第二十七話 変な絆と遠い約束
〜二十年前 とある森の中〜
優雅に歩きながら周りを見渡す一頭のユニコーン。
「コノアタリ…カギナレナイニオイ……モリヲアラスモノ…」
その時、ユニコーンの目に入ったのは一人の男だった。その男は髭を蓄え、筋骨隆々としており、見るからに異質な雰囲気だった。ユニコーンはすぐさまその男に駆け寄り威嚇した。
「ニンゲン…ナンノヨウ……タチサリナサイ」
男は怯えているのか、動かないままユニコーンをジッと見つめていた。
「キコエナイノ?……ハヤクタチサリ…」
「見つけた…」
「…ハイ?……」
「見つけたぞ!我が発明の材料を!どりゃああああ!!!」
「ヒィイイイイイイン!!!?!?!」
襲いかかるその男相手になす術なく、ユニコーンは角をへし折られたのだった。
「すまんがこの角はもらって行くぞ!ではさらば!」
「キサマ……ニガストオモ…」
ユニコーンがそう言った時には、もう男の姿は無かった。
「ナ、ナンナノ……」
数日後、ユニコーンの角が治った頃、再びあの男が森にやって来た。
「キサマ!……アノトキハヨクモ…」
「おぉ!すまんな!あの時の角は失敗してなぁ!だから今日も角を貰いたくて来たんだ!」
「ソ、ソンナコト…ユルスワケナイ!」
数分後、角をへし折られたユニコーンと、大笑いしながら立ち去って行く男が居た。
それからと言うもの、発明用だけで無く予備用もと言う事で、十年の間何度も何度もユニコーンの角を折りに来た男に痺れを切らしたユニコーンは、人間体となって抗議した。
「良い加減にして下さい!貴方が何度も何度も角を折るから、段々変な形に伸びるようになってしまったんですよ!どうしてくれるんですか!」
「おぉ!それはすまなんだ!こちらとしては角も充分貰ったから、もう折りには来ないから安心してくれ!」
「もうそういう問題じゃ無いんです!この変な形の角はどうするんですか!」
「まぁまぁ落ち着かれよ!我が今開発中の物が完成すればその角を直せるやもしれん!そうで無くてもいずれ必ずお前の角を直してやる!約束しよう!」
それから男はユニコーンの元に発明品を持ち込み、角を直す事を試みたが、どれもこれも上手く行かずに終わった。しかし、ユニコーンは不思議と嫌な気分では無かった。よくわからない人間が度々訪ねて来ては、よくわからない発明品を持ち込む、そんな日々が少し楽しくなっていた…そんなある日。
「………あのオジサン…もう暫く来てないわね……」
男が来ない日が一カ月、二ヶ月、三ヶ月……一年、二年と続いていた。
「発明が上手くいって無いのかしら……それとも…もうオジサンじゃなくてお爺さんになってたし……」
ユニコーンは最悪のケースも考えたが、そんな事は無いと首を振った。
「大丈夫…約束したんですもの…必ず直してくれるって…」
〜現在〜
「……ウルカくんの持ってるその槌は?…」
「ええと……グランツさんの設計図を元に、ユニコーンさんの角を使って作った物です。『どんな武器でも直せる力』を持っていて、もしかしてユニコーンさんの角が直ったのは、この槌のお陰かもしれなくて…」
そう言うとユニコーンさんはクスッと笑った。
「なんだ…ちゃんと約束守ってくれたんですね…オジサン……」
少し悲しそうに笑うユニコーンさんの横顔が、何故だかとても目に焼き付いた。
「さぁ!クエストも終わったし!予定とは違ったけどウルカくんの材料も見つかったし!もう帰ろう!ねっ!ねっ!!」
必死に訴えかけるフレアさん。
「フレア……早く森を出たいからって水を差すようなマネはよしましょう?」
フレアさんも限界が近いみたいだ。
「では、僕らはコレで」
「あぁ……そうよね…」
少し寂しそうな顔のユニコーンさんに、僕は続けて言った。
「また遊びに来ても良いでしょうか?」
そう言うとユニコーンさんの顔が、少し明るくなった。
「えぇ、無礼をしてしまった事も有るから、貴方達は客人としていつでも歓迎するわよ」
僕らはユニコーンさんに見送られながら森を出て行った。
数日後、僕は森で手に入れたセレーネモスの繭から糸を紡ぎ、布を作る為の機織りに没頭していた。その後ろでいつもの客人達が食事をしている。
「うーん!!このピザって食べ物最高!カリッともちっとした生地にジューシーなギガントボアの腸詰!そしてタムトとチーズの相性が抜群で……」
「確かに美味しいですが……何故今日は甘味を出して頂けないのでしょう?」
「す、すいません…機織りに夢中でキラーホーネットの蜜を取りに行って無くて…」
「もう…言って頂ければ用意しましたのに…」
「まぁまぁ!たまには甘味以外でもいいじゃん!このピザってみんなで囲んで食べるとなんだか楽しいし!ねぇユニコーンさん!」
「本当にそうね!こんな美味しい物森の中で食べた事無いわぁ…」
先日見送ってくれた筈のユニコーンさんもそこに居た。
「あ、あのぉ……なんでユニコーンさんがウチに?」
「だってぇ…本当に遊びに来てくれるか不安だしぃ…それなら私が遊びに来た方が良いでしょ?」
どうやら森で別れた後、僕らの匂いを追って来てしまったらしい。また一段と賑やかになってしまった。
「ところで、この前のセレーネモスの繭はどうなったの?」
「もう全て糸にして、今は布地を作ってるところです」
「たしか服を作るんだったかしら?何を作るつもりなの?」
「上着とズボン、ブーツとグローブにエプロンを作る予定です」
「……確か、ギルマスに防具の用意を勧められて作り始めたんですよね?」
「でも、その内容ってなんと言うか…防具と言うより…作業服?」
「やっぱり、防具っていうのは僕には合わないかなぁと思って…」
「まぁ、確かにその方がウルカくんらしいかも知れませんね」
「さて、布地もコレだけあれば充分かな!」
機織り機から外した布は、青みがかった白い色に、ぼんやりと光を帯びていた。セレーネモスの糸は絹糸と違って軽くて柔らかい糸なので、布は少しモコモコ、ふんわりとしている。
「うわぁ!綺麗!」
「あの子の羽根の色にそっくりね……」
こうして出来た布と暴走ギガントボアの革を使って服を作り始めた。
一式出来上がった頃には外は暗くなり始めていた。
「よしっ!出来たぞ!」
『妖月シリーズ』
スキル
『月光の薄切羽』
斬撃系攻撃の威力が5倍に増加する。
『妖魔の暴虐』
魔力を全て消費する事で、10分間ステータス全体を10倍に増加させる。
『創造神の気まぐれ』
ありとあらゆる生産をした際、ランダムにステータス上昇効果、スキルが付与される。
またなんだかメチャクチャな物が出来てしまった…スキルとは裏腹に、全体的に少しモコモコとした可愛らしい出来になっている。
「ウルカくん!早速着てみてよ!」
「は、はい!………」
三人がこちらをジッと見ている。
「あ、あのぉ……」
「……あぁっ!ごめんごめん!」
「失礼しました」
振り返る二人に対して、そのまま僕を見てるユニコーンさん。
「ゆ、ユニコーンさん?」
「あら、ごめんごめん!森の生き物って基本裸だから」
ユニコーンさんが振り返った後、着替えながら思った。普通に別の部屋で着替えれば良かったなと。
「着替えました。どうですかね?」
三人が一気に振り返った。
「うわぁ!!凄い似合ってるよぉ!!」
「似合ってる…と言うか…」
三人の目つきがなんだか怪しい。顔もちょっと赤くなってると言うか…
「ダメっ!私我慢出来ないわ!」
ユニコーンさんが僕に飛びかかって来た。
「可愛いいいいぃ!!!!何このフワモコ!しかもこんな小さな身体でエプロンなんて付けちゃって!!そんなの可愛いに決まってるじゃない!!」
まるでぬいぐるみを愛でる様に抱き付くユニコーンさん。
「だ、ダメだ!!私も耐えられないよ!!」
「くっ!致し方有りません!」
その後、三人にひとしきりモフモフされた後、夕食の準備を始めた。
「い、いやぁ…さっきはゴメンね、ウルカくん」
「鍛錬が足りませんでした…」
「あんなの反則ですもの!」
苦笑いをしながら夕食を作る。小麦粉と水、塩、油、マンティコアの卵を混ぜ合わせてしっかりコネる。一まとまりになった物を伸ばして平たくし、5ミリ間隔で長く切り分ける。
記事を一旦置き、フライパンに油を引いてガリカの根(ニンニクの様な物)を刻んだ物と細く切ったオニアを入れて火にかける。香りが出たところで今回の主役の登場。
「う、ウルカくん!!そ、それって……」
「フレアさんが倒した『アーマースパイダー』の足です!」
「そ、それ…食べるの!?」
「先ほども言いましたけど、虫系魔獣も一般的に食用として広まっていますよ?特にアーマースパイダーは高級品として扱われています」
「そ、それは知ってるけど!……て言うか!森の住人のユニコーンさんも、魔獣を食べるのには抵抗がありますよね!?」
「まぁ、良識ある子達なら…でも、この手の子達は人間どころか他の魔獣にも手を出す悪い子だから、私も時々お仕置きしたりしてるし。そもそも私も魔獣を食べる事はあるのよ?」
「そうなのっ!?」
そんな話の最中、僕はアーマースパイダーを捌いた。前世で虫を食べる人が、虫や蜘蛛の類は甲殻類系の味がすると言っていたから、もしかしたらと思ったけど、やっぱり開いて見ると、甲殻の中はカニの身の様になっていた。身を取り出し、フライパンに入れて解しながら火を通す。火が通ると本当にカニの様に赤くなっていった。そこに刻んだタムト、牛乳を入れて煮焼きにし、塩とペパの粉末で味を整える。隣で湯を沸かし、その中に塩と細切りにした生地を入れて茹でる。程よく茹で上がったら取り出し、フライパンのソースと混ぜ合わせる。
「完成しました!『アーマースパイダーのタムトクリームパスタ』です!」
前世で例えると、カニのトマトクリームパスタの様な物が出来た。
「こ、これがアーマースパイダー…美味しそうでは有るけど……」
「早速いただきましょう」
「いただくわね、ウルカくん」
リリィさんとユニコーンさんは躊躇う事なく口に入れた。
「こ、これは……」
「う〜ん!とっても美味しいわ!」
「……こ、これはウルカくんの料理…これはウルカくんの料理……よし…いただきます!!」
二人の様子を見て意を決したフレアさんが、パスタを口に運ぶ。
「う、うぅ……」
「フ、フレアさん?」
「美味しいよぉ!!!アーマースパイダーの身が甘い!!それがタムトの酸味と牛乳のコクとよく合う!!そして、その濃厚なソースと太めのパスタが絡まって最高だよぉ!!!」
取り敢えず喜んでくれたみたいで良かった。
「ウルカくんの料理は美味しいわねぇ…やっぱりしばらくはウルカくんのお家にちょくちょく来ようかしら」
やっぱりそうなるんですね……という訳で、ウチの常連が一人増えたのでした。




