第五十三話 終わりの始まり
「……嘘…ですよね……」
「紛う事なき事実だ。ローゼンベルク初代王妃は魔族であるウィディ。つまり、ローゼンベルク家には魔族の血が流れている」
驚愕の事実に茫然自失になりかけるリリィさん。
「そんな…そんな事信じられる訳が!!」
「今は信じなくても結構だ。しかし、これは過去に人間達が発行した文献に残っている物だ。真偽を確かめたければ、自国で改めて調べてみる事をおすすめする…恐らく誰しも口を閉ざすだろうがな」
「それはどういうことですか?」
「さぁ…私にも真意はわからない。しかし、ここ数十年の内に、何者かの意思で歴史を改変されたとしか思えんな」
「何者か……」
「一旦、結末まで話してしまおう」
魔族の集落で過ごして数日、旅立ちの朝を迎えたブレイツ達は、既に魔族達と打ち解けており、デルビオ達が見送りしてくれていた。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「あぁ……狂化現象の原因、絶対に見つけてくれよな、『勇者様』」
「ちょっと、そんな呼び方しないでよ」
「ははっ…無事に帰って来いよ」
「うん…」
固く握手を交わした後、デルビオは振り返った、
「ウィディ!ブレイツに言う事があるんだろ?」
デルビオの影に隠れていたウィディが前に出て来た。
「ウィディも見送りに来てくれたんだね!ありがとう!」
「ブ、ブレイツ…あの…その……」
「ん?」
ウィディは言葉に詰まりながらも、意を決して言葉を放った。
「わ、私も旅に連れて行って!!」
「えぇっ!?」
「実はそういうことなんだよ」
「ど、どうして?」
「私…この村のみんなが好き…守りたい…だから、狂化現象の原因を突き止めたいの」
「デルビオさん…良いんですか?妹さんを危険な旅に行かせて?」
「俺だって勿論反対したさ。でも、こんなにハッキリ意思を示したウィディは初めてでな。不安は有るが、出来ることならウィディの願いを叶えてやりたいと思ってな」
「うーん、しかし…」
「こう見えてウィディは魔族の中でも指折りの魔法使いだ。きっと役に立てるはずだぞ」
「ブレイツ……ダメかな?」
不安そうな顔のウィディに、ブレイツは優しく笑いかける。
「僕も、ウィディが一緒だと嬉しいよ!」
ブレイツの真っ直ぐな返答に思わず俯くウィディ。
「決まりだな。ブレイツ、ウィディを頼んだぞ。ウィディ、お前も無事に帰ってくるんだぞ」
「うん…」
こうしてウィディはブレイツと旅を共にする事になった。
ルシェフさんの話はライオネル登場の場面となり、フレアさんの表情がどんどんと曇る。
「う、嘘!?ヒリア様達との出会いの場面ってそんな…」
「あぁ、女二人と旅するブレイツに対する僻みで襲いかかったのが始まりだ」
「嘘…嘘よ……」
カミスワさんの話と完全に一致する以上、ルシェフさんの持つ文献の信憑性は高そうだ。
勢いでヒリアとウィディを連れ去ったライオネルは、ヒリアからこんこんと説教されていた。
「貴方は一体何をしているのですか!!道端でいきなり因縁をつけ、暴力を振るったかと思えば私達を連れ去るなんて!!」
「い、いや……なんか腹が立ってつい…」
「ブレイツは別に私達を侍らせて自慢していた訳ではありません!!それとも貴方には我々がそんな嫌味な風に見えたのですか!?」
「そ、そんな事は無いけど…ただ…」
「ただ!?」
「う、羨ましくて…つい…」
呆れてため息をつくヒリア。
「人を羨む気持ちはわかります。しかし!それで無理矢理奪い取って何になると言うのですか!?貴方は何か満たされましたか!?虚しいだけだと思いませんか!?」
「は、はい……」
半泣きのライオネル。
「ヒ、ヒリア…もう良いんじゃ無い?」
流石に可哀想に思えたウィディが止めに入る。
「とにかく、私たちはブレイツのもとに帰りますが良いですね!?」
「は、はい…僕がお送りします…彼にも謝りたいので……」
ブレイツの元に帰った一同。
「ブレイツ!」
「ウィディ!ヒリア!」
再会を喜ぶ三人に、ライオネルはゆっくりと近づき、小声で話しかける。
「あ、あのぉ……さっきはなんと言うか…勢いであんな事してしまったと言うか…」
「あぁっ!!」
ブレイツはライオネルの顔を見るなりズンズンと近寄る。殴られでもするかと怯えたライオネルの手を取り、興奮気味で話しかけた。
「お兄さんとっても強いですね!!良かったら一緒に旅をしませんか!?」
「はぁっ!?」
「な、何言ってるんですか!?」
「だって、こんなに強いんだよ!?仲間になってくれたらとっても嬉しいでしょ!ねぇっ?」
「そ、そうだね…」
困惑する二人と、勢いで同意するウィディ。
「で、でも!いきなり襲いかかって来た上、私達を連れ去るような人を…」
「でも、今戻って謝りに来てくれたんだよね?」
「ま、まぁ…そうですけど」
「ダメ…かな?」
子犬のような目で見つめられたライオネルは、ヒリアに目配せをする。
ヒリアは『迷惑かけたんだから言うこと聞いとけ顔』を見せ、ライオネルはおっかなびっくりで頷いた。
こうして、後に語り継がれる勇者パーティは誕生し、狂化現象の原因と対峙する事となる。
「結局、狂化現象の原因はなんだったんですか?」
「原因となる物は、既にウルカ君は見ている筈だ」
僕が首を傾げていると、エンドさんが納得したような表情を浮かべた。
「やはり…あの気配はそう言うことか」
「どう言うことですか?」
「魔王城の研究施設に置かれた巨大な魔石……アレが狂化現象の原因だ」
ダンジョン……限りなく魔物を生み出し続ける、文字通りの魔窟。
それがどうやって生まれるのか、なぜ生まれるのかを誰も知らない。
しかし、ダンジョンを作り出すのは特殊な魔石『ダンジョンコア』である事はわかっている。
ダンジョンコアは人の手で壊す事はほぼ不可能で、コアの持つ魔力が枯れ果てるまで、魔物を生み出し続け、生まれた魔物の魔力循環によって再びダンジョンコアは魔力を溜め込む。
ダンジョンには危険と恩恵があり、その恩恵を求め、冒険者達がお宝探しにやってくる。
冒険者がコアの生み出す魔物を倒す事で、ダンジョンコアは魔力を微量に失い、失った魔力をまた生み出した魔物で供給する。
こうしてダンジョンの魔力のバランスが保たれるのだった。
しかし…逆に『誰にも見つからないダンジョン』があったとしたらどうなるか……長い年月をかけて魔物を生み出し続け、ダンジョンコアはどんどんと魔力を貯めていく。
その結果、溜め込んだ魔力が放出され、近隣の魔物や、更には他のダンジョンコアを暴走させ、連鎖的に魔物の暴走を引き起こす最悪の魔石が生まれてしまう。
それが、『深淵の魔窟』が引き起こした『狂化現象』の真実だった。
四人は冒険の末、狂化現象の原因を突き止め、その対処に悩んでいた。
「ダンジョンコアの生み出す魔物は倒せても、コアそのものを破壊するのは…俺の馬鹿力でもどうしようもないんじゃ…」
「ダンジョンでひたすら魔物を倒していけば、どうにかなるんじゃないの?」
「こちらが疲弊し切るのが先でしょうね…」
三人が頭を抱えていると、ウィディが小さく声を上げた。
「わ、私のマジックドレインなら…」
「魔力を吸収するっていうヤツか?」
「無茶です!膨大な魔力を吸収すれば、魔石を持つウィディだって…」
「ヒリアの回復魔法なら、魔石の損傷を抑えられる…」
「だけど…」
「大丈夫。ヒリアにはマジックパサーで魔力を送る」
「マジックドレインで吸収して、マジックパサーでヒリアに送る。そして、ヒリアはその魔力でウィディに回復を……一応理にはかなってるのか?」
「私は魔法の二重行使が出来るから問題は無い…」
「でも危険ですっ!?もし一つでも間違いが起これば…」
「きっと…私にしか出来ない…だからやりたいの…ブレイツみたいに」
ウィディの言葉に難色を示すヒリアとライオネル。しかし、ブレイツだけは違っていた。
「ウィディ…本気なんだね」
無言で頷くウィディ。
「だったら、僕はウィディの気持ちを叶えてあげたい」
「ちょっとブレイツ!?」
「流石に危険すぎやしないか?万が一の事があったら…」
「あの巨大なダンジョンコアを相手にするのに、万が一も何も無いよ。それは、ウィディだけじゃ無くて、僕達も同じだ。それで二人は、この戦いから手を引くのか?」
「そんな訳ないですよ!ブレイツやウィディを危険な場所に送って、私だけ行かないなんて有り得ません!」
「俺の名前が出なかったのがちょっと引っかかるが…乗り掛かった船。お前達が覚悟見せてるのを遠くで眺めるなんて出来るわけが無いだろ!」
「僕もそうだよ!そして、ウィディも…」
四人の中で、何かが一つになるのを感じた。
「みんなで力を合わせれば戦える。いや、全てを終わらせられる」
「みんなを…助けたい…」
「私が誰一人死なせたりしません」
「守るのは俺の役目だ。お前達を傷一つ付けずに帰す」
こうして勇者パーティによる、最後の戦いが始まりを迎える。




