第二十八話 シーフードと海の主
青い海、白い砂浜、はしゃぐ薄着の美女三人。
「リリィ!それっ!!」
フレアさんがリリィさんに向かって水をかける。
「やりましたね…それっ!」
フレアさんにやり返そうとするリリィさんだったが、フレアさんはユニコーンさんを盾にして免れる。
「あぁん!もう、フレアちゃん!悪い子ねぇ…それっ!」
「ぶはっ!やったなぁ!」
三人がはしゃぐ少し離れた場所で、僕は海に釣り糸を垂らしていた。
「……釣れない…」
遡る事二日前、4人で夕食を囲んでいた時。その日のメニューは『アーマースパイダーのシーフード風ピザ』だった。
「う〜ん…やっぱりアーマースパイダーはおいしいなぁ…あの見た目からは想像付かないよなぁ」
「東の地域に赴いた時に食べた『スパイキークラブ』に似た味ですね」
クラブって事は蟹系の魔獣かな?
「東の海に居る魔獣も、森の魔獣と違った良さがあるのよねぇ」
うっとりと語るユニコーンさん。
「海鮮かぁ……お米が有れば色々出来るのになぁ……」
「米…ってなぁに?」
いかん、普通に前世の言葉を使ってしまった。
「いやっ!そのなんと言うか…米じゃなくてライスと言うか…そう言う穀物が地元にあって…」
ライスも前世の言葉じゃ無いか?テンパりながらそんな事を考えていると。
「ライスと言う穀物は、確か東に有りましたが…」
「……有るんですか!!!?」
「はい、東の地域の主食で、海の食材と一緒にリゾットにして食べるのが一般的な様です」
この世界に…米が有るのか!
「その東の地域ってどの辺りですか!?」
「ここからは馬車でも丸二日はかかりますけど…」
中々に遠いが…致し方ない!そう思っていたら、ユニコーンさんが口を開いた。
「普通の馬車で2日なら、私だったら半日もかからないわね」
「えっ?どう言う事ですか?」
「……貴方達、私が『幻獣ユニコーン』だって事…忘れてる?」
そういえばそうだった。最近はウチによく食べに来るお姉さんとしか認識してなかった。
「今度みんなで行ってみましょうか?」
「良いんですか!?」
「食材探しなら『フォルマーレ海岸』がよろしいかと」
「よしっ!じゃあみんなで行こう!!」
そんな風に浮かれながら、翌日のフォルマーレ海岸行きが決まった。
しかし、現実は甘くなかった。気合いを入れて作ったミスリル製の釣竿と釣り針、手作りのリールにセレーネモスの釣り糸。餌には海洋魔獣の好物と言われる『ミルキーワーム』を沢山用意したと言うのに…
「ウルカく〜ん!どう?」
「あ、み、皆さん…」
いつもより薄着の女性陣に対して目のやり場に困る。特にフレアさんとユニコーンさんの球体がいつも以上に強調されてて辛い。ふとリリィさんの控え目なモノに目が行ってしまう。
「……何かウルカくんの目線に悪意を感じます」
「な、何でですか!」
「中々釣れないみたいねぇ」
「そう簡単には行かないみたいですね…」
僕が少し落ち込んでるのを察してから、フレアさんが元気づけるように提案をしてきた。
「気分転換にウルカくんも海で遊ぼうよ!」
「そうね!ウルカくんもジッとしてるだけじゃ退屈でしょう」
「……そうですね、僕も一緒に遊ぼうかな!実は遊べる道具も作ってきたんです!」
そう言って僕は、アイテムボックスからある物を取り出した。
「なんですか、それは?」
「『ラバーフラッグ』皮で作ったビーチボールです」
「ビーチボール?」
しまった、コレも前世の道具だよね…
「と、とにかく遊んでみましょう!」
僕は砂浜に線を引き、アイテムボックスから支柱とネットを取り出し、みんなにビーチバレーの遊び方を教えた。
「フレアっ!」
リリィさんが上げたボールめがけてフレアさんが飛び上がる。
「それっ!!!」
「甘いわね!」
フレアさんの強烈なスパイクを止めるユニコーンさん。先程教えたばかりだと言うのに、持ち前の身体能力の高さで全員ビーチバレーを極めつつある。コレは僕も負けていられない!
〜フォルマーレの海底〜
深く暗い海の中で、大きな黒い影が蠢く。
「……コノニオイ……ナツカシイ……ドコダロウ…」
黒い影が動き、向かった先には小さな釣り針があった。
「ふぅ!遊んだ遊んだ!!」
「フレアさんのスパイクは強烈過ぎますよ…」
「一回ウルカくん吹き飛ばされましたからね」
「そうよ!私もう心配しちゃったわよ!」
「だからと言って、膝枕で看病しなくても…」
かなり恥ずかしかったが、中々楽しく遊べたのでよしとしよう。
「……ウルカくん、アレ…糸が引いてませんか?」
リリィさんがそう言うと、確かに竿が目一杯しなって糸が出ていた。
「ほ、本当だ!!」
急いで糸を巻こうにも重くて中々巻けない。
「アタシに任せて!おりゃあぁ!!!!」
フレアさんの怪力で糸が巻かれていく。
「あっ!見えてきたわ!」
ユニコーンさんの指さす方には、海面に映る大きな影が有った。
「コレは…かなりの大物ですね」
「ぐうっ!!こっから上がらない!」
「みんなで上げましょう!!」
四人で力を合わせて引き上げる。
「一気に行きましょう!せーのっ!!!」
全員で一気に引き上げると、獲物が正体をあらわした。
「な、なにコレ……」
「デカすぎるでしょお!!!」
海面から上がってきたのは、体長何十メートルかもわからない巨大な蛇だった。
「えっ!?『レヴィアタン』!?」
ユニコーンさんが驚いた様に言う。
「アナタ……ユニコーン?…」
「へ、蛇が喋ったあ!!!」
驚くフレアさんを落ち着かせる様にユニコーンさんが話し始める。
「ただの蛇じゃ無くて『幻獣レヴィアタン』よ」
「幻獣……て事はユニコーンさんと同じ!?」
「そうよ、この子は海を司る幻獣。普段は海底に引き篭もってる筈なのに…釣り針に反応するなんてどう言う事?」
ユニコーンさんが語りかけると、レヴィアタンさんは光を纏い、人間体になって砂浜に立った。その姿は、長く青黒い髪で顔はほとんど隠れてる、背丈はユニコーンさんより少し小さいくらいで、お尻の辺りから長い尻尾を垂らしてる。そしてお約束の大きな球体も……これは異世界の決まりなのか?と思いながらリリィさんの控えめなモノの方に目がいく。
「……やっぱりその目…不愉快です」
「いや!その…なんかごめんなさい…」
取り敢えずリリィさんに謝りつつ、レヴィアタンさんから話を聞く事になった。




