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第二十四話 初依頼と歴史

 我が家を離れ、三人揃ってセルジアの冒険者ギルドに来た。


「はい!それでは間違いなく冒険者登録させて頂きました!しかし…まさかうちのギルドでリリアン様が冒険者になるなんて…」


「なにも特別な事ではありませんよ。これからは一冒険者としてよろしくお願い致します」


 礼儀よく頭を下げるリリアン様を前に、しどろもどろになるキリエさん。しかし、リリアン様はそんな事も気にせずくるりと振り返り、僕とフレアさんの元に近づいた。


「リリィ!無事に登録できたのね!」


「えぇ。しかしここのマスターには驚きましたわ…自分で言うのもなんですが、国の第三王女に向かってあの威圧、そして一切手抜きの無い試験…」


「ま、まぁそういう方なので…」


「ともかく、これで私は晴れて冒険者、お二人とパーティになれたわけです」


 リリアン様の言葉に満面の笑みを浮かべるフレアさん。


「それでは早速…あのクエストを受けましょう」


 リリアン様の指差した依頼書を見て、一気に顔を青くして肩を落とすフレアさん。


「リリィ……本当に行くの?」


「えぇ。あそこにはウルカくんが布を作る為に()()()()()()()がありますから。特にこのクエストは都合が良い」


 リリアン様が持つ依頼書を覗き込むフレアさん。


「ゲェッ!?……『ブラストモス』の討伐……」


「ブラストモス?」


「まぁ行ってみればわかりますよ」


「で、でも!これEランクのクエストだよ!アタシとウルカくんがDランクだとしても、Gランクのリリィと一緒だと…」


 必死な顔で行かない方向へ持っていこうとするフレアさん。


「確かに、自分のランクより二つ上のクエストは、たとえ同行者に上位の者がいたとしても受けられないというのがギルドのルールです」


「でしょお!?じゃあやっぱり……」


 リリアン様は懐からギルドカードを取り出したが、そこにはEランクの文字が。


「………えっ!?」


「ま、また特例ってヤツですかね……」


「これで問題ないでしょう」


 こうして疑問を抱きながらもリリアン様の先導の元、新しい場所にワクワクな僕と、ずっと憂鬱そうな顔のフレアさんの三人で初めての依頼へと向かった。


「あのぉ、リリアン様…」


「なんでしょうか?」


「なんでフレアさんはこんなにテンションが低いんでしょうか?」


「森林に着けばわかりますよ。それよりも……その呼び方はなんとかなりませんか?」


「はいっ?」


「今の私はローゼンベルグ王国第三王女ではなく、ただの一人の冒険者です。様付けもそうですが、リリアンという呼び方もパーティメンバーとしては堅苦しいです。フレアのように『リリィ』と呼んでいただけませんか?」


「えぇっ!?いや、流石に王女様に…」


 リリアン様がグイッと僕の顔を覗き込む。


「王女じゃありません、冒険者のリリィです」

 

 リリアン様の期待に応えるべく、勇気を振り絞った。


「………リ、リリィ……さん」


 リリアンさんは少しガッカリした感じでため息を吐いた。


「まぁ、それで良しとしましょう」


「な、なんかすいません…」


「さぁ、もう着きますよ。……フレア!!」


「ひゃい!!?」


 さっきから話に入らないと思ってたら、ずっと放心状態だったのか。


「この川を越えた先が『パラリア森林地帯』です」


 川の向こうにはモーゼスの森とは少し違った樹木だけではなく、見たことのない花や木々に絡まる蔦、前世で言うところのジャングルの様な森があった。

 森の入り口を前にして更に顔を青くするフレアさん。


「フレアさん、大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫だよ!全然ヘッチャ…」


 その時大きな羽音と共に、三人の真上をキラーホーネットの大群が飛び去り、パラリアへと向かって行った。


「ヒイイィ!!!!?!?!」


 反射的に僕に抱きつくフレアさん、球体に押しつぶされて窒息寸前のところをリリィさんの手で救出される。


「実はフレアは昔から虫が大の苦手でして」


「もしかして、フレアさんがパラリアを嫌がっていた理由って……」


「お察しの通り、『ブラストモス』や『キラーホーネット』を含め、パラリアは虫系魔獣の巣窟なのです」


 それでこんなに怯えていたのか。なんだか無理をさせてる様で申し訳ないな。


「フレアさん、そんなに嫌だったら同行しなくても…」


「だ、ダメだよ!パーティとして、やっぱり一緒に行動しないと!それに………ウルカくんとリリィが二人きりって…なんか……」


 何かモゴモゴと喋っているフレアさん。


「へっ?なんですか?」


「な、なんでもない!!」


 僕らの会話する様子を見ながらリリィさんがほくそ笑んだ。


「さて、そろそろ行きましょう。討伐対象も目当ての物も、恐らく同じ場所ですから」


 


 森に入るとあちこちの茂みからガサガサと音が鳴り、その度にフレアさんがビクビクと怯えている。可哀想で本当に無理して着いてこなくても良かったのにと思うが、フレアさんなりにパーティの一員としての責任感というものがあるんだろう。

 そう思った時、茂みから二体の魔獣が現れた。


『万足ムカデ』

Lv25


『アーマースパイダー』

Lv28


「ひええぇええ!!?!?!あっち行けえぇええ!!!!」


 怯えながらも剣を振り、しっかり退治する辺りさすがフレアさんだ。

 フレアさんの見事な応戦の最中に新たな魔獣が。先の二体よりも体が大きく、見た目は茶色くテカり、羽と2本の長い触覚、完全に前世でも嫌われてたアイツを大きくした感じだった。


『グラトニーコックローチ』

Lv30


「ぎぃやぁあああああ!!!!!?!?!?!!」


 異世界でも相当に嫌われているみたいだ。前世のアイツ同様カサカサと音を立てながら素早く迫るグラトニーコックローチ。


「ひえぇええええええ!!?!!?!」


 流石のフレアさんもこの動きには耐えきれず、足をガクガク震わせながら立ちすくむ。すると横からリリィさんが助太刀に入る。


「はぁっ!!!!」


 リリィさんのレイピアがグラトニーコックローチの脳天を貫いた。戦いを終えると目の前には三体の虫型魔獣が転がっていた。


「うぅっ……やっぱ帰りたいかも…」


「これくらいで音を上げないで下さい。本命の巣を見つけるまでは森を進むしかありません」


 そんな会話の横で、僕はいそいそと魔獣の死骸をアイテムボックスに入れていた。


「ちょっ!?ウルカくん何してんの!?」


「いや、何かに使えないかなぁと思って」


「虫型の魔獣を!?何に!?まさか…食べるの!?」


「虫型魔獣は古来より装甲は防具に、身は食用に、毒は薬にと色々と重宝されていた様です」


「薬になるんですか!?それならウチの調合器具で……」


「でも、薬は無くとも回復でしたら王家の人間は光属性魔法の適性を持っているので」


「……それって…どういう事ですか?」


「リリィは回復魔法が使えるって事」


「えっ!で、でも!回復魔法は教会がどうこうとか…」


「元々回復魔法は光属性魔法の一つですが、光属性の適性が無くても回復魔法は使うことは出来ます。教会と王家には長く深い縁があり、その繋がりで教会には回復魔法が伝わっており、そこから教徒へと伝わっているのです」


「王家と教会って、ブレイツ初代王、ハイル初代教皇、ハイル教皇の妹のヒリア様のお話だよね?何度もお父さんに聞かされなぁ…」


「フレアの家にとっても無縁の話では有りませんからね」


「王家や教会とバルティシオのお家は、何か関係が有るんですか?」


「初代教皇の妹のヒリア様は、バルティシオ家の名前を広めた戦神『ライオネル・バルティシオ』の奥さんだから」


「………ええええぇっ!!?!」


 衝撃の事実に思わず声が出た。


「元々初代国王のブレイツ様、後の王妃で魔法使いのウィディ様、僧侶のヒリア様、そして戦士のライオネル様の四人で冒険していたんです」


 もしかして、カミスワさんが前に言ってた勇者パーティから無理矢理連れ出した僧侶って……ていうかライオネルは改心した後、勇者と一緒に冒険してたのか。


「冒険の最中の勇者パーティと出会ったライオネル様は、ヒリア様に一目惚れしたという話ですね」


「そうそう!野盗に絡まれてる勇者パーティをライオネル様が助けたところから恋が始まったんだよねぇ!」


 女子二人でキャッキャしてるけど、恐らくライオネルの人物像がだいぶ美化されてるみたいだな。


「まぁそんな訳で、私が回復魔法を使えるので薬の必要性は低いかと」


 パーティ内にヒーラーが居るから薬は必要無いという事か。折角作った調合器具……でも大丈夫、きっと使う事はある筈だ…大丈夫…。そんな風に自分に言い聞かせながらも、ちょっとガッカリな僕だった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「確かに、自分のランクより二つ上のクエストは、例え同行者に上位の者がいたとしても受けられないというのがギルドのルールです」 『もし~でも』の意の『たとえ』は漢字にするなら『仮令』や…
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