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第二十一話 平穏と不穏な客人


 フレアさんに真実を打ち明けて数日。フレアさんに昼食のパスタを振る舞いつつ制作に取り組んでいた。


「う〜ん!このパスタ美味しい〜!なんだっけこれ?」


「ボロネーゼとカルボナーラです」


「そうそう!ボロネーゼはタムトの甘酸っぱさとハーブの香りで、たっぷり入った細かいギガントボアの肉がしつこくなくいくらでも食べれちゃう!カルボナーラはコッテリとしたコカトリスとチーズのソースに、燻製のギガントボアの肉の香りが合わさって、濃厚で味わい深い……どっちもパスタによく合う最高のソースだよ!」


 喜んでいるフレアさんの横で、僕は黙々と作業を続けている。


「まだ何か作ってるの?こないだも……あれ?なんだっけ?」


「薬研とビーカーですか?」


「それそれ!っていうか、ウルカくんって鍛冶も建築も料理もするのに、薬師の仕事までするの?」


「この前のギガントボアの件が有って考えたんです。何かあった時の為に備えが必要だなって」


「でもヴル?…神器の力でどうにかならないの?」


「ヴォルカヌスの神槌は、武器のステータスとスキルなので、魔法は覚えられないんです。なので魔法は僕自身が覚えないといけないんです。攻撃魔法はある程度覚えられそうなんですが、回復魔法はどうしても覚えられないんです」


「そりゃそうだよ。回復魔法は教会の祝福を受けた人しか使えないはずだよ?」


「やっぱりそうなんですね!道理で練習しても出来ない訳だ……」


 やはりチートを用いたところで、越えられない壁ってのはあるんだな…


「……ウルカくんって色んなこと知ってるけど、知らない事もあるんだね」


 こんな事を思ってはいけないとわかっているが……フレアさんにそんなことを言われるのはショックがでかい。


「と、とにかく!元々魔法に不向きな僕が、この前みたいな局面になった時に助けになるのは『調合薬』なんです!」


「その為に調合の道具を揃えたって訳ね」


「あとは素材となる薬草なんかを集めて……」


 構想を練っていると、家のドアをノックする音が聞こえた。


「えっ?お客さん?なんだろ…僕の家を知ってるのはフレアさんの他には…ゲオルドさんかキリエさんか…」


 誰が来たかと考えながらドアを開けると、そこには一人の女の人が居た。歳は恐らくフレアさんと同じくらい。赤髪ショートのフレアさんとは対照的に、長くて綺麗な金髪で、スタイルは……割と控えめな女性だった。


「あ、あのぉ…どちら様でしょうか?」


 興味深げに後ろをついてきたフレアさんが、客人の顔を見て驚いた。


「えっ!?リリアン……様!?」


「……やはりここに居たのね…フレア」


 二人は知り合い?どういう仲なのか?そんな事を考えていると、リリアンと呼ばれた女性からドス黒いオーラを感じた。


「…どこに行ったかと思えば、スラムの外れのこんな森の中で……しかも()()()に勝手に住み着いて呑気にお食事とは……」


「い、いやぁ……」


 何で怒っているのかわからないが、取り敢えず僕からも釈明が必要な様だ。


「す、すみません!勝手に住み着いてるのは僕で、フレアさんはお客さんと言うか、友達というか……」


「……友達?」


 オーラがさらに禍々しさを増した様に感じた。


「そうですか……国に居る私の事は放ったらかしで、いつの間にか移り住んでいたと思えば、新しい友達とは……」


「リ、リリアン様?そ、その件に関しては申し訳なかったと言うか……」


「……表に出なさい」


「へっ?」


「表に出なさいと言っているのです!!!!!!」


「は、はいいいぃ!!!!!」


 言われるがまま外に出たフレアさんと、なんとなく勢いでついて来てしまった僕の前に、仁王立ちで凄んでいるリリアン様。


「フレア・バルティシオ……命令です。『魔剣兵団』に入団しなさい」


「……えっ?」


 魔剣兵団と言えば、フレアさんのお父さんが指揮していた近衛騎士団の後に出来た王国の軍隊。フレアさんにとっては因縁の存在のはず。


「い、いや…魔剣兵団は強力な魔力を持つ精鋭の兵士達を集めた軍。私みたいな魔力の才を持たない人間には入れないはずですよ…」


 悔しそうな悲しそうな複雑な表情を浮かべるフレアさん。


「関係ありません。私の権限ですぐにでも入団することができます。だから今すぐ入団しなさい」


 それってマズイ事なんじゃ?っていうかこの人はどうしてそんな権限を持っているのか。それにどうしてこんなにフレアさんを魔剣兵団に入れたいんだろう?


「そんな事をしなくても良いです!私は…父を裏切った奴らの元につきたくはありません!」


「……私の命令に逆らうと言うのですか……私が、ローゼンベルグ王国第三王女『リリアン・ローゼンベルグ』とわかっているのですか!!」


 こ、この人、王女様なのか!?……ていうか今『ローゼンベルグ』て言ってたよな……


「リリアン様!!どうしてそんなに私を魔剣兵団に入れたいんですか!?私でなくても、優秀な兵士はいくらでも居る筈なのに、どうして私にこだわるんですか!?」


「!!っ…………このわからずや……」


 リリアン様は俯きながら小さく呟いた後、キッとフレアさんの方を見た。

 

「もうわかりました……こうなれば強硬手段です。フレア・バルティシオ。私と手合わせなさい」


「えっ?…」


「私が勝った場合はそのまま引き摺って魔剣兵団の兵舎に放り込みます。貴方が勝った場合は入団試験合格という事にさせて頂きます」


 ……それって結局どっちにしても入団じゃん。


「………わかりました。それでリリアン様の気が済むのなら、受けて立ちます!!」


 フレアさん多分わかってない!!


「フレアさん!このままだと勝っても負けても……」


「行きますよ!!」


「来いぃ!!」


 説明が間に合わず二人が激突する。

 リリアン様の武器は綺麗なレイピアだ。火力面では恐らくフレアさんの圧勝と思われるが、リリアン様は右に左にとステップを踏み、フレアさんが姿を捉える間も無く連撃を叩き込む。


「ぐぅっ!?」


 反撃する暇も与えられないフレアさんは、防戦一方で耐え凌いでいる。


「『旋刃』!!」


 フレアさんが周りを薙ぎ払うも、リリアン様はヒラリと宙を舞って剣をかわした。この身のこなしにさっきの連撃、この王女様只者じゃない。


「相変わらず力任せね。じゃあコレならどう!『影踏み』」


 恐らくスキルの名前を唱えた後、リリアン様は姿を消した。周りを見渡すもどこにも見当たらず、しばらく沈黙が続いた後、フレアさんの後方からリリアン様が現れ、鋭い一撃がフレアさんに見舞われた。


「うおぉっとぉ!!!!!?!」


 突然の一撃に驚くも、なんとか防ぐフレアさん。


「ふんっ!運が良かったわね…だけど次も上手くいくかしら…『影踏み』」


 再びリリアン様が姿を消す。姿の見えない相手にどうやって立ち向かうのかと考えていると、フレアさんはそっと目を閉じた。恐らくフレアさんは目だけでなく音や気配、肌の感覚などを頼ってリリアン様を捉えるつもりの様だ。

 しばらくの無音の後、フレアさんは目をカッと開く。


「そこっ!!!!!!」


 後方に現れたリリアン様の一撃を弾き返した。


「ぐっ!?う、嘘!!?」


 リリアン様は思わず武器を離し、レイピアは遠い木の根元に落ちた。


「おりゃあああぁっ!!!!!!!」


 フレアさんはリリアン様に向かって思い切り剣を振り下ろしたかと思ったら、剣はすっぽ抜けた様に飛んでいってしまう。


「あーしまったー、剣を離してしまったー。お互い武器を無くしてしまったから、コレは引き分けだなーうんうん」


 こんな棒読み聞いた事が無い。


「……そんなに……」


 リリアン様は地面にへたり込んだ。


「そんなに王都に居たくないんですか……」


 ボソボソと呟き始めるリリアン様。


「そんなに…そんなに……私と一緒に居たくないんですか!!!!!」


 そう言った後、リリアン様は子供の様に大声で泣き喚いた。

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