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第四十九話 合わせる力と合わない心


 瘴気を撒き散らしながらマジナへと向かう黒死竜を止めるべく、作戦を考えた。

 まぁ、正直作戦とも呼べないような力技だけど…


「フレアさん!リリィさん!アーラさん!一緒にお願いします!」


 四人で黒死竜に攻撃を加える。


「くぅ!ヌルヌルしててキモいっす!」


「一つも効いてる感じがないよ!」


 確かに一切効いてる様子は無いが、直接的なダメージを与えるのが目的では無い。


「ブウォオオオオオ!!!!!!!」


「よし!着実に進路がズレてます!この調子でいきましょう!!」


 そう、目的は黒死竜をある場所まで誘導する事で有る。草木の多い森の中だと、万が一の場合被害が大きくなってしまう。


「もうすぐ岩石地帯っす!!」


「よし!到着したらユニさん!レヴィさん!エンドさん!お願いします!!」


 進路をズラした黒死竜は岩石地帯に到着し、ここなら被害が出る心配はなさそうだ。


「レヴィさん!ユニさん!お願いします!」


「『慟哭』」


「『森羅共鳴』」


 黒死竜の体が水で洗い流され、瘴気を含んで流れ落ちた毒液を抑えるように岩を突き破った草木が黒死竜をドーム状に覆い被さる。


「や、やっぱり腐食が速い…私だけじゃもたないわ!」


「加勢します!!」


 ユニさんと共に僕も『森羅共鳴』を発動し、腐食の進行を上回るスピードで植物を発生させる。


「エンドさん!お願いします!!」


「フハハハハッ!!!!ようやく出番か!!塵となるがいい…『テンペスト』!!」


 エンドさんが発した雷によって、植物で出来たドーム内の温度が一気に上昇する。


「ひぃ!植物の損傷が更に!!」


「が、頑張りましょう!!」


 毒液の腐食と、雷による損傷のスピードに負けないよう、僕とユニさんが必死に堪える。


 しばらくすると黒死竜の生存反応が無くなり、スキルを止めると灰になった黒死竜がそこに居た。


「な、なんとかなった…」


「何百年も生きて、こんなに疲れたの初めてかも…」


「この作戦…ちょっと強引過ぎっすよ…」


「フハハハハッ!!皆だらしないなぁ!!」


「……私達…スキル一回使っただけ…」


 二人以外の全員が疲労困憊の中、僕はある事に気がついた。


「はぁ!!??!」


「ど、どうしたの?ウルカくん?」


「き、牙…」


「なんですか?」


「黒死竜の牙…必要なのに…」


「あぁ…これだけの熱なら、牙もボロボロでしょうねぇ…」


「どうしよう…」


 そんなことを言っていると、アーラさんが鼻を擦りながら立ち上がった。


「そこは意外と仕事の出来るアーラちゃんにお任せっす!!」


 そう言うとアーラさんは、懐から一本の黒死竜の牙を取り出した。


「えっ!?こ、これどうしたんですか!?」


「3人であれだけ殴ってたっすから、途中偶然叩き落としたのを拾っといたっす!ちなみに貰った薬で洗浄済みっすから!」


「でかしたぞ!大魔神アラストール!!」


「そ、その名前で呼ばないで欲しいっす!!!」


「でも、本当にありがとうございます!!」


 僕は思わずアーラさんの手を取って、感謝の意を伝えた。


「お、おぅふ…べ、別に…魔王様の為っすから…」


 妙に顔が赤いけど、体調でも悪いかな?そう思っていたら、フレアさんとリリィさんにそっと引き離された。


「はい、その辺にしとこうね」


「ウルカくん…どれだけたらし込めば気が済むんですか?」


「な、何のことですか?」


 不機嫌そうな二人の横で、黒死竜がボロボロと崩れていった。


「ふふっ!我の力で跡形も無く燃え尽きたな!」


 エンドさんの言葉に僕はハッとなった。


「そうだったのか…」


「どうしたのウルカくん?」


「跡形も無く燃え尽きたって事は…」


「『魔石』も無いって事ですね」


「えっ!?それって…」


「つまり、この黒死竜も『ギガントボア』や『セレーネモス』と同じ、魔石を壊されて暴走した個体だったって事です」


「い、一体なんなんすかそれ?」


「てか、聞きたい事があるのはコッチだよ!!」


「何故ウルカくんを攫ったのですか!?」


「ま、まぁ落ち着いて下さい!えーっと…取り敢えず、諸々の説明をしましょう」


 僕はアーラさんには魔石のない魔獣の話、フレアさん達にはルシェフさんの依頼の話をした。、


「そ、そんな事が起きたっすか!?」


「アーラさん、何か心当たり無いですか?」

 

 アーラさんは首を捻り、心当たりが見つかったのかゆっくりと話し始めた。


「うーん…詳しい事は知らないっすけど、魔王城に勤める医者から聞いた事があるんすけど、魔獣や魔族は魔石が壊れたら、魔石に蓄えられた魔力が一気に放出されてしまい、魔力が失われて命を落とすっす」


「魔石を元に生まれた魔族や魔獣にとって、魔石は心臓、魔力は命のようなものなんですよね?文献で見ました」


「だけど、魔石に蓄えられた魔力が多過ぎると、放出された途端身体中に魔力が一気に巡って、蓄えられた魔力が切れるまで魔獣の体が暴走するって…」


「そんな事があるんですか!?」


「い、いやぁ…詳しくはそのお医者さんに聞かないっすと…」



 僕が思い悩んでいると、今度はフレアさんとリリィさんが詰め寄る。


「難しい話の途中悪いけど、そろそろ言うことがあるんじゃない?」


「な、なんすか?」


「魔王からの命令を勘違いし、襲撃をかけた挙句誘拐」


「う!?そ、それは…」


「何か言うことは?」


「す、すんませんでしたっす!!!!!」


 またもや見事な土下座をキメるアーラさん。


「全く…やはり魔族は荒っぽい連中ですね」


 リリィさんの言葉にピクッと反応し、体を起こす。


「…いい加減にするっすよ」


「な、なんですか」


「自分一人の事を責めるのはいいっすけど、魔族全体を馬鹿にするのは許せないっす!!」


「あ、アーラさん…」


「大体荒っぽいのはどっちすか!!本来『同盟国』の筈のマジナ相手に『勇者』を仕向けたり!!一方的に攻撃をしてきたり!!挙句先に仕掛けた癖に『魔族は危険』とかコッチの責任にして!!」


 アーラさんの勢いが増し、リリィさん達とたじろいで来た所で僕は止めに入った。


「アーラさん!落ち着いてください!」


「もう我慢ならんっす!!魔王様にも止められていますけど!もう無理っす!!勝手に悪者にされてもうウンザリなんっすよ!!!」


 その時、リリィさんが困惑しながら言った。


「待ってください…マジナがローゼンベルクと『同盟』?…『一方的に攻撃』?何を言っているんですか…」


「な、なんすか?」


「そもそも、魔族と人間は長い間敵対して…」


「ふぅん…なんだか変だと思ってたのよね」


「ゆ、ユニさん?」


「私は森暮らしだから詳しい事は知らないけど、二、三十年前までは、人間と魔族の交流は珍しくなかった筈よ?」


「ど、どういう事ですか!?」


「だ、だから私も詳しい事は…」


 若干取り乱しているリリィさんを抑えた。


「と、取り敢えず!一旦マジナに行ってみましょう!何かわかるかもしれないですから!!」



 マジナに戻るや否や、その街の様子にフレアさんとリリィさんは圧倒されていた。


「な、なんなのこれ……魔法も無しに灯りだけじゃ無くて、映写や音の拡張…」


「それに街中を走るアレは、ウルカ君が作った乗り物と同じ…」


「恐らくここには、僕の作った物と同じ物がほとんど一般的に使われています」


「な、なんでそんな事?だって魔族は人間よりもずっと魔法に長けてる筈じゃ…」


「魔族だって人間と同じで、魔法を使い続ければ疲れるし、魔法が得意な奴も居れば、全く魔法を使えない奴も居るっす」


「魔族なのに…魔法が使えない?」


「そんな時、誰でも負担無く使える物が有れば、便利だって思うのは当たり前っすよね?」


「そ、そうだけど…」


「逆になんで人間はこういう物に頼らないっすか?」


「…ローゼンベルクに広く伝わる『イリシア教』の教えでは『神の恩恵である魔法を尊べ』『行き過ぎた文明は神への冒涜』とされています」


「それって誰が決めたんすか?神様すか?」


「そ、それは…」


「魔族や人間以外の亜人種は、『世界に神様は一人だけ』って言ってるっす。人間の神様がそう言ってるのに、なんでウチらには何も言わないっすかね?」


 アーラさんの言葉に返す事が出来なくなった所で、魔王城に到着した。

 アーラさんがルシフェルさんに報告に向かっている間、僕たちはエントランスに待たされた。


「これが…魔王城なんだ…思ってたより綺麗」


「もっと禍々しいものかと…」


 あちこちをキョロキョロ眺めているとアーラさんが戻ってきた。


「魔王様は視察で城を離れてたっす」


「そうですか…ローゼンベルクとマジナの歴史を知りたかったのですが…」


「取り敢えず、じいちゃん先生に魔石の無い魔獣の話でも聞きに行くっすか?」


 モヤモヤするフレアさんとリリィさんを引き連れ、僕達は魔王城の特別研究室へ向かった。

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