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第六話 原動力は美食

 翌朝、目を覚ましてまず取り掛かったのは『鍛冶場』の修理である。ヴォルカヌスの神槌の作成のためにも鍛冶場の修復は必須であり、それ以外にも取り急ぎ作りたいものが有ったので……


「ふいごに少し穴が開いてるからそこを塞いで…ピストンもガタついてるから直さないと……炉の囲いも直さないとだけど…うん!なんとかなるな!でも素材が……」


 手持ちの石材と木材でほぼほぼ賄えるけど、唯一足りないものが有った。


『強化粘土』

必要素材

・スライムの粘液

・クレイドールの破片


 クレイドール…強化魔法、弱体化魔法、状態異常魔法などを駆使して襲い掛かる初心者向けの魔物らしいのだが…いまだ戦闘慣れしていない僕としては、中々緊張感があるのだ。


「でも必要なんだからしょうがないよな……」


 外に出てフィールドサーチを行い、クレイドールの生息地帯を目指した。茂みの中から様子をうかがうと、一体のクレイドールがユラユラと不思議な動きをしていた。


「カタカタカタカタ……」


「うわぁ……なんだか気持ち悪いなぁ……でもスライムみたいに大勢いないみたいだし…何とかなるだろう!」


 お手製の槍をもって突っ込んだ。


「とりゃああああ!!!」


 クレイドールに槍を突き刺そうとするも、バキン!!と音を立てて槍が折れた。


「…………あれ?」


「カタカタカタカタカタカタ!!!!!!!!」


「ひええええええ!!!!!!!」


 クレイドールが追いかけて来るのから必死で逃げ回り、木の陰に隠れた。


「ど、どうしよう……すぐに見つかっちゃうよなぁ……な、なにか武器になる物!」


 アイテムボックスの中を見て武器になりそうなものを探す。


「んっ?これは鍛治打ち用のハンマー?……日本の鍛冶打ち用の金槌よりも大きいし……これならもしかしたら!」


「カタカタカタカタ!!!」


 木の裏を覗き込んできたクレイドールに見つかってしまった。


「ひぃ!!!もう考えてる暇はない!行けえええ!!!」


 クレイドールに向かって思い切りハンマーを振り下ろすと、頭部にクリーンヒットしてパリィィィン!!と良い音が鳴って割れた。


「……カタカタ……カタ……」


 そのまま崩れ落ちるように倒れた。


「た、助かったぁ……」


 ホッとして地面にへたり込んだ。


「そうか……『クレイドール』って事はハニワや陶器みたいな物だから、打撃武器の方が有効なんだな……」


 そんな風に納得していると、突然ステータスウィンドウが表示される。


ウルカ・ファイトス

Lv7


HP 400

MP 400

STR 28

VIT 28

INT 30

RES 28

DEX 86

AGI 33

LUK 65


「あれ?もうレベル上がった?そんなに強い魔物だったの?」


 ステータスを見てもレベルは5の格下だから、経験値も大した物ではなかっただろうに…


「なんでレベル上がったのかな?」


 不思議に思いながらも取り敢えず『クレイドールの破片』を回収し、グランツ邸に戻った。


「さて!早速やるか!」


 まずクレイドールの破片を砕いて粉になるまですり潰す。そこにスライムの粘液を混ぜ合わせて粘土くらいの硬さの物と、それよりも少し柔らかい物を用意する。柔らかい方の物でふいごの欠けた部分を塞ぎ、炉の囲いの石組みをつなぎ合わせて乾くのを待つ。


「よし!鍛冶場はこれで後は待つだけで……こっちもやるか!」


 硬めに作った物をブロックサイズと鍋型に成形して外に出しておく。今日明日辺りまでは雨の心配もなく、天気もいいので良く乾くだろう。


「今日の所はこんなもんかな。じきに暗くなるから今日はもう休もう」


 そのまた翌日、鍛冶場の修復部分を確認した。


「おぉ…しっかり乾いてるな。普通のパテじゃこうはいかないけど、魔物素材の強化粘土だからなのかな?とりあえず鍛冶場の修理の完了だ!」


 その時、ステータスウィンドウが現れた。


ウルカ・ファイトス

Lv8


HP 450

MP 450

STR 30

VIT 30

INT 32

RES 30

DEX 91

AGI 38

LUK 70


「あれ?魔物を倒したわけでもないのにレベルが上がった……なんでだろう?……うわっ!?」


 疑問を抱いてると祭壇の部屋の扉から光が漏れ出していた。


「なんだあれ?……取り敢えず入ってみるか……」


 中に入ると女神像が光を放っており、眩しくて思わず目を伏せるとそのまま意識が別世界に飛んだ。


「ここっていつもの……」


「昨日は来ていただけなかったんですね……寂しくて泣いちゃうところでしたよ」


 いつも通り僕をからかう女神カミスワさんがそこに居た。


「いや…用も無いのにわざわざ女神様に会いに行くわけにいかないでしょう」


「用がなければ会いに来ていただけないんですね……」


 わざとらしくシュンとした表情を浮かべるカミスワさん。


「……で、僕をからかうために呼び寄せたんですか?」


「あぁ、忘れていました。転生前にご説明しなければいけないことが有ったのですが失念しておりまして…貴方の転生した『ドワーフ』は、魔物との戦闘以外にも、建築、鍛冶、装飾、料理、その他生産系の作業を行うことで経験値を獲得できます。さらにドワーフはDEXの上昇率が他の種族と比べてかなり高いです。その上あなたの場合はLUKも高く設定しているため、経験値の獲得量もステータスの上昇量も高くなりますので、サクサクレベルもステータスも上がるようになっています」


「なるほど……やっぱりそれなりにチートな設定なんですね」


「一応は転生者ですので」


「……その説明の為だけに呼んだんですか?」


「いけませんか?」


「いえ…でも事前に説明していただければわざわざ呼ぶ必要もなかったのでは?」


「いけませんか?」


 カミスワさんから静かな圧を感じる。


「……いえ、何でもないです……」


「それなら良かった。引き続きヴォルカヌスの神槌の制作、よろしくお願いいたします。それではまた遊びに来てくださいね」


「いや、遊びにって……」


 意見しようとしたところで意識が祭壇部屋に戻っていた。


「……なんかモヤっとするけど、取り敢えず作業を続けよう…今日の目標は『かまど』の修理と、肉の調理だ!」


 ここ最近はずっとアプの実で飢えをしのいでいたが、やっぱりガッツリした物を食べたい欲が抑えられないので、かまどの修理と調理器具の作成を急いでいた。先日干した粘土も、かまど修理の為のレンガ作りだった。

 外に出て確認すると、レンガはしっかり乾いていた。


「よし!加熱も必要かと思ったけど、これならいけそうだ!」


 早速出来上がった物を部屋に持ち込み、かまどの破損した部分に柔らかい接着粘土をつけてレンガを接着する。


「今日の仕上がりを見るに、素材回収やらなんやらしている間に乾くだろう」


 僕は外に出て鉄の採掘、調理に使える食材の採取をし、グランツ邸の裏に有る川に向かった。初日に偶然討伐してしまったファングボアをアイテムボックスから取り出し、折れてしまった槍の刃先を首筋に入れ、頸動脈を切ったら暫く川の水にさらしておく。アイテムボックスの中は時間が止まっている為、取り出したファングボアは死んで間も無い状態の様なので、血抜きは十分出来そうだ。

 それらの準備を終えたらグランツ邸に戻り、鍛冶場の前に立った。


「さぁ……初めての火入れだ!」


 鍛冶場の炉に火を入れ、ふいごで温度を上げる。石炭が赤くなったら採掘をした鉄を入れ、こちらも真っ赤になるまで熱し、金床に乗せてハンマーで叩く。思ったよりも早く綺麗に伸ばせたのはドワーフゆえの鍛治スキルだろうか?ある程度伸びた所で炭を塗し、ノミで切れ込みを入れて折り曲げる。この工程を2回繰り返して型を整える。水に入れて一気に冷却した後、ヤスリと砥石で磨き上げて持ち手を付ける。


「よし!これで包丁は完成だ!後もう一つ……」


 再び鉄を熱し、今度はハンマーでひたすら薄く丸く広げて周りを叩いて折り上げ、水の中に入れて温度を下げて全体を磨き上げる。


「鉄板も出来上がったな!これでやっと肉の調理が出来る!」


 川に入れていたファングボアを引き上げ、包丁を使って解体する。『創造主』の能力は生き物の解体方法まで出してくれるなんて有り難い限りだ。解体したほとんどの部位はアイテムボックスに戻し、今日食べる物(豚の部位で言うところのロースの辺り)だけ手元に残す。


「さぁ…異世界生活初の料理だ!」


 かまどに火を入れて鉄板を乗せる。ファングボアの脂身を少量入れて鉄板に馴染ませる。ファングボアの身に削った岩塩、ペパの種の粉末(胡椒の様なスパイス)を塗り込み鉄板に乗せる。焼き目が付いたらアプの実のとソイスの実(強い塩味と香ばしさの有る醤油みたいな味)の果汁を混ぜた物をかけ、煮からめていく。少しトロミがついて来たら皿に肉を移し、タレを上からかければ……


「『ファングボアの照り焼き風』完成!」


 食器類はグランツ邸の物を使わせていただく。ナイフを入れるとほとんど力を入れずに身が切れた。


「では…いただきます!」


 肉を口に入れて噛むと豚肉の様なしっかりとした噛みごたえでありながらサックリと噛み切れ、断面から甘い肉汁が溢れ出す。ソイスの実とアプの実の果汁の甘辛い味付けとの相性も抜群だ。


「うまい!!……けど……」


 想像を超えた美味さを堪能したあと、激しい後悔に襲われた。こんな味付け……ご飯が欲しくなるに決まっている!


「……絶対この世界で米を見つけてみせる!!」


 異世界初の肉料理に心を満たしつつ、新たな食への探究心を燃やす、そんな夜を過ごしていた。


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