第五十四話 終わりと始まり
『深淵の魔窟』の最深部、そこで今まさに、世界の存亡を賭けた戦いが始まった。
あまりにも巨大な魔石と、それを取り囲む無数の魔物。
そして、それを前にして尚強く戦いの意思を燃やす勇者一行。
「作戦通り、僕とライオネルさんが前線で魔物の退治、その後ろでウィディがコアにマジックドレインをかけて、ヒリアがリカバリーする」
「了解しました」
「頑張る…」
「俺はいつも通り、暴れるだけだな!」
「よしっ……行こう!!」
ブレイツとライオネルは襲いかかる魔物を一騎当千の大立ち回りで掃討して行く。
「…ふぅっ…『マジックドレイン』」
ウィディは魔石の放つ禍々しい魔力を取り込み始めた。
「ぐぅっ!……」
しかし、魔石の魔力は想像以上に膨大で、一気に流れ込む魔力はウィディを蝕んでいく。
「ウィディ!?『パーフェクトヒール』!」
「…ま、『マジックパサー』」
ヒリアは、ウィディから送られる無尽蔵の魔力を利用し、最上級の回復魔法でウィディの魔石の損傷を抑えた。
「ひぃっ!?やっぱりキリがねぇなぁ!」
「僕らの仕事は魔物の殲滅じゃない!ウィディとヒリアを守る事だ!」
「わかってるよ!!にしても、いつになったら魔力は切れるんだ?」
「わからない…でも、ウィディならきっと…僕は信じてる!!」
果敢に戦う二人の後ろで、また別の戦いが繰り広げられる。
「う、うぅ……ぐっ…」
「ウィディ!?どうしたの?魔石の損傷は無いはずなのに…」
「苦しい……頭が…痛い……」
「どうして!?……まさか!!」
ウィディに流れ込む魔力の性質を感じ取り、ヒリアは大声を上げた。
「ブレイツ!!ウィディが危険です!!」
「なんだって!?もしかして魔石が!?」
「違うんです!!コアから流れ込む魔力が……闇の魔力が濃すぎます!!闇の魔力は心を蝕み、やがてその体を奪ってしまいます!!このままでは魔石が無事でも、ウィディの心が砕け、無感情の魔物になってしまいます!!」
「そんな!?どうすれば……」
「ここは一旦引きましょう!!」
「ダメ……」
弱りながらもウィディが声を絞り出した。
「ここで止めたら……また元通りになっちゃう…もしかしたら…つぎはもっと酷い事に…」
「ですが、どうすれば!?」
戸惑うブレイツの前で、未だ剣を振り続けるライオネルは叫んだ。
「ブレイツ!!ココは俺一人で堪える!!お前はウィディのところへ行け!!!」
「だけどライオネルさん!!」
「心配すんな!!お前達には指一本届かせやしない!!早く行け!!!」
ライオネルは更に前進し、魔物を一手に引き受けた。
ブレイツは身を切る思いでライオネルにその場を任せ、ウィディに駆け寄る。
「ウィディ!!!!」
ブレイツはウィディを抱きしめ、光の魔力を流し込んだ。
「ブレイツ……暖かい…」
「ウィディ、もう大丈夫だよ。一緒に頑張ろう」
ブレイツの光の魔力が闇の魔力を中和し、ウィディの体を和らげた。
「良かった……えっ!?ライオネルは!?」
一方でライオネルは孤軍奮闘で、前線を守り続けた。
しかし、既に限界を超えた戦いをするライオネルは、息を切らしながら膝を突いて呟いた。
「まだだ……アイツらには散々迷惑かけたじゃねぇか……ココで俺の二度目の人生が終わるとしても、最後に一花…咲かせてやらぁ!!!!」
ライオネルは覚悟を決めて、魔物の群れに突っ込む。
永遠にも思えた長期戦は、ついに終わりを迎えた。
魔物達は次第に力を無くし、遂には生まれなくなった。
コアは禍々しい光を失い、霞んだただの大岩に成り果てた。
「お、終わったのかな?」
「多分…魔力……無い…」
ウィディは膝から崩れ落ち、ブレイツはそれを抱えた。
「ウィディっ!!」
「大丈夫…大丈夫だから……ありがとう…ブレイツが…一緒に居てくれたから…」
「僕だってそうだよ!ウィディ……一緒に居てくれてありがとう」
「……私……ブレイツと…もっと一緒に居たい」
「えっ?どう言う事?」
「………バカ…」
鈍感な勇者の唇に、ウィディが勇気を振り絞り、自らの唇を重ねた。
力を無くしたダンジョンコアの前で、傷だらけのライオネルは横たわり、最後の時を迎えようとしていた。
「これで…アイツらに借りを返せたかな?……俺…死ぬんだな…二度目だから…不思議と怖く無いな……二度目の人生はメチャクチャ大変だったけど…精一杯生きられた……悔いはない……いや…やっぱり…ヒリアには気持ち…伝えたかったな…」
「…オネ……ライ…ライオネル!」
「あぁ…俺の想いが強すぎて…幻聴が…」
「ライオネル!しっかりして!!」
朦朧とした意識からパッと目が覚めると、そこには必死に回復魔法をかけるヒリアの姿が。
「ヒリア…そんなに必死になってどうしたんだ?…俺なんて死んでも問題ない…このまま眠らせてくれ」
「馬鹿を言わないで下さい!!貴方が死んでしまったら…ブレイツもウィディも悲しみます!……私だって……」
「ヒリア…………好きだ」
「へっ!?な、何を言ってるんですか!?」
「ずっと伝えたかった…俺はヒリアの事が好きなんだ…だから…もし死なずに済んだら…俺と結婚してくれないか?」
「ず、ずっと何を言ってるんですか!?こんな時に!」
「ダメか……」
顔を赤くしながら困惑するヒリアは、焦ったように言葉を捻り出す。
「わ、わかりました!!生きて帰れたら結婚します!!だから、死なないで下さい!」
「ま、マジで?……じゃ、じゃあ絶対助からないと……ヒリア……もっと頑張ってよ」
「なんで貴方の願望の為に頑張るんですか!!貴方も気合い入れて下さい!!」
「は、はい…」
「その後、無事に深淵の魔窟から生還した四人は、魔族の集落にて全てが終わったことを伝え、ブレイツとヒリアが生まれ育った孤児院に無事帰る事が出来た」
「それが、過去に起こった厄災の正体なんですね…」
「信じられない…けど、嘘とも思えないよ…」
フレアさんは混乱しつつも話を受け入れつつあったが、リリィさんは未だに口を閉ざし、納得出来ない様子だった。
「やはり、まだ信じられないようだな」
「当然です…今まで学んできた歴史とは全くの別物ですから」
「それでは…この後の話も、全く違うだろうか?」
「この後?戦いが終わったら終わりじゃないんですか?」
「英雄譚ならな。しかし、これは紛れもない真実の歴史だ、戦いの後も時間は流れる。ブレイツはこの後、荒れ果てた世界を立て直し、国を作り上げるのだからな」
「あぁっ!そりゃそうか!」
「ちなみにリリアン王女、其方の国ではどのように伝わっている?」
「そ、それは…魔法の神『イリス』の救いの魔法によって世界は作り直され、平穏が訪れた…と」
「『イリス』?そんな神を信奉しているのか?」
「えっ?魔法の女神イリスって、世界中で信奉されているんじゃ…」
「聞いたことが無い…そもそも歴史に残っている女神には名前が無いはずだ」
「どう言う事ですか?」
戦いを終えた勇者一行は、孤児院に祀られた顔のない女神像に祈りを捧げていた。
祈りを終えて立ち上がり、今後の事を考えていた。
「にしても、これからどうするんだ?」
「世界はぐちゃぐちゃ……」
「元凶が無くなったとは言え、世界は荒れ果てたままですからね…」
「一から作って行くしかないんじゃない?」
「そう簡単に言いますが、作るにしても知識が無ければどうしようも有りません。大工仕事やそれらの力を持つ者を頼る他ありませんが、それでも多くの人が命を落とし、動ける人には限界があります」
「そうだよね…一つ一つやってたらいつまで経っても終わらない…どうしよっかな…」
『お困りのようですね?』
「んっ?誰か喋ったかな?」
「いえ?」
「私も…」
「同じく……」
ブレイツが声のする方を見ると、そこには顔の崩れた女神像が。
「気のせいかな…」
『気のせいでは有りません』
すると、崩れた女神像が輝き出し、像と同じ服装の女性が現れた。
「な、なんですか一体!?」
「えぇっ!?アンタ…姿見せていいのか?」
『今日だけ特別ですよ』
「あのぉ…もしかして、女神様ですか?」
『半分正解です。私は創造神…名前は有りませんのでお好きなような呼んで下さい』
「あぁ…まさか女神様にお会いできるとは…」
涙を流して深々頭を下げるヒリアと、何処か誇らしげな女神。
『ダンジョンコアの無力化、よくやってくれました。そのお礼と言ってはなんですが、今後、国の建て直しで役に立つものをお渡ししたいと思います」
「その女神って……」
「その時、勇者が受け取ったのは、今まで見たこともない煌びやかな槌だったらしい」
「槌…店もしかして!?」
「その名前は……神器『ヴォルカヌスの神槌』」




