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第四十五話 狂った尊厳と黒い翼


 ギルドでの一件の翌日、いつも通りウチで賑やかなランチタイムを過ごしていた。


「なるほど。其奴は我の行方を気にしていたという訳か」


 今日の昼ごはん『異世界醤油ラーメン』を美味しそうに啜りながらエンシェントドラゴンさんは言った。


「わざわざ隠す必要など無かっただろうに。万が一我に歯向かって来ようものなら消し炭にしてやるだけだ」


「確かに、魔剣兵団の団長でもエンシェントドラゴンには歯が立たないよね」


「とは言え、ヒューイさんの狙いがわからない以上、不用意にエンシェントドラゴンさんの居所を伝えるのは危険です」


「心配性だなぁウルカは…ところで、気になっていることがあるのだが」


 神妙な面持ちのエンシェントドラゴンさんを見て、息を呑む一同。


「我の名前…長くないか?」


「はいっ?」


「我を呼ぶ際にいちいち『エンシェントドラゴン』と言うのは、会話していてもなんだか煩わしい」


「自分の名前なのに…そんな風に言って良いんですか?」


「こんなモノ、長い歴史で人間どもが勝手に付けた物をなんとなく気に入って使ってるだけだ。むしろ長く呼ばれ過ぎて飽きているほどだ」


「じゃあ、なんて呼べば?」


 そう聞くとエンシェントドラゴンさんはユニコーンさん、レヴィアタンさんを指差した。


「此奴らの様に『エンド』と呼べば良いだろ」


「そんな風に呼ばれてるって初耳なんですが…」


「あら、エンドだけそんなのズルいわ。それなら私も『ユニ』って呼んで欲しいわね」


「……私も……『レヴィ』…」


「うーん…みなさん神聖な存在なんですよねぇ?なんか気安いような…」


「だから、その神聖な扱いも人間達に勝手に後付けされた物だ」


 そんな会話をしていると、ウチのドアをノックする音が聞こえた。


「誰だろう…ハーイ!」


 ドアを開けるとそこにはヒューイさんの姿が有った。


「ひ、ヒューイさん!?な、何のご用でしょうか?」


 僕はコッソリと後ろを振り返る。聖獣の皆さんは既に認識阻害を発動させているようだ。


「先日はどうも。本日は再びお話を伺いに参りました」


 意味深な笑顔で語りかけるヒューイさんの後ろには、あからさまにドス黒いオーラが見えた。


「お話なら先日も申し上げた通り…」


「いえいえ!万が一忘れてしまっている事があるといけません!ですから…今度は王都にてゆっくりとお話を伺いたいと思います」


「へっ?王都で?」


 その言葉にフレアさんとリリィさんが反応した。


「ちょっと待って下さい!?何故わざわざ王都に呼び寄せるのですか!?」


「そうだよ!!もう話すことは無いって言ってるじゃん!!」


 二人は僕を背にしてヒューイさんに食ってかかった。それに対してヒューイさんは不適な笑みを浮かべる。


「あなた方が拒否したところで、ウルカくんが王都に来る事は覆りませんよ…」


 するとヒューイさんは懐から一本の紙の筒を取り出し、僕らに開いて見せた。


「こちらは、ウルカくんが王都に来る事を命じた国王直筆の書状となっています。よって!これは只のお願いでは無く、国王の命令となります!」


 ヒューイさんの言葉に衝撃を受けるフレアさんとリリィさん。


「そんな…お父様…」


「アンタらそこまでして!…ウルカくんをどうするつもりなの!!」


「先程から申し上げている通り、()()()()()()ですよ」


 二人の焦りとヒューイさんの態度、恐らく穏便に話を聞く訳では無さそうだけど、ここで断れば何かしらの処罰が下り、恐らく二人にも迷惑をかけてしまう。


 どうしたものかと考えていると、ヒューイさんの後方、雲一つない青空から突然一本の青黒い稲妻がバリバリと大きな音を立てて落ちた。


「なっ!?一体なんですか!?」


思わず僕とフレアさん、リリィさんも外に出る。


「ねぇ…コレってエンドさんの仕業かな?」


「いや…なんだか少し違う様な…」


「あ、あれ!!み、見てください!!」


 リリィさんが指差す先には女性らしき影が有るが、人間離れした赤黒い肌、頭には小さなヤギの様な角、背中には蝙蝠の様な大きな羽が生えている。


「あれって…」


「…魔族」


 ヒューイさんがそう呟くと、その場の空気が一瞬で冷たくなった。


「……ウルカって言うのはどいつ…か」


「えっ?僕?」


 僕がそう漏らすと、フレアさんとリリィさんが僕の口を塞いだ。


「そう…か…」


 魔族は大きな羽を広げ、僕の方へ猛スピードで飛んできた。


「総員!!最大火力だ!!!」


 ヒューイさん率いる魔剣兵団は素早く詠唱をし、強大な魔法を魔族にぶつけようとする。


「邪魔…!!!」


 魔族はどういう仕組みかわからないが、その魔法を全て反転させ、術者にそのまま返した。


「魔障壁!!!」


 ヒューイさん達はなんとか魔法を防ぐが、最大火力が仇となり防ぐことに精一杯で動けない。

 その間に魔族は僕に近付く。


「悪い…けど…着いてきてもらう…」


 魔族がそう言うと、フレアさんとリリィさんが魔族に斬り掛かる。


「うぉらぁあ!!!!」


「はぁっ!!!」


「チッ…さっきの奴らより厄介…」


 二人の猛攻に後退りする魔族だったが、羽を大きく羽ばたかせ空へと逃げた。


「うぅっ!?」


 二人は羽から発生する強風で体制を崩し、その隙に魔族は僕の方に飛び込んだ。


「しまった!?」


「ウルカくん!!!!」


 僕は魔族に抱えられて空高くに連れて行かれた。


「ウルカくん!!!ウルカくぅううううん!!!!!!!」


 フレアさんの声が段々と遠く離れ、最後にはもう聞こえなくなってしまった。

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