第三十四話 第三の幻獣と旅支度
ギルドでの招集を終え、帰宅すると既にリビングのテーブルを囲んでくつろぐ二人の姿が有った。
「あら、お帰りなさい。思ったより早かったのね。お腹空いた?ご飯にする?」
「……ユニコーン…この家の人じゃ無い…」
「いや、それはレヴィアタンさんも…」
関係ない話をしてる時間は無い、明日の朝にはセルジアから獄炎火山へ出発するんだから。僕は椅子に腰掛けて本題に入った。
「お二人に聞きたい事が有って……エンシェントドラゴンをご存知ですか?」
「あら、あの子がどうかしたの?」
「最近、獄炎火山の活動が活発になっていて、どうやら原因は、そこに住むエンシェントドラゴンが魔力を乱しているからだそうで…」
僕がそう言うと、二人は顔を見合わせて不思議そうな顔をする。
「それ…本当なの?」
「……信じられない……」
「それは、どうしてですか?」
「あの子は好戦的な所は有るけど、基本的に冷静で、別に無闇矢鱈に周りに危害を加えるようなマネはしない子よ?」
「……怖い人……でも優しい人……」
二人から聞く人物像は、現在火山を暴走させているエンシェントドラゴンと重なる部分が見えない。
「……暴走してるのかも…」
僕が不意に呟いた言葉に、四人が反応した。
「……それって…みんなが言ってた…」
「エンシェントドラゴンが暴走している?」
「セレーネモスの…あの子のお母さんみたいに…」
「だとしたら大変だよ!ギガントボアでさえ暴走したら手がつけられないのに、エンシェントドラゴンが暴走してたら…」
全員の顔が不安で曇る。
「……ま、まぁまだ分かりませんから!とりあえずお昼でも食べてから、旅の準備をしに行きましょう!」
「…お気遣いは有難いのですが」
「こんな気分でご飯なんて……」
今日の昼食は、コカトリスのフライドチキンとメタルホーンブルのチーズで作ったマルゲリータ、デザートはカヒの豆(コーヒー豆の様な物)のカフェオレアイス。
「美味しいぃ!!!チーズトロトロ!タムトとの相性抜群!コカトリスはサックサク!!」
「甘さとほろ苦さのバランスが素晴らしい…」
スッカリ笑顔になった二人と、なんとなく一緒にご飯を食べた幻獣の二人も一緒に、冒険の買い出しに向かった。
「冒険の荷物は最小限に!必要最低限の物で身軽にするってのが基本だけど…」
「我々のパーティにはウルカくんが居ますから、その辺りは気にしないで良いと思われます」
容量無制限で重さも影響しないアイテムボックスは、改めてかなりのチートなんだと認識した。
「で、どんな物を準備すれば良いんでしょうか?」
「基本は、日持ちのする食糧、キャンプの道具に火を起こす為の火打石、着替えに装備品って所かな?」
「食糧は日持ちする必要がありませんね」
「あ、そうか」
やっぱりチートだな。
「あとはキャンプ道具……テントに寝袋…火を起こすなら……装備品…」
「ウルカくん、なんか考え込んじゃった」
「何を考えてるかだいたい想像がつきますね」
「……私も…わかる…」
「なんとなくウルカくんが理解出来てきたわ……でも待って!」
ユニコーンさんが声を上げて、僕はビックリして思考が止まった。
「な、なんですか?」
「ウルカくんでもどうにもならない準備があるのよ!」
「そ、それは…一体…」
「それを聞くのは野暮って物よ」
「しかし!僕も何かお手伝い出来るなら…」
僕が言いかけた時、ユニコーンさんは僕の耳元で囁いた。
「女の子は、女の子の下着を準備しないとダメなの」
僕は一気に顔が赤くなった。
「な、なるほど!それはどうしようもありませんね!で、では!僕は僕で準備をするので、家に戻ります!」
僕は逃げるようにその場を後にした。
自宅に戻ると、今頃は女子同士下着を選び合っているのかなぁという悶々とした気持ちを振り払いながら、冒険の準備を始めた。
2〜3時間程経過し、四人が家に戻って来た。
「ただいまウルカくん!……ってなんじゃこりゃあぁ!!」
「あぁ、お帰りなさい!」
「やっぱりこうなってたか」
「しかし、想像以上です…」
「……す、すごい……」
家の中には、冒険の準備として作った僕の作品が多数有った。
「これは…なんですか?」
「コレは寝袋です。セレーネモスの布と、マンティコアとコカトリスの羽毛で作った物です。特殊な素材を組み合わせた結果、通気性と保温性、両方に優れたオールシーズン対応の寝袋になってます!」
「こっちは?」
「こっちは携帯用コンロです。熱に強いミスリルを箱状にし、その中に火の魔石を入れて作った道具です。ボタンに組み込んだ雷の魔石と連動させているので、火加減も自由自在です!」
「どちらも聞いたことの無い物ですが…もしや?」
「はい、前世の知識です!そして極め付けは……こちらへどうぞ!」
僕は四人を連れて家の裏に来て、ある物を見せた。
「こ、コレは…テントですか?」
「はい、セレーネモスの絹糸で作った布と、ミスリルのフレームで作ったテントです!」
素材を聞いて唖然とする二人。
「まぁ!とっても丈夫そうね!」
「……剣も炎も効かない……」
「やっぱりこれくらいの方が色々安心かと」
「それに大きいわねぇ」
「多分、六人くらいは寝泊まりできると思います」
フレアさんとリリィさんが、何やらヒソヒソと話している。
「…ねぇリリィ、王族だったらこれぐらいの物、持ってたりする?」
「…ある訳が有りません。こんな城一つと同じくらいの価値がありそうなテント」
「だよね…」
「これだけ準備すれば、問題無いでしょうか?」
「う、うん…」
なにやらフレアさんとリリィさんがため息を吐いてるが、大丈夫と言うなら大丈夫なんだろう。
「ところでその冒険、私達もついて行って良いのかしら?」
「えっ?ユニコーンさんとレヴィアタンさんもですか?」
「……エンシェントドラゴン……久しぶりに会いたい……」
「一応ギルドの規約上、従魔契約を結んでいない魔獣は連れて行けないんです。ましてや伝説の幻獣となると…」
「そうだ!二人も冒険者ギルドに登録すれば…」
「人間、亞人族以外は登録できないです」
「い、言わなければわからないよ!見た目亞人族だし!」
「水晶玉で引っかかるでしょう」
「ぐぬぅ…」
こちらでわちゃわちゃしていると、ユニコーンさんがそっと手を上げて提案した。
「別に冒険者のパーティに参加するつもりはないわ、こっそりついて行くなら問題ないでしょ?」
「そ、そうなんですかねぇ…」
「…迷惑かけない……それに…隠れるの得意……」
「そうなのよ!」
二人は自信満々にそう言うが、僕とフレアさん、リリィさんはなんの事だかわからない。
「つまりね…」
〜セルジアのとある酒場〜
雷獣の牙の面々がテーブルを囲んで酒を飲んでいる。
「クソッ!あのガキども…俺様を舐めやがって!ゴーガンとアルシオンが出て来なきゃ、今頃はアイツを…」
キリオのテーブルにマグを叩きつけ、エールが周りに飛び散る。
「でも、アニキの拳を受けるなんて、あのガキ中々やり手ですぜ?もしかしたらアニキでも…うぎゃっ!!」
話してる最中の取り巻きの首を掴んで中に持ち上げるキリオ。
「おい……今なんて言うつもりだった?」
「い、いえっ!!なんでも無いです!!!!」
キリオが手を離すと、床に転げた取り巻きは咳き込みながらうずくまっている。
「今度の依頼は国王直々のもんだ!俺達雷獣の牙が何かしら功績を挙げれば、間違い無くSランクに格上げされる!!」
「で、でも、エンシェントドラゴン相手に功績を挙げるって言っても、討伐どころか撃退だって…」
「バァカ!んなもん剣鬼同盟でも青眼の一矢でも無理に決まってんだろ!」
「じゃ、じゃあ…やっぱり全体で協力して…」
「それじゃあ別パーティに埋もれて活躍したかよくわかんねぇだろ!……要は一番目立つ行動をすりゃ良い。その為にあのガキには役に立ってもらう……ケケケッ!」




