第七話 神器の完成
グランツ邸の修繕を始めてもう既に一ヶ月程が経過した。部屋の修理はほとんど終了し、現在は自分好みのリフォームを検討中だ。調理器具も鉄板の他にも鍋やフライパンも作り、食生活もかなり充実して来た。
『建築』『調理』に関しては充実して来た中で難航しているのが『鍛冶』の分野だ。
元々鍛冶の知識が薄いし、戦闘に用いられるような武器の類を殆ど見たことがないと言うのもあるのだろうが、恐らくこの世界における鍛冶は特別な物なんだろう。何と無く思いついた強そうな武器でレシピを『創造主』で生み出しても、能力的には使い物にはならない物ばかりが出来上がってしまう。
今はとにかくグランツさんの残した初心者向け武器のレシピを元に腕を磨いている。部屋の中は鉄製の武具で埋め尽くされている。
「流石に作り過ぎたなぁ……溶かしてインゴッドにでもするかな?」
しかし、そんな日々の甲斐あってレベルとステータスはどんどん上がっている。
ウルカ・ファイトス
Lv15
HP 800
MP 800
STR 44
VIT 44
INT 46
RES 44
DEX 126
AGI 49
LUK 105
理想の住居で素敵な食事、残りの時間は趣味の物作りに没頭できる。なんて幸せな生活なんだ…そう思っていると、祭壇部屋から強い光が放たれている事に気が付いた。
「うわっ!なんだなんだ!?」
急いで祭壇部屋に入ったその途端に意識が真っ白な世界に飛ばされた。
「うわぁ!いきなり来た!…あ、女神様!何かあったんですか!?」
そう言うと女神様は少しむくれた顔をした。
「何かあったじゃ有りません。何度もこちらからお呼びしたのに全く気づく気配も無い…不敬にも程があります」
どうやら女神様は何度も祭壇の像を光らせ報せようとしていたみたいだ。
「…すいません。作業に夢中で気付きませんでした…」
「それにしたって一月近く気づかないなんて……やはり正真正銘の物作りバカですね」
軽くため息をついた後、女神様は再び呆れたような声で語り始める。
「それにしても、ここ一ヶ月で随分レベルもステータスも上がった様で?」
「は、はい!そうなんですよ!食料の狩りと鍛治、家の修繕をしてたらいつの間にか!」
「ふ〜ん…それは結構。それだけのステータスなら『ヴォルカヌスの神槌』も完成させられそうですねぇ?」
そこで僕は二つ目の失念に気が付いた。以前女神様と話した際、グランツさんの残した『神器』の構想『ヴォルカヌスの神槌』の完成を急ぐように言われていた事を思い出した。
「あ、あぁ……そうですね…」
「そうですねじゃありませんよ」
ピシャリと注意を受け、シュンとしながら反省の顔を浮かべると、女神様は深くため息をついてからまた話し始めた。
「まぁその件はもういいです。あなたにはお伝えし損ねた事が有ります。もう既にお気づきだと思いますが、建築や調理、その他製造等と違って、武器のレシピ作成には少し制限が有ります」
「あぁ、やっぱりそう言う事なんですね。でもなんでまた?」
「日用品や発明品、薬、料理、建築物は文明の発展に繋がりますが、武器は争いを激化させ、生命を奪い、文明の衰退に繋がりかねない。その為『創造主』のスキルを持っていても、武器の発明に関しては制限をかけているのです」
「なるほど…ちなみに制限と言うのは?」
「まず『希少種』以上のレシピを生み出す、または修復する際は設計図、または製造方法をあらかじめ『学習』しなければならないのです」
「じゃあ武器作りに関してはちゃんとした勉強が必要ということですか……だとしたら『創造主』のスキルは武器作りにはあまり意味が無いんですかね?」
「そうとも言い切れないですね。人間が生み出した製造や修復方法の更に上を行くのが『創造主』のレシピなので、人間界に広まるのレシピで作った物と『創造主』のレシピで作った物とで、仕上がりはだいぶ変わって来ます」
「製造方法の最適解を出してくれるのが『創造主』と言うことなんですね…」
「あと武具の生産に関する制限で、『伝説級』以上のレアリティ武器は、世界に二つ以上存在させられないという物があります。レアリティの高い武具があちこちに有っては世界の均衡が保てませんので」
「なるほど……あれ?そしたら『神器』のヴォルカヌスの神槌は作れないんじゃ無いですか?」
「そこはご安心を。ヴォルカヌスの神槌は現在どこにも存在しないので……」
カミスワさんが少し複雑そうな顔をして言ったのが少し気になった。そう思った途端にカミスワさんはまたイタズラっぽい表情を浮かべた。
「それに完成すれば、貴方の鍛治の可能性がグンと広がりますからね」
「それってどういう意味ですか?『ヴォルカヌスの神槌』て、結局どういう物なんですか?」
「それは作ってからのお楽しみです」
「言ってくれてもいいじゃ無いですか…」
「あんまりネタバラシしたら制作のモチベーションが上がらないでしょう?これ以上完成を先延ばしされたら私としても都合が悪いので」
完成させる約束を忘れてた負目もあって、言い返す事が出来ない。
「では、なる早でお願いしますよー」
意識が元の世界に戻りかけた所で、また一気に周りが白くなる。
「あ、言い忘れてました」
「うわっ!ビックリした!…なんですか?」
「今後お祈りは定期的にお願いしますよ?あんまりほったらかしにしたら私、拗ねちゃいますからね?」
わざとらしく口を膨らませる女神様に呆れながら、意識が元の世界に戻る。
「………はぁ、まぁいいか。早速完成させようかな……『ヴォルカヌスの神槌』!」
倉庫から素材を取り出し、作業に取り掛かった。
鍛冶場に火を入れてふいごを吹く。炭を多めに投入して一気に温度を上げ、そこに『幻魔石』を入れて熱する。怪しいどどめ色をしていた幻魔石が、熱によって神秘的な青色に輝き出した所で金床に置き、ハンマーを打ち込み長方形にする。再度熱して両端に『古神龍の鱗』を貼り付けてハンマーで叩き込む。真ん中に杭を打ち込んで『一角獣の角』を差し込んで完成。
……出来上がった物は、パッと見ハンマーと呼べるかどうかギリギリという様な原始的な見た目だった。
「コレで本当に完成……なのかな?」
そんな疑問を抱いた次の瞬間、完成したと思われるソレは宙に浮かび、目の前で強い光を放って姿を変えた。作ったはずの無い装飾品、持ち手、刻んだはずの無い紋様等、先程の原始的ハンマーとは比べ物にならない神秘的なハンマーが、手元にゆっくりと戻って来た。
『ヴォルカヌスの神槌』
万物の産みの親である創造神が用いる神器の一つ。世界に存在するありとあらゆる武具の最も正しい姿を理解し記憶する。
「…………で、出来た…んだよね?」
突然の事で驚いたが、本来神の持つべき『神器』の類であれば、コレくらいのファンタジー演出は当然なのかと思い、なんとなく納得出来た。
「と、取り敢えず!早速使ってみようかな…」
鉄のインゴットを取り出し、いつも通りの剣を作ってみる。
「使い勝手はいつものハンマーより若干使いやすいくらいかな?……んっ!?」
いよいよ完成というところで鉄の剣が光を放った。
『鉄の剣⭐︎MAX』
攻撃力20
スキル「一閃」
「こ、これって……⭐︎MAXって何!?いつも作ってる鉄の剣は攻撃力10くらいなのに…コレはその倍!?しかもスキルなんて今まで無かったぞ!?」
驚愕している最中、ヴォルカヌスの神槌が青白い光を浴びた。
『ヴォルカヌスの神槌が鉄の剣⭐︎MAXをラーニングした 攻撃力20に更新 スキル「一閃」を取得』
「………………何ですかコレは!!?」
理解が及ばず絶叫していると祭壇部屋から光が漏れ出してきたので、急いでカミスワさんの所に向かう。