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第二十二話 王女の苦難と僕の家

 家の前での大決闘の後、泣き喚くリリアン様を家に招き入れ、焙じハーブ茶でおもてなし中。


「少しは落ち着きましたか?」


「はい…ありがとうございます」


「リリアン様、どうしてわざわざ私を王都に呼び戻そうと?」


 リリアン様は俯いたまま、ポツポツと語り始めた。


「ここ数年、王国が推し進めている『魔力絶対主義』の風潮はご存知ですよね?」


「うん…それで近衛騎士団も…」


「私は反対だったのです!……私だけではありません…国民の多くはこの流れに疑問や反対意見を持つものばかり。それなのにお父様は……イリシア教長と結託し、魔力を持たない者たちの受け皿すら用意せずに排除し始めた。ローゼンベルグ王国は…今や混迷を極めています」


 フレアさんから少しは聞いていたが、まさかここまで国が魔力を重視していたとは……と言うか、やっぱりローゼンベルグって言ったよな…


「そんな中、父上は王宮から出る事もなく、王都の民を宥めるのは私と兄上だけ。私でさえ理解の出来ないこの状況を私と兄上が擁護し、嫌われるのは私達だけ!罵声も!泣き声も!民の投げる石つぶても!全ては届くべき場所には届かず、私たちにぶつかるだけ!!」


「う、うん……大変だったんですよね……」


「……そんな中での救いが…フレア…貴方だった」


「えっ?」


「長らくローゼンベルグ家の剣としてそばに居たバルティシオ家。中でも我が父『グランデル・ローゼンベルグ』と、剣聖『クラトス・バルティシオ』は盟友と呼ばれる仲だった。その娘が同い年であれば、引き合わせるのも必然。だけど私達はそれだけじゃ無かった。周りに同年代の子供がいなかった私にとって貴方は……無二の親友だった」


「リリアン様……」


「………その様付けもやめて下さい!!!」


 いきなりの大声にビクッと体が跳ねる僕とフレアさん。


「まるで他人の様に距離を置いた呼び方!貴方は侍女や高官の人達とは違う!私の……友達でしょ!!」


 立ち上がってフレアさんに泣きながら掴みかかるリリアン様。


「昔みたいにリリィって呼んでよ!勝手にそばから離れないでよ!近衛兵じゃなくたって、私達友達でしょ!!……近衛騎士団が無くなっちゃった事は謝るからぁ……私を置いてかないでよぉ……フレアが居たから頑張れたのに……フレアが居ないと…私……」


 そのまま崩れるリリアン様をそっと抱きしめるフレアさん。


「リリィ……ごめん」


「フレア?……」


「この数年間、リリィの事を心配しなかった日は無いよ。でも…近衛騎士団が無くなって、ほとんど王都を追放された様なお父さんと私にリリィのそばに居るだけの力は無かったし、魔力の才の無い私は、国にとって不利益な存在。リリィのそばに居たら迷惑がかかる。だから…会えなかった」


「フレア…私の方こそごめん…お父さんを止められなくて…ごめん」


「大丈夫!離れてても私達は親友だから!」


 フレアさんはリリアン様を強く抱きしめた。


「フレア……」


 なんとも美しい友情だ。


「…ぐ、ぐるじぃ……」


 いかん、剣神の加護が生きてる。


「フレアさん!その辺で!」


「あぁっ!ごめん!えへへ…私強くなっちゃったから!」


 ひと段落した様なので、僕の疑問をぶつけてみた。


「あ、あのぅ…先程『ローゼンベルグ王国』の『リリアン・ローゼンベルグ』様と仰っていましたが、ここの前の住人のグランツさんって……」


「そうです!フレアの足取りを探っていたら、今は亡きグランツローゼンベルグ様の家に住むドワーフの少年と一緒に居ると聞きました!貴方ね…()()()()()()()()の家に勝手に住んでいる不届きものは!」


 やっぱり!!グランツさん…仰々しい名前だと思ったらまさか王族の人だとは…


「も、申し訳有りません!遠い国から遥々旅をして来て、路銀も食料も尽き果てたところでこの家を見つけ、雨宿りをさせてもらいそのまま…まさか王族の方の旧宅とは知らず!」


「あれ?そんな理由だ…フゴォ!!」


 余計な事を言いそうなフレアさんの口にバゲットを突っ込んだ。


「知らないとはいえ、不敬罪で極刑にもなりかねない行為ですよ!おいそれと見逃せません!」


 そうなるのも当然だろうが、どうにかして許してもらおうと考えていると、大きなバゲットを食べ切ったフレアさんがコソコソと耳打ちしてきた。


「……それでいけますか?」


「大丈夫だよ!」


「う〜ん……リリアン様、少々お時間を頂けますか?」


「なんですの?もしかして逃げようなんて思って無いでしょうね?」


「そんな事は考えておりません。見て頂きたい物がございます」


 首をひねるリリアン様をよそに、僕はキッチンに立った。

 まず、コカトリスの卵黄と水、そして最近手に入れたキラーホーネットの蜜を混ぜ合わせ、そこに小麦粉を加えて混ぜる。自家製泡立て器が優秀な為、ダマになる心配が無い。別の器でコカトリスの卵白と蜜を混ぜてひたすらかき混ぜる。ふんわりと泡立ったら卵黄の生地と卵白を混ぜ合わせ、真ん中に空洞を作った特殊な鉄の容器に流し込み、弱火の窯に入れて焼き上げる。


「な、なんですかこの優しく甘い香り……」


「良い匂いだよねぇ〜。ウルカく〜ん!まだ〜!?」

 

「もう出来ますから!」


 焼き上がった物を切り分け、蜜漬けにしたベリの実(苺の様な木の実)を切って添える。


「完成しました!『シフォンケーキ モーゼス風』です!」


「み、見たことのない料理ですが…この甘い匂い…い、頂いてよろしいんですか?」


「もちろん!さぁ、どうぞ!」


 シフォンケーキをフォークで切り分け、恐る恐る口に運んだリリアン様。


「………な、なんなのこれ…」


「お口に合いませんでしたか?」


「…こんな美味しいお菓子は食べたことが無いわ!何このフワフワ?口の中で解けて溶けてしまうようなフワフワ食感!それにこのベリの実!」


 蜜漬けのベリの実を口にして唸るリリアン様。


「上品でフレッシュな甘さ……この蜜、ケーキにも入ってるみたいだけど、もしかしてキラーホーネットの蜜!?」


「は、はい…そうですけど」


「Bランク魔獣のキラーホーネットの蜜!王宮に献上される超高級品がどうして!?」


「普通に取ってきただけなんですが……ひょっとして取っちゃダメでしたか!?」


「………フレア、この子なんなの?」


「あはは…物凄く強いんだけど、遠い国の産まれだから色々知らないみたいで…ていうかどうだった!ウルカくんの料理!」


「えっ?いやぁ…正直王宮の料理人を超えているわね」


「でしょ!!こんな美味しいものを作れる子を極刑にするなんて勿体無いと思わない!?」


「そ、そうかもしれませんが……」


 フレアさんに押し切られそうなリリアン様だったが、僕はふと腰のレイピアが気になった。


「リリアン様、もしかしてレイピアが歪んでませんか?」


「えっ?あぁ…さっきのフレアとの闘いで曲がってしまったようですね」


「あはは…ごめんよ」


「この程度、王都の鍛冶屋がすぐに直してくれるわ」


「よろしければ僕が直しましょうか?」


「…貴方、鍛治も出来るの?」


 その時、フレアさんの瞳がキラリと輝いた。


「リリィ!ウルカくんにお願いしようよ!」


「で、でも……」


「ウルカくんは凄いんだから!私の剣を直してくれたのもウルカくんなんだよ!」


「この剣、いつも担いでたあの鉄の塊なの!?」


「だから伝説の剣だって言ったでしょ!!」


「……王都一の鍛冶士でもどうにもならなかったアレを……わかった、任せるわ」


 受け取ったレイピアを打ち直し、形を整えた。


『エペ・ラピエル・ローゼンベルグ☆MAX』

武器種・レイピア

ATK700

『バタフライステップ』

一時的にAGLを10倍に上げる。

『ホーネットスティング』

高速で標的に向かって移動し、強力な刺突を見舞う。


「す、すごい…素人目に見ても素晴らしい仕上がりだわ…」


「ね!ね!凄いでしょウルカくんは!だからさぁ…」


 リリアン様は、少し考え込んでから口を開いた。


「まぁ、元々王家も十年近く廃屋同然の扱いをしていた訳だし…好きに扱っても構わないわ。不敬罪も不問とします」


「やったぁ!!よかったね!ウルカくん!」


「はい!ありがとうございますフレアさん!リリアン様!」


「様付けはもう良いわ。なんだか息苦しいし、フレアの友人なんでしょ?」


「はい、ありがとうございます!リリアン様!」


 僕の呼びかけに少し微笑んだ後、軽く凄んでこちらを睨んだ。


「ただし!これから私がココに来た時には、必ず美味しいお菓子を用意する事。それが出来なければ即刻出ていってもらうわよ!」


「は、はい…」


 食いしん坊な客人がまた一人増えてしまった。

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