ep.10 喫茶店
〜喫茶店〜
カランカラン
「エラン様。」
「奥の部屋に通して欲しい。できるか?」
「はい。」
店主が2人を奥に通した。
「ノエル様。そちらにお掛けください。」
2人は向かい合ってソファーに座った。
「全てを遮断せよ。静寂なる時の間。」
エランは盗聴防止結界を張った。
「え、盗聴防止結界って、」
「一応私的な場ですので。これくらいは、ね。」
頭を手で前から少し後ろオールバックになるように下げた。
(えらくリラックスした雰囲気になったな。)
エランは軍服を緩めて細剣と長剣を壁に立てかけた。
「もう、良いですか?」
「は?」
「いや〜もう疲れましたよ!何ですか?シリウスには案内を任せられて、あなたは魔力量が多くて、疲れますよ本当に!」
(魔力の差は低い方が疲弊する、か。多分そういうことだな。)
麗人みたいなタイプかと思いきやかなり砕けたタイプの人だったよう。
「大将軍なんて軍のトップを任せて国家要人に町の案内、だなんて。シリウスもシリウスで、勘弁してほしいです。」
「あの、随分と砕けたような、」
「あぁ、気にしないで。今はただの私的空間。いつまでも畏まったままじゃ困るでしょ。」
「大将軍って、国家防衛の要。こんな柔らかくて良いんですか?」
「私も人間ですよ?ピンからキリまで鉄鋼みたいな人間だったら疲労でポッキリやられます。柔軟に、そういう場ではちゃんとしていれば良いんです。」
「は、はぁ。」
「ノエル様は魔力が随分と高いようで、下々の人間が相手しても疲弊します。だからシリウスは私に任せたのでしょう。もっとも、この帝国で魔力が一番多いのはフォニア帝ですがね。」
「シリウス殿とあなたであればどちらが多いんですか?」
「同じ、というより私の方が少し劣っているくらいです。」
「大将軍より宰司の方が多いとか大丈夫なんですか?」
「問題ありません。アイツは魔力は多いですが実戦経験が少ない。そういうことですよ。」
(実戦経験が乏しいと軍のトップとして面子が立たない、と。)
「まぁ私は書類仕事が得意じゃないので、これが一番適した仕事なんですけどね。」
「大将軍とかいう役職なのでてっきりザ・武人タイプな人かと思っていましたが、エラン殿はそういうお堅い人じゃなくて良かったです。」
「堅いのは古参の家臣だけです。私が大将軍になった際も反発を食らいましたけどね。」
「それはまた何故?」
「私は天上人のような上流階級ではなく中流階級の出身。自分たちより立場が低い人間が国家の重役を務めるのが嫌なのでしょう。それに、私の実家は派閥に入らず中立派。そこも相まって色々言われました。まぁ実戦で全て黙らせましたけどね。」
「実戦、もしかして戦争を?」
「戦争だなんてそんな、ちょっとばかりお灸を据えたまでですよ。」
ケラケラと笑ったエランの目は笑っていなかった。
「古参の家臣でも柔軟な方はいます。凝り固まった家臣から足切りされてフォニア帝自ら僻地へ飛ばします。皇帝の言うことが絶対なので誰も反対しません。なので今帝都にいる家臣たちは柔軟な方ばかりです。」
「そう、ですか。」
「私の話ばかりなのであなたの話も聞かせてくださいませんか?」
「ぼ、僕の話、」
(どこまで話して良いんだろう。ティアの話を無神論者に言ってもなぁ。まぁ諸々隠して言うしかない、か。)
「僕は、エアリオスの南東部。山に囲まれ自然豊かなところで育ちました。古くから果樹が茂り、そうですねぇ。精霊なんかもいましたよ。」
「精霊、ですか。リーシェリウスそういった類のものはありませんからね。神仏への信仰は禁止されていますし。」
「地の精霊、風の精霊、火の精霊、水の精霊の四属性精霊に加えて闇・光属性の精霊がいました。」
「にわかには信じ難いですね。」
「そういえばここに来る時に思ったんですがリーシェリウスは教会とかそういう宗教施設がないんですね。」
「そうですね。皇帝が一番であり神や仏はいないという考えなので宗教施設はありません。宗教絡みの政治は面倒なのでいっそのこと全て要因になりそうなものは排除しようという考えなんです。」
「闇金とかありますからね。」
「生い立ちとか話せる範囲でいいのでもっと教えてください。私の目から見てあなたは強者。どのように修行したらそうなったのですか?」
(根っこが武人だから僕の強さの根源に興味があるのか。というより、凄い目がキラキラしてんな。)
「えぇっと、僕は生まれつき魔力制御ができる体で3歳で完全制御をしました。両親は集落の中では一般人だったので当時とても驚かれましたね。」
「3歳で完全な魔力制御...それほど器が強靭だったということですか。リーシェリウスで魔力の完全制御を成し遂げたのは最年少で15歳ですよ。」
「誰が最年少なんですか?」
「現皇帝、フォニア・リーシェリウスです。」
(文献でも10代で魔力の完全制御は難しいとか書いてあったような。じゃあフォニア帝は魔人でない一般人の中でもトップレベルの実力者...)
「って、結局ウチの話じゃないですか。ノエル様。魔物退治の話とかないんですか?」
「う〜ん、そうだねぇ。5歳で群れの長?の黒霧髭獅子を1人で倒して、8歳で光・闇魔法をマスターして15歳で魔人になり1人で成体の竜を倒しました。」
(黒霧髭獅子は竜には劣るが中規模の集落が陥落するレベルの強さの魔物。それを5歳の時に1人で倒したのは凄い。いやそれより5歳の幼子に1人でそんなことさせる人の方がもっとヤバい。)
「精霊召喚や悪魔の召喚。その他魔物の召喚もできますよ。」
「それくらい実力がお有りならウチに来れば良いのに。」
「お言葉は大変嬉しいのですがお断りしておきます。」
「残念。」
机の上に置かれた紅茶を飲んだエラン。
「ウチは強く賢き者は大歓迎なので、エアリオス?に愛想が尽きたらいつでも来てください。」
(凄い笑顔、とっても笑顔!悪意がなくてただ純粋に笑顔!)
部屋の扉が叩かれた。
「あれ、誰か来たみたいだけど、」
エランは即座に結界を解いて軍服を着、髪を整えて細剣と長剣を腰につけた。
「フォニア帝です。」
(皇帝自ら民間の喫茶店に来ることあるんだ...)
エランは扉を開けた。
「どうぞ、お入りください。」




