでも上に立とうとこの内容で国交を持ちかけたんだろう。魂胆が見え見えだ。阿呆らしい。」
(身も蓋もない。)
「いつか国を創るとか言っていたことは覚えているが本当にやるなんて思っていなかったぞ。昔からカリスマ性“だけ”はあると思っていたが本当にやるだなんて思っていなかった。やる時はやるが詰めが甘すぎる。こんなんじゃいつか操られて国が滅びるぞ。神に頼るなんて、頼ったところで出来ることなんてほんの一握りなのに。馬鹿なヤツだ。」
「フォニア帝は無神論者と聞きました。理由を、お伺いしても宜しいですか?」
「理由、ねぇ。」
フォニアは少し考え込んだ。
「あの、言えなければ、」
「...簡潔に言えば私が現実主義者だから、だな。神がいたとしてもこの世を支配するのは人間だ。人間が支配するのに神仏の類がいたら均衡が崩れていずれ崩壊する。この世は永遠でないし、今ある国もいつか滅びる。その滅びの時を少しでも先延ばしにするには自分たちで問題を見つけて解決するしかない。神頼みするとそこらへんが疎かになる。」
「なるほど...」
「そして私は幼い頃に友を何人か目の前で失った。その時悟ったんだ。」
この世に神様なんていないんだって
「神に守られるべき幼子が、無慈悲に死んでいった。だから私は神を信じない。自分の身は自分でしか守れない。幸いリーシェリウスは元々皇帝主義でそういった類の思想があまりなかったからまぁ楽だったな。」
(最初は神を信じていたが小さい時の経験でいないと悟ったってことか。)
「私がこのような考えだから皇民も同じように染まっていった。そして自然に宗教施設は廃墟と化し姿を消していったってワケだ。」
「それほど民に信頼されているということですね。そうでなきゃ今頃反乱が起きていますよ。」
「まぁ私の政治は皇民が一番だからな。家臣のことなんて微塵も考えていない。私の考えが絶対だ。偶にシリウスに助言は貰っているがね。」
(そりゃ1人で政治を行っていたら独裁になってそれこそ反乱の火種になりかねない。助言は必要だね。)
「ノエル。フラガラッハへ伝えろ。“騙されるな”と。アイツはカリスマ性はあるが馬鹿で阿保で勘が鈍くて他者に対して優しすぎる。だから騙されやすい。こういう一枚の書類だけでも検閲で改竄されて出されている可能性がある。本人が公平な内容を書いても他者によって書き換えられ結果的にイメージが悪くなるやもしれん。だからそこら辺は十分に注意しろと伝えろ。」
「え、えっと、つまり?」
「今回は国交を樹立しても良いだろう。」
“今回は”って?
「永久的な国交だと内容変更が面倒になる。だから期間を設けて国交を結ぶ。そちらの方が都合がいい。仮に一方的に破棄してもそれが戦争の言い訳にできるし破棄した側が不利になる。理にかなっているだろう?」
(わぁお流石現実主義者。)
「私が見たところ君はまだ頭があるしフラガラッハへ文句も言えるだろう。今回君が来たから国交を結ぶんだ。この意味、分からないほど馬鹿じゃないだろう。」
(フラガラッハじゃ国交の話を有耶無耶にしそうだからまだ賢い僕に国交の話を全任したいってことか。)
「承知いたしました。陛下もお喜びになるでしょう。」
フォニアは一息ついて机の上に備えてあるクッキーを食べた。
(話が通じそうな人で安心した...)
「エラン。盗み聞きしていないで中に入って来い。」
エランが中に入ってきた。
「バ、バレてましたか...」
「バレているよ。まぁ、聞かれてマズい話はしていないから問題はないがね。」
「なら良かったです!」
エランは机にある先程自分が飲んだ紅茶を飲み干してノエルが座っているソファーに腰掛けた。
「エラン。シリウスは今どこに?」
「多分もうじき来ると思いますよ?」
廊下から物音が聞こえた。
「来たみたいです。」
「シリウス。入れ。」
扉が開いた。
「あ、シリウス殿!」
「殿は結構です。ノエル殿。陛下。国交の件はいかがいたしますか?」
「一応了承する。期限付きでな。」
「承知いたしました。」
「シリウス〜お前ノエル様の前で猫被ってるんじゃないよ。」
ね、猫?
「盗聴は?」
「結界を張ったから問題ない。」
するとシリウスはため息を吐いてフォニアの隣に座った。
(この2人割と仲良さそうだな。)
「エラン、お前はもう少し空気を読もうな。」
「空気は吸うものであって読むものじゃないよ。」
「クソガキが。」
「私より生まれたのあとの人には言われたくないで〜す。」
「こら2人とも、客人の前だ。少しは落ち着きなさい。」
(苦労してるんだな、フォニア帝も。というかこの3人仲良さそうだな。)
「あの、3人は昔からの知り合いなんですか?」
「あぁ、我々は王族・貴族が通う学園の友でな。6歳頃からの仲だ。」
「学園、やはり国にはそういった期間が必要なんですね。」
「エアリオスにはないのか?」
「ないです。」
「早めに創っておいた方がいい。教育は後進の育成の基盤だ。ないと面倒だぞ。」
(学園、やっぱり必要か...仕方がない、創るしかないか。)
「陛下〜シリウスがうるさいです〜。」
「うるさいのはお前だろ。」
(まるで、何だろうな。幼年のしょうもない喧嘩みたい。)
『2人とも。落ち着け。火山に頭から沈めるぞ。』
フォニアは覇気を出してエランとシリウスを黙らせた。
「はいすみません。」
(おぉ、一般人にしてはかなりの覇気だな。まぁ僕の比ではないけども。)
「よろしい。」
「あ、そういえばここに来る時思ったんですけどリーシェリウスって暖かいですよね。火山でもあるんですか?」
「あるとも。火山を公共の温泉や水泳施設、農業に使っている。噴火の懸念もあるがそれ以上に利点が多い。多少の不便はあるが皆恩恵を受けているから不満はあまり出ないんだ。」
「そうなんですか。」
火山の高温は温泉や水泳施設だけではない。リーシェリウスの主要産業である魔導器具製造には多くのエネルギーが必要。そこで自国の火山の地熱エネルギーを使っている。つまり主要産業に欠かせないモノなのだ。
(自国のモノを惜しみなく投資している感じだな。ウチも見習わなければ。)
「エアリオスは確か南西部が海に面しているはずだろう。ダムは無理でも水力発電ができるから使えばいい。」
「自然のエネルギーを使うのはいいと思います。ですがリーシェリウスなら魔法で全て自動的にできないのですか?」
「魔法というのは永久的ではない。発動者が亡くなっても動いているとして効果が薄れる可能性がある。効果が薄れる可能性があるなら最初から別の方法で動かした方が良い。永久的に使うモノなら尚更、な。」
(効率重視か。確かにリスクは避けたいからその手はありだな。)
「エラン、シリウス。ノエルを城に案内してあげなさい。」
「え、城なんて、僕今日来たばかりなのに疑わないんですか?」
「疑うも何も、秘密をバラして不利益を被るのは君だと思わないかい?」
(ぐ、確かに...)
大国であるリーシェリウス相手にノエル1人で対峙するのは無理があるのだ。
「君は賢いからね。この先何が起こるかくらい、分かるだろう?」
「ま、ある程度は、」
「だろうな。」
フォニアの合図でエランは結界を解いた。
「さ、ノエル様。行きましょう。」
(お、大将軍スイッチが入ったね。)
「宰司も、私のそばから離れないでください。」
「頼もしい限りだ。」
「陛下はどういたしますか?」
「あぁ私もそのうち、城へ戻る。」
「承知いたしました。」
エランを先頭にシリウスとノエルは部屋を出た。




