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第五十五話 表と裏


「ヴォルカヌスの…神槌…」


 まさか、ルシェフさんの昔話でその名前を聞くとは。


「ウルカくんの持っている物と同じ物だ」


「まさか…ウルカくんの槌がこの国を作った?」


「勇者一行は、元いた孤児院を建て直し、『ハイリシア寺院』を作り、その寺院の隣に人々の暮らせる国『ローゼンベルク』建国し、更に魔族の集落もより住み良い環境に建て直した。それがここ『マジナ』だ」


「この国も…勇者が?」


「そ、そんなの嘘です!そもそも『ハイリシア寺院』なんて聞いた事がないです!」


「待て…そんな筈は無い。ローゼンベルクの西方に寺院がある筈だぞ?」


「ローゼンベルクにあるのは『イリシア寺院』!『イリシア教』の総本山です!」


 ルシェフさんはリリアンさんの言葉を聞いて考え込んだ。


「『イリシア教』…『女神イリス』…それが歴史の捩れの元凶か」


「な、なんですか一体?」


「調べてみる必要があるな……アーラ」


「はいっす!諜報部を派遣するっす!」


「ちょっ!曲がりなりにも王女の前で…」


「王女であるなら、尚更真実を知るべきだ」


 リリアンさんが複雑な顔をしていると、突然玉座の間のドアが開いた。


「た、大変です!!侵入者が!!」


「…相手は何者だ?」


「そ、それが!…」


 侵入者の情報を聞いたルシェフは、すぐさま現場へと向かった。







「奴を止めろぉ!!!!」


 ライフルの様な兵器で戦うマジナの兵士達。


 その目の前には、光り輝く剣を持つ白髪の少年が居た。


 少年は目にも止まらぬ速さで兵士に近づき、剣の一振りで兵士達をまとめて吹き飛ばした。


「があぁっ!?!!!」


「な、なんだコイツっ!!!?」


「…魔族は敵…全て…消す…」

 

 少年の虚で赤い瞳が魔族達を捉え、一人残らず始末せんとばかりに暴れ回る。


「ねぇっ!アレって!」


「えぇ…間違いありません…『勇者』です」


「アレが…勇者」


「彼の手にある剣は、『聖剣ブレイツカリバー』。勇者プレイツが旅の最中で手に入れた、伝説の剣です」


 次々と倒される魔族達。


 ルシェフさんは勇者を食い止める為に、懐から銃を取り出し、勇者に向かって撃ち始める。

 しかし、弾丸は弾かれ、勇者の目はルシェフさんに向いた。


「お前が…魔王…」


 勇者は禍々しいオーラを放ち、今にもルシェフさんに飛びかかりそうだった。

 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「おやおや!ご無事でしたか?ウルカくん?」


「アンタ…ヒューイ!?どうして?」


「どうしても何も、魔族に攫われた大切な国民を助けに来ただけですよ?」


「嘘をつけ!!ウルカくんを捕まえる為にワザワザ追いかけて来たんでしょ!!勇者まで呼び寄せて!」


「敵国に入る為、万全な対策をしたまでです」


「だから敵じゃねぇっすよ!!」


「では、何故ウルカくんを攫ったのでしょうか?」


「僕はただ!ルシェフさんの頼み事の為に来ただけです!」


「ウルカくんダメです!!」


 リリィさんが言葉を遮り、ヒューイは不適な笑みを浮かべる。


「ふふふふっ……はっはっはっはっ!!!!まさか、あろう事か魔王軍に協力してしまうとは!!」


「そんな事言ってないでしょ!!」


「しかし、魔王の頼みを聞いたと言う事は、言わば魔王軍に加担したと言う事。よって!ウルカくん含め、フレアさん、リリアン王女は、ローゼンベルクに危害をもたらす()()()とみなします!!」


「何を言っているのです!?」


「問答無用!勇者よ!反逆者を捕らえ、魔王を葬ってしまいなさい!!!!」


「消すっ……消すっ!!!!」


 ヒューイの一声で勇者は僕達の方に近づき、聖剣を振り下ろす。


「ぐうっ!?やめなさいよ!!!私達は反逆者じゃ……ああぁっ!!!?」


 フレアさんは聖剣を受け止めるも、勇者に吹き飛ばされてしまう。


「フレアさんっ!!!?」


「よくも…!!」


 リリィさんが隙をつき、勇者の懐に潜り込んで一撃を狙うも、勇者はそれを見逃さずにリリィさんを吹き飛ばした。


「うあっ!!!?」


「リリィさん!!」


「ウルカくん、私に合わせてくれ。アーラっ!!」


「がってんっす!!ちょっと目ぇ瞑っててっす!!!」


 アーラさんは巨大な稲光を起こし、勇者の眼をくらませた。


「くぅっ!?」


「コレでも避けられるか?」


 ルシェフさんの銃弾が勇者の体を捉えるも、勇者はその銃弾を叩き落とす。


「魔力と音で見切ったか…しかし、これには対応できるか?」


 銃弾に紛れて僕は勇者に近づき、一撃を入れようとする。


「無駄だよ…」


 僕の槌は冷静に受け止められてしまった。


「ダメか…でも、狙いはコレじゃありません!『森羅共鳴』!!」


「ぐっ!?…なんだこれ…」


 地面から生えた太い蔦が勇者を捕らえた。


「皆さん!!お願いします!!」 


「フハハっ!!呼ぶのが遅いぞウルカ!!!」


「やっと…出番…」


「さぁて、お仕置きの時間よ!!」


 三聖獣の魔法を集中砲火すれば、流石の勇者もひとたまりも無いと思ったが…

 

 そこにあったのは、歪な光に守られた勇者の姿だった。


「マジっすか…」


「コレが聖剣の加護か…」


 剣から放たれる魔力によって守られたのか、勇者は傷一つない様だが、何故か勇者は苦しそうな様子だった。


「ぐっ!?…ぐうっ!?…」


 突然光が消え、勇者は膝をついた。


「ふぅ…電池切れですかね。一旦引きますよ」


「で、でも…魔王が…!絶対倒す!!」


「チッ…扱い辛いガキが……うぉっほんっ!…魔王を倒す機会はまた巡って来ます。それに、ここで貴方が倒れてしまう事の方が問題です。まだ()()は果たせてないのですから」


 意味深な発言をしたヒューイは、僕らの方を見て笑顔で話した。


「では、我々は一旦引かせてもらいますが、貴方達が魔王軍に手を貸した事、国王に報告させていただきます。それではまた会いましょう…『反逆者諸君』」


 ヒューイは転移魔法を使って、勇者と共に姿を消した。


「成程…これが今のローゼンベルク…ここまでやるのか」


「どういう事…それに私達、反逆者って…」


「奴らの都合の良い解釈だろう。ウルカくん達を反逆者として捕らえ、煮るなり焼くなり好きにしたいという事だろうな」


「そんな!私達はまだしも!リリィは王女なんだよ!?」


「はっきり言って滅茶苦茶だ。しかし、今のローゼンベルクはそれを良しとするのだろう。アイツらが『イリシア教』とやらの関係者であるならば…」


「いや…でも……そんな訳…」


「試しにローゼンベルクへ戻ってみても構わないが、恐らく国に入った時点で牢に入れられるの関の山だろう。おすすめはしない」


 絶句するフレアさんとリリィさんの横で、僕はヒューイの言った『目的』という言葉が漠然と気になっていた。





「現状、三人は魔王軍に加担した反逆者として扱われている。ひとまずマジナに身を寄せるのが得策だろう」


「へっ!アレだけ魔族を毛嫌いしてた連中を、人間から匿うなんて…」


「アーラ…」


「は、はいっす……」


 意気消沈しているリリィさんとフレアさんは、アーラさんの嫌味にも何も答えなかった。


「あ、あのぉ…こんな時に言うのもなんなんですが、取り敢えずルシェフさんの剣を直しておきましょうか?」


「我が言うのもなんだが、本当にこんな時に言わんで良く無いか?」


「ウルカくんってたまにそう言うところあるわよね?」


「……唯我独尊…」


 僕のせいとはいえ、言いたい放題だな。


「お願いしても良いのか?」


「はい、すぐに終わらせちゃいますね」


 そして僕は、手に入れた黒死竜の素材を使って、魔剣の修復をした。






「よし!直りましたよ!」


「おぉっ!本当に直ったんすねぇ!!良かったっすね!魔王様!!」


 ルシェフさんは直った魔剣を見つめていた。


「あ、あのぉ…何か問題が?」


「…いや、完璧な仕事を感謝する……アーラ…客人達を客室に案内して差し上げろ」


「あ、はいっす!!!」


「なんだお主!!もっと感激しても良いであろう!!!」


「エンドさん!!早く行くっすよ!!」


 僕らはアーラさんに促されるまま、部屋を後にした。




 玉座の間に一人残ったルシェフは、じっと魔剣を眺めていた。





『ルシェフ、この剣を見てみろ』


『うわぁ…カッコいいなぁ…」


『実はこの剣、名前をサタネルと言うんだ』


『えぇっ!?父上と同じ名前だ!!』


『あぁ。実は私の名前は、初代様が愛用してたこの剣から取って、私の父上がつけてくれた名前なのだ』


『そうなんだ!!』


『初代様の盟友、勇者ブレイツは、今はその魂を『聖剣プレイツカリバー』に宿していると言われている。だから、初代様の剣と同じ名前をつければ、いつか私が命を落としたその時、その魂がこの剣に宿り、お前やマジナの国を見守り続けられるだろうと、私につけてくれたのだ』


『えぇっ!?父上が死んじゃうなんてやだよ!!」


「おいおい、無茶を言うな。いずれ私はお前よりも先に死んでしまう。だからその時は、この剣を大事に残して置いてくれ。そうすれば、お前を一人にしないで済むからな』


『う〜ん…でも、やっぱり父上が死んじゃうのやだ!!』


『はっはっはっ!困った子だなぁ!』






『報告です!!サタネル様の乗っていた馬車の残骸が、崖下で見つかりました!!そして…サタネル様の遺体も…』


『……襲ったのは……魔獣か?…それとも…』


『明確にはわかっておりませんが…恐らく…人間の仕業かと…』


『なんでっすか……人間は魔族の仲間じゃなかったんすか!!なんでこんな事!!』


『遺体の他には…何も無かったか?』


『魔剣サタネルも回収できましたが…山肌に叩きつけられたせいか、刀身が折れてしまっています』


『先代王の形見の剣なのに…人間…ゆるせねぇっす!!!』


『アーラ……落ち着くんだ』


『でもっ!?』


『まだ人間の仕業と決まったわけでは無い。それに、ローゼンベルクとの同盟もまだ切れているわけでは無い』


『でもっ!!』


『アーラ……仕事を頼めるか?』


『は、はいっす…』





 

 綺麗に輝く魔剣の刀身に、ルシェフの涙が伝い、ルシェフは剣を抱きしめた。


「…父上………父上っ!……うぅっ…」


 玉座の間には、ルシェフの泣き声が静かに響き続けだ。



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