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第四十話 雷獣の嘘と汚れた牙


 獄炎火山の洞窟内、転移魔法で散り散りになったメンバーは着々と集まっていた。


「よし!これで残るはウルカとキリオだけだな!」


 その中には、浮かない表情のフレアとリリィの姿もあった。


「ウルカくん…大丈夫かな」


「万が一にもキリオに劣ることは有り得ません。それにユニコーンさんとレヴィアタンさんもついていらっしゃいます。そうそう大事には…」


 フレアだけで無く自分も安心させる様に語るリリィ。


「それではこれより、エンシェントドラゴンと交戦中のウルカ、キリオの援護、又は救出。それに加えてエンシェントドラゴンの鎮静化の為、メンバー全員で突入する!前衛職は一斉に突入、後衛職、回復担当は出入り口付近で待機し、折を見て攻撃、負傷者の救護に当たれ!」


 そしていよいよ突入という時、メンバーの一人が声を上げた。


「お、おい!キリオだ!!」


 メンバーの指差す先に、腕を押さえて血を流すキリオの姿があった。


「キリオ!!!!お前無事だったのか!?」


「あ、あぁ…なんとか……でも、アイツが……」


「アイツ?ウルカの事か!?奴はどうした!?」


「くぅっ!……油断してたんだ……俺の一撃でエンシェントドラゴンが怯んだと思って……飛びかかった所で返り討ちに……」


「そ、それでウルカは…」


「アイツ…『自分は足手纏いになるから、キリオさんだけでも』って……」


「そ、そんな…ウルカくん…」


 動揺するフレアの脇腹を小突くリリィ。


「だっ!?…な、なにすんの!?」


「よく考えて下さい。ウルカくんが引けを取る幻獣相手に、ウルカくんにコテンパンにされたキリオが善戦する筈ないでしょう」


「あ、そうか……て事は」


「作り話で間違いないでしょう。何か策を講じてウルカくんを置き去りにしてその場を逃げる。その後仲間の元に戻り、自分は幻獣相手に勇猛に立ち向かい、手負のウルカくんを助けようとしたけれどそれを望まれずに後ろ髪引かれる思いで逃走したと伝える。そんな美談でギルドメンバーの士気を上げれば、直接的な撃退に繋がる功績は無くてもなんとなく今回の依頼の立役者になれる。依頼して来た王家の人間には更に話を盛って伝えれば、Sランクにも手が届く……という腹づもりなんでしょう」


「そうか……キリオの奴、そんなズル賢い事!」


 二人の睨みつける先で、白々しく泣いて見せるキリオ。


「クソォッ!!自分が情けねぇ……」


 周りのメンバーも段々と同情の目を向け始めた所で、キリオが声を上げる。


「アイツの犠牲を無駄にしない為にも…みんなで力を合わせてエンシェントドラゴンを追っ払ってやろうぜ!!!」


 キリオの声に合わせて『そうだそうだ!!』『やってやるぞ!』と声を上げるメンバーと、キリオの演技に鳥肌を立てるフレアとリリィ。そんな中、一人の声が響いた。


「あのぉ!!!」


 全員が声のする方を見ると、そこには……


「勝手に死んだ事にしないでもらえますか?」


 声の正体は僕だ。ギルドの人達は全員驚きの声を上げた。


「お、おい!!生きてるぞ!!」「無事だったのか坊主!!」「なんだよ脅かしやがって!!」


 皆んなが喜ぶ中、一人青冷めるキリオさん。


「な、な、なんで……お前…」


「なんでも何も、エンシェントドラゴンさんに静かにしてもらえたので」


 僕の言葉に全員がどよめいた。


「坊主一人で撃退したのか!?」「流石ギルマスが認めた男だ!!」


 賞賛と驚きの中、キリオさんが声を上げた。


「う、嘘だ!!コイツ、ただ逃げてきただけなのに…手柄を立てるために嘘をついてるんだ!!」


 キリオさんの言葉に対して、僕は静かに返した。


「それは…キリオさんの事ですよね?」


「は、はぁ?」


「いや、僕に怪我を負わせて逃げたんだから、もっとタチが悪いですね」


 僕の言葉にメンバーが再びどよめく。


「て、適当な事言ってんじゃねぇ!!そんな言葉、誰が信じるんだよ!!」


「私は信じますよ」


 アルシオンさんの落ち着いた声が響いた。


「あ、アルシオンさん………」


「私達エルフ族は、魔力の感知能力に関しては他の亞人族や魔族さえも凌駕します。自慢では無いですが私はそんなエルフ族の中でも魔力感知に長けております」


「いや、ただの自慢じゃねぇか」


「いえいえ、貴方の筋肉自慢に比べれば、随分奥ゆかしい物だと思いますよ」


 一触即発の危険を察知したゲオルドさんが声を上げる。


「ゴーガン、一旦黙ってろ。アルシオン、話を戻せ」


 アルシオンさんは咳払いをして話を続けた。


「私が感知できるのは、行使された魔法の魔力量、術式内容、そして……」


 アルシオンさんは何かの魔法を使ったのか、突然姿が消えたかと思ったら、キリオの取り巻きの一人の背後に回り、その男の杖を持つ右腕を掴んだ。


「魔法の出所です。貴方の杖から、先程の煙幕、転移魔法と同じ魔力の匂いを感じますねぇ…一体どういうことでしょうか?」


「ウグゥ!?」


 腕を掴まれて痛がる取り巻きと、その姿を見て焦るキリオ。


「そ、そんなの知らねぇ!!ソイツが勝手にやった事で、俺には関係ねぇ!!」


「そ、そんな兄貴!?」


「うるせぇ!!!!」


「おやおや、あくまで白を切るというわけですね…では、決定的な証拠を出しましょう。ウルカくん」


「はいはい…コレですね」


 僕は、アルシオンさんに貰ったペンダントを渡した。


「やはり君は、コレの使い方に気付いていたんですね」


「恐らく期待通りの物はある筈ですよ」


「な、なんだよ!?なんなんだよ!?」


「このペンダントは私が拵えた物でね。周りの音や景色を記録できるんです」


「な、なんだと……」


「この様に魔力を込めれば…ホラ」


 ペンダントの宝石が光を放ち、洞窟の壁にプロジェクターの様に映像を映した。するとそこには、フレアさんの大胆に開いた胸元が映された。


「ちょ!!?!」


 赤面するフレアさん。


「ちなみにこのペンダント、映像は所持者の目線に合うよう調節しています」


「えぇっ!!?いや、その、フレアさん違うんです!!」


「いや、うん……なんとなく気付いてたから…」


 顔から火が出るほど気まずい空気の中『仕方ない』『お前も男だな』とギルドのおじさん達による心無いフォローが入る。そんな中、映像はフレアさんの胸元からリリィさんへと移った。


「おや?何故か逃げる様にリリィ様へと目線を映しましたね」


「…………なんで私に向き直したのでしょうか?」


 ドス黒いオーラで僕を見るリリィさん。


「さて、おふざけはさておき、大事な所まで早送りしましょう」


 早送りできるなら早くやってくれよ!と心の中で叫ぶと、場面は一気に龍の住処へと移った。


「さて、本題はここですね」


「や、やめろ…」


 這いつくばるキリオに近づく。


「やめろ!!!」


 手を貸そうとしたその時、隠していたナイフで切り付けられた場面がしっかりと映っていた。


「この記録から伝わる魔力……隠遁系の魔法ですね。更にこの怪我や血も、高度な偽装魔法ですね」


「隠遁に偽装……お前の十八番だったな、キリオ」


 重く呟くゲオルドさんの声に縮み上がるキリオさん。


「ち、違うんだ!!こんな記録出鱈目だ!!コイツが…何かの魔法で俺を陥れようとしてんだ!!」


「貴方も往生際が悪いですねぇ…」


「だいたい!!コイツ一人でエンシェントドラゴンを黙らせたなんて事の方が絶対嘘だ!!そんな事言う奴、信用できねぇよ!!」


「その答えは、()()()に確認した方が良いでしょう」


「アルシオンさん…もしかして」


 アルシオンさんの意味深な言葉の後、辺りを重苦しい空気が包んだ。


「ほぉ…エルフの小童…我の存在に気付いておったか」


「えぇ…貴方様だけでなく、お仲間のお二人も…正直、正気を保つのに必死でございました」


「あらあら…」


「……バレてた…」


 アルシオンさんの言葉の後、ユニコーンさん、レヴィアタンさん、エンシェントドラゴンさんが姿を現した。


「ぐっ!!?!?!こ、コイツは!!?」


「いくら魔力に疎い貴方でも、この圧倒的な魔力量の前では反応せざるを得ませんね、ゴーガン」


「まさか…三大幻獣!?」


「ユニコーン様とレヴィアタン様は、ウルカくんの側にずっといらっしゃったようですね」


「す、すいません!隠していて…」


「し、しかしどうやって…隠遁魔法で身を隠して…」


「幻獣様の魔力は、人が作った隠遁魔法程度では隠せませんよ。幻獣様は、魔法による()()()()をされていた様ですね」


「…認識阻害?」


「身を隠すための隠遁では無く、世界の認識から自分達を消す。人間の魔力では到底不可能な魔法ですね」


「あらあら、幻獣に随分詳しいのね?」


「森に暮らす民ですので、太古の昔より自然を守り続ける幻獣様には特別な信仰をさせて頂いております」


「……ちょっと…気持ち悪い……」


 幻獣のお三方がアルシオンさんに変態を見る目を向けている。


「して…そこの童…」


「ヒィッ!?」


 エンシェントドラゴンさんがキリオさんに近づく。


「お主…我に刃を向けた上で逃げ仰たと宣ったらしいな…」


「い、いや…そ、それは……」


 腰を抜かし、へたり込みながらもエンシェントドラゴンさんから離れようとするキリオさん。


「はて?そんな精気たぎる者と手合わせした覚えが無いなぁ…」


「そ、そそ、それは……」


「しかし、お主がそう言うならそうなんだろう……そこのウルカよりよっぽど腕が立つという事だな」


「あ、あの………」


「面白い……改めて手合わせ願おうか!!!!」


 エンシェントドラゴンさんが凄むと、背中に本来の龍の姿の様なオーラが見えた。


「ひ、ひぃいいいぃい!!!?!!!!!!?!!」


「あ、兄貴!?兄貴ぃ!!!!!」


 腰を抜かし、失禁しながらも必死で立ち上がり、その場から逃げ出すキリオと、その後を追う取り巻きたち。


「ふんっ!情け無い奴だ…少しはウルカを見習わんか。なぁ!」


「痛っ!痛いですよ!」


 エンシェントドラゴンさんは、笑いながら僕の背中をバンバン叩いた。


「しかしウルカ!なんでお前は幻獣を二匹も引き連れてる!それに!エンシェントドラゴンも懐柔してるようだが、一体何があったんだ!」


 ゲオルドさんに詰められ、僕は神槌と転生については伏せた上で、ユニコーンさんとレヴィアタンさんとは素材集めの最中に偶然出会ったと伝え、エンシェントドラゴンさんの虫歯はユニコーンさんが直した事にして、これまでの事を伝えた。途中エンシェントドラゴンさんが『それは違う』と言いそうになる度、ユニコーンさんにお尻を叩かれていた。


「成る程…そうだったのか。しかし、今後そんな大事は事前に報告しておけよ」


「す、すいません…」


「それと、エンシェントドラゴン様よぉ…虫歯で癇癪起こして魔力を乱すなんて…勘弁してくれよ」


「うぐぅ…」


「申し訳ありません。この子にはキツく言って聞かせるので」


 3人の様子が、教師と問題児と学校に呼び出された母親の様な構図でなんだかシュールだった。


「まぁ、取り敢えず大きな被害が無く終わったから、良しとしよう」


「ところでギルマス。キリオはどうなるの?」


「まぁ今回の一件でアイツの悪事が露見した。他にも余罪が無いか絞り出した上で、冒険者ライセンスの剥奪、長期間の無償奉仕って所だろうな」


「もっと厳罰でも良いと思われますが」


「あたしも賛成」


 フレアさんとリリィさんが怖い顔で言った。


「ま、まぁまぁ。アイツの悪事で人が死んだりしてない以上、この辺が落とし所だ」


 不服そうな顔の二人。


「ウルカくんを酷い目に合わせてこの程度なんて…」


「王家の権限を使ってしまいましょうか」


「そ、そんな必要は無いですから!僕はもう気にして無いので」


「…ウルカくんがそう言うなら」


「命拾いしましたね」


 なんだかんだあったけど、依頼を終えて帰路に着く僕らだった。




獄炎火山 火口付近


 謎の黒いマントを羽織り、禍々しい杖を持った男が宙に浮いていた。


「何故だ?……そろそろ手負の古龍が逃げ出してもおかしく無いというのに…んっ?」


 獄炎火山の迷宮入り口から逃げ出すキリオの姿が見えた。


「……ほぅ……アレは使えそうだ…例の実験を試そうか…」



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