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第三話 革命の発明者

 やっと見つけ出した家屋に恐る恐る入ると、中は真っ暗だった。


「何か灯りになる物……あ、ランタン!」


 埃を被ったランタンが落ちており、拾い上げて試しに色々触ってみたが、うんともすんとも言わない。


「…まぁつかないよね…直せたら良いんだけど…創造主の力でなんとかならないかな?」


 ランタンを直したいと念じながら創造主を唱えると、目の前にレシピが現れた。


『ランタンの修理』

必要素材

・綿

・油


「おぉ!レシピが出て来た!でも綿と油か……家の中に無いかな…」


 フィールドサーチを使うと、部屋の中に綿と油が置いてある事がわかり、暗がりの中でフィールドサーチの示す位置を頼りに見つけ出し、すぐそばに運良く火打石まで有ったので併せて回収した。


「コレで使える様になりそうだ!」


 手元が見辛い中で、何とか綿で芯を作り、古いものと差し替えて油を入れ、残った綿と火打石で火をつけ、やっと灯りがついた。


「よし!上手く行ったな!」


 ランタンを持って家の中を見ていく事にした。先程綿と油を取り出した場所を見ると、作業台の様なテーブルに付いた棚だった。更に周りを見ると、取手のついた木箱、消し炭のような物が溜まっている縦穴、平らな金属の台と金槌が有った。


「コレってもしかして……鍛冶の道具かな?」


 溶接の勉強をしていた時に、少しだけ鍛冶についても勉強した為、鍛冶の道具などについても知識があった。恐らくコレは鍛治に使う炉と金床だろう。


「鍛冶の道具に作業台……ひょっとしてここに住んでた人って、僕と同じ『物作り』が好きな人だったのかな?」


 すると、テーブルの上に並べられた本の中に気になる物が一冊有った。表題は『手記 グランツ・ローゼンベルグ著」と記されていた。


「表に有ったお墓に書いてた名前と同じだ。やっぱりあのお墓はここに住んでた人のものなんだ……失礼かも知れないけど、どんな人か気になるしな」


 僕は、グランツ・ローゼンベルグの手記を開いた。


〜花の月 一の日〜

 "ついにこの日がやって来た。このグランツ・ローゼンベルグによる奇跡の『発明』の日々が今ここから始まるのだ。

 国の人間達には馬鹿にされ、家族からはさっさと辞めろと言われ続け、誰にも認められなかった私の生き甲斐。それがここなら思う存分、誰に邪魔をされる訳でもなく没頭出来るなんて、これほど素晴らしい事はない。

 「地位も名誉も捨て、この様な事のために人生を棒に振るとは、正真正銘の大馬鹿者だ」と国の人間は言うだろうが、私にとって発明とは富や地位とは比べ物にならない私の人生そのもの。見てくればかりの小部屋で仕事に励み、周りの人間の顔色を窺う人生など、私にとっては死も同然。

 本当の意味での私の人生は今ここから始まるのだ。"



 最初のページにはこの様に書かれていた。そこからはグランツさんの発明の日々が書かれており、井戸水を引き上げながら一瞬で氷に変える管を発明したら、管に氷が詰まって破裂したり、逆に温水にする機械を作ったら、熱すぎて一気に蒸発してまた破裂したり。畑全体に種を一斉に撒く機械を作ったら、空高くまで種が飛んで行き、どこに行ったかわからなくなったり、大剣の破壊力とダガーの軽さを合わせた武器を作ろうとして、ダガーの様に軽い柄と大剣の刃を合わせた剣を使ったが、一振りで柄が折れて怪我をしそうになったなど、発明しては失敗の繰り返しをしていた。


「確かにこれじゃあ……辞めろって言われるか」


 苦笑しながら手記の後半ページまで読み進めると、気になる文章が書かれていた。


〜土の月 十二日〜

 "私はついにやった!我が発明人生の集大成と言える最高の発明を思いついたのだ!

 苦節15年、家を飛び出し街を離れ、失敗の繰り返しだったこの生活が、この発明によって全て報われるのである。この発明は大袈裟で無く世界を変える物となるだろう。"


「グランツさん……一体何を思いついたんだろう?」


 そこから暫くは世紀の発明の完成を目指す試行錯誤が繰り返され、一進一退の研究がなんと10年続いていた。

 

〜氷の月 二十四日〜

 "恐らくこの文章が、グランツ・ローゼンベルグが記す最後の文となるであろう。

 この文章が誰の目に触れるか、若しくは誰の目にも触れず消え行くのかは分からないが、辞世の言葉として後世の人間達に残したい言葉を記していこうと思う。

 私は40年間、周りの人間の期待や思惑に従い、本当の志に蓋をする様にして生きていた。それでも身近な者によれば私は「放蕩者」「希代の変人」であった様だ。

 それでも私の中では、外に飛び出す事の出来ない彩りに満ち溢れた真なる想いは、私の内側で沸々と熱を上げ続け、そんな想いに40年もの間嘘をつき、籠の中に囚われ、空を忘れた鳥の様に国の人間達を真似る日々を過ごした。

 国の仕事を全て放り出し、この家で発明に明け暮れた日々は本当に幸せだった。真っ白だった私の時間は色を取り戻し、本当の命が宿った様だった。

 しかし現実は残酷だ。いや、街にいた時から分かりきってはいたのだ。私には溢れる発明の想像力は有っても、それを現実の物にする創造の技術が皆無だったのだ。実際私の発明で成功した物は、この25年で片手で数えられる程度だ。私が望んだこの生活で、改めてこの現実にぶち当たるとは……思っていた。私はそれすらも望んでいたのだ。


 私は思う。夢とは叶える物では無い、目指す物なのだ。


 大願の成就は直向きな努力だけでは成せない事が世の常。持って生まれた才覚や、千載一遇の運も関わる物であり、それの有無がわかるのは、人生最期の目前、今の私の状況でやっと気づける物なのだ。

 しかし、そんな失敗に気づけるのも、目指した結果でしか生まれないのである。

 この家に来る前の色の無い日々の中では、成功にも失敗にも気付かず、只々日々をすり潰していたであろう。

 長々と書き連ねたが、総じて私の人生は、この挑戦の日々のお陰で幸せに満ちた物になったのだ。

 後世を生きる人間達よ、諦めは全ての時間を止める呪いだ。自分の生きる意味は自分でしか見出せない。自分の夢に火を灯し、悔いの無い道を照らすのだ。

 私の人生の悔いといえば、10年かけて研究を続けた発明に、答えを出す事が出来なかった事ぐらいだ。

 後世の技術がこの発明に足る物であるならば、この手記を手に取ったまだ見ぬ君よ、グランツ・ローゼンベルグの人生最期の最高傑作に命を宿して欲しい。


 私と同じ夢を抱く者に、この言葉が届く事を願い、グランツ・ローゼンベルグは、この生涯を終えよう…"

 


 この文章を最後に手記は空欄となり、背表紙の裏に一枚の紙が挟まっていた。そこには大まかな設計図の横にこんな文が書かれていた。


〜全ての人々が、想像と創造に生きる為に〜

『ヴォルカヌスの神槌』


「コレがグランツ・ローゼンベルグ最期の発明……もしかしたら、僕の『創造主』の力でなんとかならないかな?」


 設計図に描かれたデザインと、横に書かれていた文をイメージしながら『創造主』を唱えると、今までとは違う大きな光と共に、一枚のレシピが現れた。


「こ、これは!?今までの『創造主』とは違う!」


『ヴォルカヌスの神槌』

・幻魔石

・一角獣の角

・神龍の鱗


「コレがレシピか……作り方が難しいのは勿論だけど、材料がどう見てもレア素材だもんな…こんなの簡単に手に入るはずが……」


 何の気無しにフィールドサーチを発動すると、すぐ側に必要素材の反応が多数。しかも10や20では効かない数が。


「……え?何コレ?」


 反応のあった場所に行くと小さなドアが有った、開けてみると6畳程の部屋の中にあらゆる素材が乱雑に置かれており、その中に幻魔石、一角獣の角、神龍の鱗があちこちに置かれていた。


「グランツさんって片付け下手なんだな……」


 試しに素材を鑑定眼で見てみた。


『幻魔石』

最上位クラスの魔獣のコアとなる魔石。その夥しい魔力量と採取の難しさから、小指一つ分の大きさで城が建つ程の価値が有る。


『一角獣の角」

幻獣『ユニコーン』の角。魔力や衝撃を記憶する能力があり、ユニコーンは対峙した相手の魔法、攻撃を角で吸収し、それを更に強化した攻撃を相手に喰らわせる。ユニコーンの生存個体数の少なさ、人前に殆ど姿を現さない習性、ユニコーンの戦闘能力の高さから、人間が採取する事は殆ど不可能とされている。一度折れたユニコーンの角は、三日程で再生すると言われている。


『古神龍の鱗』

災害級魔獣『エンシェントドラゴン』の鱗。エンシェントドラゴンは非常に巨大な竜であり、その肌を覆う鱗は頑丈さだけで無く、その一枚一枚が魔力を増幅させる機能が有り、エンシェントドラゴンに無尽蔵な魔力を与える。


「………色々と凄すぎて驚く事も出来なかった…てかグランツさんはどうやってこの素材を集めたんだ?しかもこんなに沢山……まぁ色々考えても埒があかないか。素材とレシピが揃ってるんだ、早速作ってみよう!」


 そう思った途端、ブブー!と言う音と共に、目の前にウィンドウが現れた。


『このアイテムを作る為には、DEXが100必要です』


「……あぁ、そういうのがあるんだ……よし、それならレベルを上げて、DEX100を目指して頑張るぞ!」


 力強く右手を突き上げ、大声を上げると、その声に反応して家のあちこちからガタガタ!と言う何かの崩れる音が聞こえた。


「……その前に家の修理かな?暫くお世話になりそうだし……」


 前途多難なスローライフがここから始まる……かも?

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