第二十三話 パーティと新たなステージ
リリアン様の件から数日。フレアさんを尋ねて嵐のようにやって来たリリアン様は、今ではウチの客人の一人になっていた。
「ハンバーガー…ギガントボアのパテとタムトとレソタにオニア、タムトと卵、二つの甘酸っぱいソース、それをパンが包み込んで…この組み合わせは天才すぎる!」
「フレンチトースト……ただでさえ柔らかいパンが、卵と乳酪、蜜の混ざった液に浸した事でより柔らかく、甘い…」
「リリアン様が牛乳を持ってきてくれたお陰で作れました」
「更なる甘味のためです。協力は惜しみません」
美味しそうに料理を食べる二人の姿は、最近はもうすっかりお馴染みになっている。
「でもリリィ、王国のお仕事は大丈夫なの?」
「それについてはご心配なく。もう全て姉上達にお願いしてありますので、今後は一切私は政に関わりません」
「えっ!?…それ、大丈夫なの?」
「元はと言えば兄上の補佐は姉上達の仕事の筈、それを茶会や社交会云々理由をつけて私に押し付けたのですから、無理をしてまで続ける義理は無かったのです。今までの不平不満を余す事なくお伝えしたところ、快く仕事を代わって頂けましたわ」
この感じでつらつらと不満を言われたら、お姉さんがたも首を横には振れないだろうな…
「今まで政務についていなかった姉上達ですが、それでも王族としての学は身についてる筈です。なんとかこなせるでしょう」
「だけど…それならリリィはこれからどうするの?」
フレアさんの質問に対して、少し神妙な面持ちでカトラリーをおいた。
「……元々第三王女など、大概は政治の道具として結婚させられるのが関の山です」
「えぇっ!?リリィ政略結婚させられちゃうの!?そんなの嫌だよ!!」
「あぁいえいえ、そういう訳では無いです。幼少の頃より家の事は気にせず自由に生きろと言われてきたので、政略結婚なんて事はまず無いでしょう。なので、これからは周りを気にせず、私のやりたい事をやろうと思うのです」
「リリィのやりたい事って?」
「……その……しゃに…」
「んっ?なぁにっ?」
「ふ、フレアと一緒に…冒険者をやりたいなと……」
「えぇっ!?わ、私と冒険者に!?パーティを組みたいって事!?」
身を乗り出して驚くフレアさん。
「は、はい……フレアが…嫌でなければ……」
俯きながら申し出るリリアン様の言葉に、フレアさんは身震いをした後勢い良くリリアン様に抱きついた。
「嫌なわけないよぉ!!嬉しい!!リリィとパーティが組めるなんて!!」
「ふ、フレア……ぐ、ぐるじ……」
「あっ!ご、ごめんね……」
パッとリリアン様を離したフレアさん。少し咳き込んでからまた話し始めるリリアン様。
「で、では…ご一緒して貰えるんですね」
「もちろんだよぉ!よろしくねリリィ!!」
パーティ結成を祝い、固い握手を交わす二人。
「いやぁ!今まで一人の冒険だったのに、一気に賑やかになるなぁ!アタシとリリィとウルカくん!」
嬉しそうな顔のフレアさんの発言に、少し疑問を抱いた。
「んっ?フレアさんとリリアン様と……僕?」
「えっ?だってウルカくんも一緒に戦った仲でしょ?もうパーティだと思ってたんだけど……違った?」
「私も二人は既にパーティを組んでいるものだと…」
「い、いやいや!だって僕、生産職ですし…」
「生産職がパーティに入る事は、別に珍しい事では無いと思いますが?」
「それにウルカくん、メチャクチャ強いし!」
とは言っても…僕は冒険者というより、生産職のスローライフをする予定だったからなぁ……
「もしかして……嫌かな…」
悲しそうな顔のフレアさんと、その横で僕を睨みつけ「フレアを泣かすんじゃ無いわよ?」と言う無言の圧をかけてくるリリアン様。
「ぼ、僕は生産が生活のメインなので…毎回冒険に同行出来るかはわかりませんが……」
そう言うとフレアさんの顔がパァッと明るくなり、僕の手をグッと取り、ブンブンと振りながら握手をした。
「全然大丈夫だよぉ!コレで私達はパーティだね!!」
僕がフレアさんにぶん回されている最中、リリアン様は僕の作業台を眺めていた。
「ところでウルカくん、さっきから何を作っていたのですか?」
「あ、あぁ…『機織り機』と『縫い針』、あと『糸紡ぎ』です」
「あら、鍛冶や料理だけで無く『装飾』にも手を出されるのね?」
「実は、冒険者ギルドのゲオルドさんに……」
〜数日前のセルジア冒険者ギルド、ギルドマスター室〜
「はぐっ!…んっ!?このハンバーガーってのは凄まじい美味さだな!!」
「気に入って頂けて嬉しいです」
「……ところでお前、料理に武器の手入れにと気を使うのは良いが、装備にも気を使った方が良いぞ?」
ゲオルドさんにそう言われて気が付いた。着ている服が転生した時の服のままだと言う事に。
「あ、洗ってるんですが…匂いますか!?」
「いやそうじゃねぇ……冒険者としちゃ心許ないって事だ」
そういえば、戦闘に関してはヴォルカヌスの神槌頼りで、装備に気を遣って無かったな…
「曲がりなりにも冒険者なら、もうちょいしっかりした装備を揃えた方が良いだろうな?」
「……わかりました!それじゃあ厳選した装備を……作ります!!」
「……………やっぱ、買うとかじゃ無いんだな…」
〜そして現在〜
「よし!出来た!」
作り始めて4時間程で装飾作りの道具が完成した。
「道具が完成したのは良いですが、何を使って作るのですか?」
「ゲオルドさんから、以前現れた巨大ギガントボアの毛皮を分けてもらって……」
「えっ!アイツの!?アレって使って大丈夫なの?」
「試しになめしてみたんですが、普通のギガントボアの革よりも丈夫で、しかも魔法耐性までついてるんです!」
「えぇっ!!?で、でも、解体した素材に普通のギガントボアとの違いは無いって……」
「恐らく加工の過程で何か変化が有ったのかと…」
皮を加工する際にヴォルカヌスの神槌も使ってみたところ、『最適化』の効果と思われるが、キガントボア本来の能力に加え、暴走化していた時に発現したと思われる能力も付与された様だ。
「コレを使って何か作ろうと思ってるんですけど…やっぱり革だけじゃなくて、何かしら『布』を使いたいなぁと思ってて…」
「そのための道具だったんだ」
「でも布を作ろうにも、どんな素材が良いのかわからなくて…」
「なら、あそこに行けば良いんじゃ無いですか?」
「あそこ?」
「モーゼスの森から川一本を超えた先の…」
「うえっ!?そ、それって……」
「えぇ……『パラリア森林地帯』です」




