第五十話 真実と歪み
魔王城の研究施設を見たフレアさんとリリィさんは、歩きながらも目を丸くしたままだった。
「あ、アレもコレも…ウルカくんの作ったやつと同じ…」
「まるでウルカくんが何百人も…こんな相手と戦争したら…」
だんだん顔色も悪くなって来た二人を連れ、研究施設の奥へと向かう。
途中までは何処ぞの大企業の開発室のようだった部屋の雰囲気が、アニメの秘密結社の研究室の様なおどろおどろしい雰囲気に変わっていった。
「ね、ねぇ!このまま私達、なんかの研究の実験体にされちゃうんじゃ無いの?」
「そんな事してなんになるっすか?根本的に人間と魔族は生き物として全く違うっす。魔族用の薬作るのに、人間で試しても無駄っす」
「そういう物なんですか」
「あ、じいちゃーーん!!」
アーラさんが元気よく声をかけた先に居たのは、この不気味な雰囲気には似合わない耳の長いおじいちゃんだった。
「ほほっ、アーラちゃんや。沢山お客さんを連れて、何の用かいね?」
「実は聞きたい事があるっす」
そこで僕とアーラさんは、黒死竜の件に加え、今まで遭遇した魔石を無くした暴走する魔獣の話を伝えた。
「ふぅむ…そんな事がのう…」
「何かわかりますでしょうか?」
「じいちゃん先生言ってたっすよね?魔石が壊れると魔獣は暴走するって?」
「あぁ…理論上はな」
「理論上?」
「魔石が壊れる要因は君達も知っている通り、過度な魔力の蓄積じゃ。魔石には要領がある為、魔力がその要領を超えてしまう事で魔石は破壊され、体内に吸収されてしまい、魔石の制御を無くした莫大な魔力によって暴走する」
「でも、どうして魔力を溜め過ぎてしまうんですか?」
「そこじゃ。本来魔石を持つ者は、その魔石の要領以上の魔力を持つ事は不可能なんじゃ」
「という事は…」
「手段はわからんが、暴走した個体は誰かによって要領以上の魔力を注ぎ込まれ、暴走させられた…という事じゃ」
「そんな…」
以前カミスワさんに言われた『誰かの悪意』によって、暴走させられたという事か。
「誰がそんな酷い事を!?」
「そこまではわからんが、他者に魔力を送り込むのは禁忌の秘術。相当な魔法の技術と知識が無ければ不可能な芸当じゃろう」
先生の言葉にリリィさんが静かに質問した。
「魔王なら…可能なのでは?」
「あんた…良い加減に!!」
アーラさんが掴みかかろうとするのを僕が制止すると、先生が口を挟んだ。
「それは不可能じゃ」
「なぜ言い切れるんですか?そもそも、魔獣が暴走するメカニズムを、マジナの方は何故ご存知なのでしょうか?」
リリィさんが疑いの目を向けるたび、アーラさんの鼻息が荒くなる。
「それは…過去にもそういう事が有ったからじゃ」
「過去?…そんな文献聞いた事は…」
すると、アーラさんの元に一匹の蝙蝠が飛んできて、何かの情報をアーラさん伝えた
「魔王様が帰還されたそうっす」
「ちょうど良い。君達の気になってる事は、坊ちゃんに聞いてみるといいぞい」
疑問を残し、亀裂も残ったまま、重苦しい空気で玉座へと向かう。
「失礼するっす」
「ウルカ殿すまない。火急の用が入ってしまい、席を外さざるを得なくてな」
「いえいえ」
「それで、素材が手に入ったという事だが…随分賑やかな様だな」
「は、はい…こちら、フレアさんとリリィさん。それから…」
「3幻獣がお揃いとは…大したもてなしもできず申し訳ない」
「お構いなく〜」
「それに…」
ルシェフさんはリリィさんを見て何かを考えている。
「これは……」
「な、なんですか?」
「いや、失礼した…ローゼンベルクの第二王女までいらっしゃるとは……ここまで来たら流石にパーティでも開かなければな。アーラ」
「はぁ…手配しとくっす」
明らかに気乗りしていないアーラさん。
「結構です。私たちはあまり長居するつもりはありません。聞きたい事を聞いたらすぐに帰ります」
リリィさんの言葉で、その場は一気に気まずい空気になった。
「……聞きたい事とは?」
「先ほどそこの魔族は、マジナとローゼンベルクが『同盟国』である等と意味のわからない事を…」
「コッチが意味わかんないっす!!」
リリィさんの言葉にルシェフさんがため息をついた。
「やはり…」
「な、なんですか?」
「失礼だがリリアン王女は幾つになられたか?」
「じゅ、16ですが…」
「という事は、ハイデンが亡くなった後すぐに…」
するとリリィさんはハイデンという言葉に反応し、怒りを見せた。
「魔族がローゼンベルク先代国王の名を気安く呼ぶな!!!」
「あんた…もう我慢の限界っす!!!」
アーラさんがリリィさんに襲い掛かろうとすると、ルシェフさんは懐の銃を取り出し、アーラさんに向けた。
「ま、魔王様…」
「客人に無礼を働くなと、前にも言ったはずだ」
「だけど!!」
「アーラ。パーティの準備を頼んだはずだが、こんなところで油を売ってて良いのか?」
アーラさんは苦虫を噛み潰したような表情で部屋を出た。
「わが配下が無礼を働き申し訳ない…だが」
その時、一瞬にしてその場の空気が凍り付き、息苦しさを感じた。
「……こちらとしても…筆舌しがたい事情があると言う事を理解した上で…最後まで話を聞いて頂けるとありがたい…」
これまで優しく紳士的だったルシェフさんからは想像もつかない負の感情が渦巻いている。
恐らく、ルシェフさんも言葉にしないだけで、アーラさんと同等、もしかしたらそれ以上の怒りを抱えているのかもしれない。
「わ、わかりました……」
「お心遣い…感謝する」
リリィさんの返答にルシェフさんの表情が心なしか和らいだように見え、空気も元に戻っていった。
「大まかな事情はサント医師から聞いている故、皆様に納得して頂くためにも順を追って話させてもらう。時間はかかるかもしれないがよろしいか?」
さっきのおじいちゃんはサントさんって言うのか。アーラさんはじいちゃん先生としか呼んでなかったからな。
「問題ありません…」
「まずは、皆様の知らない正しい歴史から伝えていこう」
「正しい歴史?」
「数百年の昔、世界を滅ぼしかねない大きな異変が有ったのはご存知かな?」
「えぇ…『魔王軍の侵略』ですね」
「やはり…そこから捻じ曲げられていたか」
「…どう言う事ですか?」
「魔王軍の侵略とは、何処の文献で学んだ物だろうか?」
「…ローゼンベルク王国の国家指定の歴史書ですが…」
「それは…これの事かな?」
ルシェフさんは、デスクの中から一冊の本を取り出した。
「な、何故それをあなたが!?」
「まぁ良いじゃ無いか。で、この文献のどこに書かれているのだろうか?」
「何なんですか…」
リリィさんは渋々言われた通りに指定のページを探してみる事に。
しかし、リリィさんは本を読みながら震え始めた。
「……あなた…この本は偽物ですね…」
「リリアン王女ならばお分かりだろう、表紙の印章が間違いなくローゼンベルク王国認定を表す物だと」
「じゃあ…何故『魔王軍の侵攻』が載っていないんですか!それに……この『狂化現象』ってなんなんですか」
リリィさんの問いかけに対し、ルシェフさんはゆっくりと口を開いた。
「その歴史書は、今より五十年以上前に発行された物だ」
「五十年……」
「狂化現象…この世界の歴史はそこから始まり、今日につながるのかもしれない」
ルシェフさんは、歴史の真実を語り始めた。




