第五十二話 人間と魔族
勇者ブレイツとヒリアが偶然辿り着いてしまった魔族の集落、魔族達に取り囲まれる中、1人の魔族の青年が現れた。
その青年はパッと見て人間と見分けがつかないかも知れないが、人間離れした青い髪と白い肌が、それを只者ではないと認識させる。
「人間がこの村に何の用だ…」
明らかな敵意を向けられながら、ブレイツは堂々とした態度を崩さない。
「僕はブレイツ、こっちはヒリアだ。魔獣討伐の旅すがら、この村に辿り着いた。ここに居る民に迷惑をかけるつもりは無い」
ブレイツの言葉かけに対して明らかに不信感を露わにする青年。
「人間の言葉なんて信用できるか!どうせ魔獣討伐と言って、狂化現象の原因を魔族になすりつけて、俺達を殺すつもりなんだろ!!」
青年の声に同調する様に、周りの魔族達も『そうだそうだ!!』『人間なんて信用ならねえ!!」と声をあげる。
「…ブレイツ…ここはひとまず」
ヒリアが逃げる事を提案しようとするが、ブレイツはズンズンと青年の目の前へ進んで行った。
「ちょっ!?ブレイツ!!」
「な、なんだ!?」
するとブレイツは青年の目の前で歩みを止め、腰に差していた剣を放り投げ、その場に座り込んだ。
「……なんのつもりだ?」
「信用出来ないならこうするしか無い。ほらっ、丸腰だよ」
ブレイツの行動にどよめく群衆。しかし青年は違った。
「騙されるな!!コイツは光の魔力を持ってやがる!!」
青年が言うと、群衆は更にどよめいた。
「光の魔力は魔獣や俺達魔族の弱点。剣が無くてもコイツは魔法で俺達をどうにでも出来る!」
青年がそう言うと、ブレイツは青年の懐に手を突っ込んだ。
「なっ!?き、貴様っ!?」
するとブレイツは青年の懐から短剣を奪った。群衆の悲鳴が上がり、ブレイツが青年を刺すと思ったその時、ブレイツはその短剣を青年に持たせ、自分の首筋に剣を突き立てた。
「な、何をしているんだ!?」
「ブレイツっ!!?」
「これで君はいつでも僕を殺せる。魔法の詠唱を始めたらすぐに喉を切れば、詠唱を止められる」
「き、貴様…」
ブレイツは真っ直ぐ青年を見つめ、その瞳に濁りは一切無く透き通っていた。
「………」
青年は静かに短剣を仕舞い、ブレイツに語りかけた。
「どうやら本気みだいだな」
「わかってもらえたかい?」
青年は右手を挙げ、群衆達に武器を仕舞わせた。
「俺の名前はデルビオ、一応この村の長だ。無闇に敵意を向けて済まなかった。詫びの印では無いが、ここで好きなだけ休んでもらって構わない。見ての通り貧乏な村で、大したもてなしは出来ないがな」
「ありがとう。認めてもらえただけで充分さ」
こうしてブレイツは若き村長に認められ、魔族の村で休む事になった。
「ほんっっっとうに信じられません!!!あんな事をして!!!あのまま殺されていたらどうしていたんですか!!!!」
「うぅっ…ご、ごめんってば」
村長の家に招かれて早々、ブレイツはヒリアのお説教を受けていた。
「魔族の皆さんが悪い人たちでは無かったから良いものを、これが悪人相手だったらどうなると思っているんですか!!」
「俺が言う事じゃ無いと思うが、本当にヒリアの言う通りだと思うぞ。かなり無鉄砲な真似したよ、お前は」
「で、デルビオまで……」
ヒリアの説教で日が暮れた頃、デルビオとお互いの事を話し合った。
「なるほど……しかし、魔獣に対抗できるほどの光の魔力に目覚めたからって、わざわざ魔獣討伐の旅に出るなんてな」
「僕にしか出来ないなら、僕がやるしか無いだろ?」
「全く……どこまでも単純と言うか…」
「ところで、さっき狂化現象の原因をなすりつけられたとか言ってたけど…」
ブレイツの言葉にデルビオは暗い表情を見せた。
「……元々、魔獣と魔族は同じ魔石を元に構築された生き物だ。魔族の中には、魔獣と対話できるなんて奴も少なく無い。そのせいで、多くの人間達は魔族が狂化現象を引き起こしてると思い込んでやがる」
「確かに、旅の途中でもそんな噂を耳にしました」
「でも、そんなのは言いがかりだ!!」
デルビオは拳を地面に叩きつけた。
「魔族が魔獣を狂化状態にして、他の人種を攻撃したところでなんの得もない。むしろ、今は魔族というだけで物流も絶たれ、あらゆる国から追い出されて死活問題。その上、狂化状態の魔獣は、魔族にとっても脅威である事には変わりない!」
「魔獣と対話して落ち着かせる事は?」
「狂化状態の魔獣と意思疎通は不可能だ。ああなっちまえば知能を持たない猛獣と同じだ」
デルビオは悲しい目で天を見上げた。
「この村は、人間達の迫害によって帰る場所を無くした、魔族達の最後の住処なんだ。だから、ここを失うわけにはいかないんだよ」
「それで僕たちの事をあんなに警戒してたのか」
沈んだ空気の中、1人の少女が家に入って来た。
「デルビオ、食べ物を貰って来た」
「あぁ、済まないな『ウィディ』」
「この子は?」
「あぁ、コイツはウィディ、俺の妹だ」
少女はローブを羽織り、そのフードで顔は見えない。少女はそそくさとデルビオの後ろに隠れた。
「ど、どうしたのかな?」
「やはり、人間を恐れて…」
「あぁ、いや、単純に人見知りが酷くてな。俺以外には大概こうなんだ」
「うるさい」
悪口を言いながらも、少女は兄から離れなかった。
「妹さん以外の家族は?」
「あぁ…3年前、狂化した魔獣から俺達を庇って…」
「あっ、ご、ごめん…」
「気にするな、今の時代珍しい話じゃ無い。お前達だって、似た様なもんだろ?」
デルビオの言う通り、ブレイツもヒリアも、家族を魔獣に奪われた者同士だった。
「こんな事を言うのもなんだが、俺達は出会うべくして出会ったのかもな」
「僕もそんな気がするよ」
「……さぁ、長旅で疲れているだろ。家の物は好きに使って良いから、ゆっくり休んでくれ」
ブレイツ達はデルビオの家で一晩過ごす事になった。
夜中、ブレイツはふと目を覚まし、寝付けなくなって気分転換に外に出る事にした。
空いっぱいの星を眺めていると、ブレイツは不思議な魔力の流れを感じた。とても強く、そして優しい様な。
魔力を感じる方へと向かうと、そこにはフードを被ったウィディの姿が有った。
ウィディは手元で色とりどりの火や雷、そしてその光を水飛沫に反射させ、幻想的な景色を生み出していた。
「すごい…」
思わず溢れたブレイツの言葉に気付き、ウィディは慌てて木の幹の裏に隠れた。
「あっ、驚かせてゴメン。ウィディ…だよね?」
木の裏でウィディは小さく頷いた。
「すごいね!これ全部魔法の力だよね?こんなに色んな魔法が使えるなんて!!」
ウィディは、力を振り絞りながら言葉を紡ぐ。
「ひ、光魔法は……使えない……」
「そっか…僕は光魔法以外は何も使えないから…ウィディは火と雷と水が使えるんだね!」
「あ…あと…風と土…闇も…」
「えぇっ!?光以外全部使えるの!?」
ブレイツの大きなリアクションに更に怯える。
「ねぇ!他にも見せてくれない!?」
「えっ…えっと……」
「お願い!!」
ブレイツは、木の裏に隠れたウィディにグッと顔を近づけた。
ブレイツのあまりに真っ直ぐな瞳に、ウィディは人見知りのはずなのに目を離せなかった。
押しに負けたウィディは、ブレイツの前で六属性の魔法を使って、色々な遊びを披露した。
火と雷でカラフルな火花を散らしたり、水を熱して霧を作り、闇魔法で影を作り、風で吹き飛ばしたり、土魔法で草花を咲かせたりした。
「すごいなぁ…魔法でこんな事が出来るなんて」
「わ、私……力仕事は出来ないし、裁縫も料理も苦手だけど、魔法の扱いだけは上手いってデルビオが……」
「そうなんだ……でも、素敵だね。魔法って、魔獣を倒したり、誰かを傷つける物ばっかりだと思ってたから。こんな綺麗なものが作れるなんて…ウィディは素敵だね!!」
ブレイツの言葉にウィディは恥ずかしくなり、フードを更に深く被った。
「そういえば、なんで顔を隠してるの?」
「…えっ?…」
「なんだが顔が見えないと、ちゃんとお話ししてる気にならないよ。ねぇ、フード外してよ」
「えぇっ……それは…恥ずかしいって言うか…」
「暗い夜だったら、昼間よりは恥ずかしく無いんじゃ無い?」
「う〜ん……」
ウィディはモジモジしながらも、何故かブレイツのお願いを断れず、ゆっくりとフードを外した。
「……うん、やっとウィディに会えた気がする」
「な、なにそれ…」
「僕はブレイツ!」
「………ウィディ…」
「な、なんかこの展開って……」
「ロマンス小説みたい…」
フレアさんが少しキュンとした表情をしてる横で、リリィさんは青ざめた顔をしている。
「ウィディ……まさか…」
「リリィ王女は気付いたようだな」
「そ、そんなバカな話があるわけが!!」
「その疑念は、この絵を見ればわかるだろう」
ルシェフさんは、歴史書に描かれている挿絵を開いて見せた。
「こ、コレって!?」
「う、嘘でしょ…」
そこに描かれていた絵は、話に出ていた魔族の少女ウィディの肖像画だと説明されているが、その姿に僕達は絶句した。
少女の姿は髪の毛こそ黒く描かれているが、顔はリリィさんと瓜二つだった。
「ど、どういう…事…」
「この少女ウィディは、後に勇者ブレイツと結ばれ、ローゼンベルグ王国の初代王妃となる……『ウィディ・ローゼンベルグ』だ」




