第八話 世の理を砕くもの
急いで祈りを捧げた後、見慣れたいつもの白い空間。
「カミスワさん!どういう事なんですか!?」
「来て早々慌ただしいですね?」
「聞きたい事が沢山あるんです!」
「そうですか…ではまずスリーサイズからでよろしいでしょうか?」
「カミスワさんのプロフィールはどうでもいいですよ!!」
「どうでもいいとは失敬な」
「あぁもう面倒くさいなぁ!!!」
「いつもの僅かばかりの敬意さえ払えない程に驚いてらっしゃるのですね?…仕方ないですね。真面目にお話しします」
「最初からそうして下さい!!」
カミスワさんは一つ咳払いをして話し始める。
「ヴォルカヌスの神槌とは、この世のありとあらゆる物を生み出す創造神の持つ『神器』の一つである、と言うのは説明文にあったと思いますが、特筆すべきはその能力です。まず一つ目の能力は『最適化』です。コレは製造方法を知っている武器を作る際、または破損している武器や、何らかの理由で力を発揮できない武器の手入れをする際、現世で実現可能なレベルで一番最高の完成度に出来る、万物の最適解を産み出す力です」
「武器の名前の後についてる『⭐︎MAX』というのが完成度を表してるという事ですか?」
カミスワさんは優しく頷きそのまま話を続けた。
「更に完成度だけで無く、その武具が保有可能なスキルも付与されます。恐らくあなたの作った鉄の剣は、市場に出回る様な物にスキルは付いていない筈ですから、それも神器を用いたが故の恩恵なのです」
「なるほど……あ、あと!『ラーニング』とか言ってたんですけど…」
「それがもう一つの能力『記憶』です。ヴォルカヌスの神槌は武器をつくり、直す道具ではありますが、ヴォルカヌスの神槌自体も武器として用いる事ができます。と言っても元々の能力は鉄の剣にも劣る物です。しかし、武具を生産、修復する事で、その武具の能力を記憶し、自身の能力を高めます。ステータスは手を加えた武具の中で一番値の高い物を記憶し、スキルはその武具の持つ物を一つ記憶します」
「つまりヴォルカヌスの神槌は、作ったり直した物の能力をコピーするって事ですか?」
「まぁザックリ言うとそう言う事です……それからもう一つ『鍛冶神の加護』と言う物があるのですが……」
ヴォルカヌスの神槌の能力に驚いていると、カミスワさんは難しい顔をして口を開いた。
「先程ご説明した武具生産、修復の制限という物が、ヴォルカヌスの神槌を用いる事で全て無効になります」
「え、それって……」
「つまりヴォルカヌスの神槌が有れば、どんな武具も直し放題。レシピさえ有ればどんなレアリティでも増産し放題。その上それらの武器の能力を取り込んだヴォルカヌスの神槌は、この世に二つとない災害級の武具となり得ます」
改めてヴォルカヌスの神槌は、使い方によっては恐ろしい道具なのだとわかった。
「……神器というのは人には過ぎた道具です。もしもウルカさんが道を違えてしまえば……」
「……カミスワさんにお説教されちゃうんですよね?」
僕が笑顔でそう言うと、カミスワさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべた。
「そうならないように使い方には気をつけないといけませんね」
カミスワさんは表情を和らげ、ホッとしている様子だ。
「あなたに任せて正解だった様ですね」
緩んだ表情を引き締め、カミスワさんが僕に語りかける。
「ヴォルカヌスの神槌は世界を破壊し得る力を持つと同時に、この世界を救う力を持つ物。その事を理解した上で、貴方にはどうか世界を滅びゆく未来から救って頂きたいのです」
「世界を救う……何か強大な悪と戦うって事なんでしょうか?例えば魔王みたいな…」
「魔王は存在しますが……魔王が敵とは限りません。それに強大な悪を打ち滅ぼす事が、世界を救う事に直結する訳では有りません」
「では何をすれば?」
「じきに答えがわかります……そしてやはり世界を救えるのは貴方だけなんです」
「う〜ん…なんだかよくわからないですよ」
「貴方はただ、私利私欲で人を傷つけない。その事だけを忘れなければ大丈夫です」
カミスワさんが優しく微笑むと同時に、意識がゆっくり光の中に包まれていく。
「貴方ならきっと世界を良い方に導いてくれると信じています……上手くいったらご褒美もありますからね?」
またいつものイタズラな笑みを浮かべた所で、僕の意識が現実に戻って来た。
「世界を救う…て言うのはやっぱりピンと来ないな。とにかく、このモノ作りの力を高めて、いつか誰かの為になれば…それだけ考えていこう」
決意を新たに、僕と物作りスローライフが本格的に始まった。
ヴォルカヌスの神槌が出来てから気付けば三ヶ月が経っていた。今日もいつもの採取を終え、家に帰って来た。
「ふぅ…暑いなぁ……前世よりは穏やかとはいえ、こっちの世界にも夏があるとはなぁ。でも、その為にちゃんと準備もしてたし、今日作る物で更に……」
いろいろ考え事をしながら家の中に入ろうとした時。
ドォォオオオオオオオオオン!!!!!
「な、なんだ!?」
森の中から突然大きな音が響き渡り、僕は音の方へサーチをしながら向かった。
「大型の魔物と……人間!?しかも少し弱ってるみたいだ!!」
急いで現場に向かうと、大型の魔物と対峙する一人の女性が居た。
「アレは…ファングボアの上位種『ギガントボア』!」
「はぁ…はぁ……でやぁあああああ!!!!」
ギガントボアと対峙する女性は、ビキニアーマーを纏い、何やら鉄の塊のような物を持って戦っているが、ギガントボアの硬い毛皮には殆ど効き目が無いようだ。
「ブモォオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「くうっ!…………」
暫く戦っているであろう女性は、かなり疲弊してる様子だ。突進して来るギガントボアも避けられそうに無い。
「危ない!『一閃』!!」
僕はヴォルカヌスの神槌を取り出し、ギガントボアに向かって振り下ろす。ギガントボアの首から上が落ちて、ドスゥウウン!と大きな音を立てた。
「………………へ?」
「あの!だ、大丈夫ですか!?」
キョトンとしている女性に声をかける。
「あ、う、うん……ていうか子供!?なんでギガントボアを倒せるの!?持ってるのはハンマー!?どうやってギガントボアを切ったの!?」
疲れ切ってる筈の女性は、ありとあらゆる疑問を元気いっぱいに僕にぶつけて来た。
「あ、あのぉ……だいぶ疲弊してるみたいですし。取り敢えず場所を変えて休みませんか?近くに僕の家も有るので」
「え、君こんな所で暮らしてるの!?」
彼女の止まらない質問に答えながらゆっくりと家へと向かった。