第三十話 増えた仲間と海鮮丼
レヴィアタンさんの件の後、浜辺で僕はユニコーンさんに問い詰められ、自分が転生者であると言う事、ヴォルカヌスの神槌についての事を白状した。
「……成程、転生に神器ねぇ」
「信じては貰えないかもしれませんが…」
「いいえ、ウルカくんの事信じるわ。それに、私やレヴィアタンのスキルが『神器』によるものなら説明がつくもの」
「フレアは知ってたんですね?なんで言ってくれなかったんですか?」
「い、いやぁ…ウルカくんが内緒って言ってたし、それに、王女様がこんな凄い力の事を知ったら…」
「悪用しかねないと?心外ですね」
不服そうな顔のリリィさんに詰め寄られるフレアさん。
「ウルカくんが望むなら口外する訳がありません。それに、触らぬ神に祟りなし。女神の関わる様な物を悪用したとあれば、どんな神罰が下るかわかったものではありません」
「ご、ごめん……」
「フレアさんを責めないで下さい。言わないようにお願いしたのは僕ですから」
「でも……オジサンはどうして神器なんて…」
「カミスワ…女神様曰く、グランツさんは生まれついての強運の持ち主だったらしいので」
「それなら二体の幻獣と会えた事も頷けるわね…にしても、異世界から来たって言うのは少し驚いたわね…」
「えぇ…そんな話、聞いた事……あっ」
リリィさんが何かに気付いた様な顔をした」
「どうしたの?」
「いえ…そう言えば昔の文献で、バルティシオの祖と言われる『ライオネル』様が、ご存命の頃によく分からない事を言っていたと書き記されていて…なんでも『いんきゃ』やら『ようきゃ』やら『らのべ』だとか……まるでこの世界に無い物の様な事を…」
ライオネルさんは僕と同じ転生者だ。しかし…どんな言葉を残してるんだ……
「そしたら、ウルカくんが作ってくれる美味しい料理や、部屋に置いて有る『エアコン』みたいな便利な道具も、異世界の文化って事なのかしら?」
僕が頷くと、ユニコーンさんやリリィさんが納得した様な顔をした。
「あの…もし、僕の事が気味悪い様でしたら…」
「縁を切れと?冗談じゃ有りません」
リリィさんがピシャリと言った。
「貴方と私、そしてフレアは今やパーティの仲間であり友人、そう簡単に縁が切れてたまるものですか。それに、貴方は大叔父様の家に勝手に住み着いた。私が監視しておかなければなりません」
「そ、そうでしたね……」
「私だって、神器を作るために角を使われたんですもの。勝手に繋がれた縁をそっちから切ってくれなんて…失礼しちゃうわ!」
頬を膨らませるユニコーンさんに、僕は少し困惑してしまった。
「とにかく、縁を切ろうだなんて意思は、これっぽっちもありません」
「これからもウルカくんの料理食べたいしね!」
「よかったね!ウルカくん!」
「……はいっ!」
みんなとの確かな絆を感じて、胸が温かくなった。
「あ…あのぉ……」
レヴィアタンさんが申し訳無さそうに声を上げた。
「わ、私……こんな大事な事…聞いちゃって…良かったの?……今日会ったばかりの……ほとんど見ず知らずの…私なんかが……」
レヴィアタンさんが少し寂しそうな顔でそう言うと、四人で困った顔を見合わせた。するとユニコーンさんが口を開いた。
「こ、これも何かの縁ってやつよね!秘密を聞いたレヴィアタンも、これからはウルカくんの友達って事で…」
ユニコーンさんが何か言いた気な顔でこちらを見てる。
「も、勿論です!良かったらレヴィアタンさんもウチに来ませんか?」
「……私…海の底からほとんど出た事ないし………水が無いと移動出来ない…」
「水ならウルカくんの家の裏には川が流れてるよ?」
「…川は明るくて苦手……人の目が気になるし……」
「人間体でユニコーンさんの背中に乗って行きますか?」
「陸地はもっと苦手……」
「確か、貴方は人間体だけじゃなくて、液体にも変化出来た筈よね?それなら人にも見られないでしょ?」
「…だけど……なんだか外は怖くて……」
根っからの引きこもり体質みたいだな…
「じゃあ、やっぱりウルカくんの家に行くのは諦める?」
「……それは……寂しい……」
「わがままですね」
「ちょっとリリィ!」
「…うぅ……」
今にも泣き出しそうなレヴィアタンさんを前に頭を捻っていると、ふとある事を思いついた。
「レヴィアタンさん!水が有って人目に付かない所なら良いんですよね!液体の変化も出来るんですよね!」
「えっ……うん……」
早速家に帰り、作業を始める。家の前でフレアさんと力を合わせて穴を掘る。
「そりゃそりゃそりゃああ!!!!」
流石のパワーでどんどん穴を掘って行くフレアさん。フレアさんの掘った穴の内側を、アイテムボックスから取り出した岩を積んで強化粘土で固めて行く。
「んっ!?ここ硬いなぁ…」
「岩盤に当たりましたね…」
「剣が有ればなんとかなるかもだけど、剣は上に…」
ふと見上げると、最初に開けた穴がとても小さく見え、かなり深く掘った事がわかる。
「…どうやって上がるのこれぇ!?!」
「アイテムボックスにハシゴを入れてますから」
「なんだ…じゃあ取りに行こうか?」
「いえ、ここは僕に任せて下さい!」
神槌を取り出してスキルを行使する。
『破砕撃』
岩盤にヒビが入ると、そこから水が染み出して来た。
「やった!丁度地下水の層に届いたみたいだ!」
防腐剤を塗ったハシゴを内側に取り付けながら地上に上がり、穴の周りに石を積んで固める。
「よし…出来た!」
「なるほどね…『井戸』を使うのね」
「これでレヴィアタンさんがここまで来れるの?」
「地下水は最終的に海底から湧き出る『地下湧水』なります。そこを伝って行けば恐らく…」
「しかし、どうやってこの場所を伝えるのです?」
「…あっ!?」
そこまで考えて無かった…地下水はそこら中を巡ってるのに、この場所を見つける方法なんて…そんな事を思ってると、ユニコーンさんがあっけらかんと言った。
「大丈夫よ。レヴィアタンは海底で暮らす幻獣。他の生き物とは比べ物にならないくらい耳が良いのよ。水に音が伝われば、あの子の耳に届く筈よ」
そう言って井戸の中に向かって大声を出す。
「レヴィアタ〜ン!!ここよ〜!!」
ユニコーンさんが井戸から離れ、暫くすると井戸の中から水音がボコボコと聞こえ、カンカンとハシゴを上がる音が聞こえた後、井戸の岩に青白い手がかかり、長い髪のレヴィアタンさんがゆっくりと顔を出す。
「…なんいうか…ちょっと怖い感じっていうか…」
「お化けみたいね」
それは、前世で見た有名ホラー映画そのままの見た目だった。
「………………」
「リリィさん?どうしました?」
「はっ!リリィはお化けとか苦手だったんだ!大丈夫だよ!あれはレヴィアタンさんだからね!」
「わわわわわかっわかってままま……」
小刻みに震えながら喋るリリィさんはさておき、井戸から出て来たレヴィアタンさん。
「どうでしたか?レヴィアタンさん」
「…うん…これなら大丈夫…いつでも来れそう…」
「それじゃあ改めて、ようこそ!」
レヴィアタンさんは、ウチを見て感慨深そうな顔をする。
「これがウルカくんの……オジサンの家……」
家の中へ招き、座ってもらうと早速料理を始めた。そして僕は、感動を抑えきれなかった。
「ついに…ついにお米が手に入った!!」
釣りをする前に、ファルマーレの街で米を大量に買い付けていた。今日はこれを使って料理を作る。
まずは米を研ぎ、先日作っておいた釜に入れて水につけておく。その間にソイスの実を絞り、ワスブの根(ワサビの様な物)をおろしておき、レヴィアタンさんから貰ったお魚を捌く。誰も見た事の無い魚だけど、イエテロは恐らくブリ、サマンは鮭、ブレーマは鯛、そして一際大きいツォーネはマグロに近い魚の様だ。それぞれを捌き、柵にした後は今日食べる分だけ残し、あとはアイテムボックスにしまう。シザーシュリンプと言う魔物の殻を剥いて身を切り分ける。水につけておいたお米を火にかけて炊く、その間に柵を刺身にしておく。炊き上がったご飯をどんぶりに盛り、その上に刺身を並べる。
「出来ました!ファルマーレ流海鮮丼です!ソイスの汁をかけて食べて下さい。お好みでワスブも使ってみて下さい」
並べられた料理を見て、フレアさん、リリィさんが神妙な顔をする。
「…どうかしましたか?」
「………これ…生の魚だよね?……」
「…食べても大丈夫でしょうか?」
失念していた。この手の文化の人達は、生魚を食べる風習は無いのが基本だった。
「……人間は…魚は生で食べない?……」
「そういえばそうよね。でもウルカくんの世界では食べるのね?」
「え、えぇ…食べない地域も有りますが…あの、気になるようでしたら食べなくても……」
「あら、私は食べるわよ?」
「…私も……普段から魚は…生のまま食べるし…」
ユニコーンさんとレヴィアタンさんは、臆する事なく海鮮丼を口に運ぶ。
「………これ…凄い!……美味しい!!」
「生のお魚とソイスの汁がこんなに合うなんて、長く生きてて初めて知ったわ!それにライスとも相性抜群ね!」
美味しそうに食べる二人を見て、フレアさんとリリィさんが生唾をゴクリと飲み込む。
「う、ウルカくんの作ってくれた料理だもん…食べれない訳無いよね…」
「いざとなれば回復魔法も有ります」
二人顔を見合わせて頷き、意を決して口に運ぶ。
「………こ、これは!!」
「………おぉおいしいいぃいいいい!!!!!?!?!」
二人とも目を輝かせている。
「生の魚ってこんなに美味しかったの!?凄いよ……これは革命だよ!!!」
「程良い脂のイエテロ、味わいの強いサマン、弾力の有るブレーマ、甘くとろけるシザーシュリンプ、そして旨味たっぷりのツォーネ……ソイスの汁とライスの相性も去ることながら、虫下しとしてしか使われないワスブが良いアクセントになっている…」
「どう?レヴィアタン。美味しいでしょ?」
「うん……美味しい…すごいよ!」
「海底から出て来て正解でしょ?」
「うん!!」
力強く返事をするレヴィアタンさんを見て、なんだか嬉しくなっていた。
海鮮丼を食べ終え、皆んなそれぞれ帰って行く事に。
「じゃあ…ウルカくん……また…来ても良い?…」
「勿論です!いつでも来てくださいね!
「う、うん!…ありがとう!…」
井戸に入りながら手を振るレヴィアタンさん。その後、皆んなもそれぞれの帰路についた。
家に入って一息つこうかと思ったら、祭壇部屋から光が漏れていた。
「……そっか…今日皆んなに秘密を伝えたから、その事かな?」
何か文句を言われるかもしれないと思うと、なんだか気が重くなった。




