第十九話 呪いの真相
祭壇に祈りを捧げ、いつもの白い空間に行くと難しい顔をしたカミスワさんの姿があった。
「……神話級の修理、神の呪いの解呪、やってしまったのですね……」
「はい…何かペナルティとかは…」
「以前もお話しした通りそういった事はありませんが……そちらの世界に大きな影響を及ぼす可能性がある事を考慮して、貴方は解呪を選んだという事で良いのですね?」
少し考えたがフレアさんは信頼出来る人だし、あそこで見捨てる事は出来なかった。
「ああする事が最良だと思いました……だから、何か問題があれば責任の全ては僕が…」
「あ、その事なんですが、もうお気になさらなくて結構ですよ」
カミスワさんの急な言葉に肩透かしを食らった。
「へっ?どういう事ですか?」
「実はあの後、フレアさんの剣の事が気になって色々調べたんです」
「あれっ?あの時『いずれわかります』とか意味深な事言ってましたけど…原因は知らなかったんですか?」
「はい。でも知らないって言ったらただでさえ私に対する尊敬の念の薄いウルカさんの敬意が、更に希薄になってしまうと思いまして」
「……今のでより希薄になりましたよ」
少し焦ったように咳払いをするカミスワさん。
「で、呪いの原因ですが…まぁそれは本人にお答え頂きましょう」
「本人?」
その時、カミスワさんの後方から強い光と共に、いかにも厳格そうな老人が現れた。
「……………」
何も喋り出さない老人。
「あ、あの…カミスワさん、こちらは?」
「この世界の最高神、私の父です」
「えぇっ!!!」
「……………」
未だ無言を貫く最高神。
「そ、それで、最高神が何故?」
「バルティシオ家の剣『剣聖の斬竜刃』を作り出し、呪いをかけたのは私の父だったのです」
「えぇっ!?剣を作った上、呪いをかけたんですか!?」
「……………」
無言でありながらどこか居心地悪そうな最高神。
「なんで作ったのに呪いを?それに神は人事に不可侵だから、神が直接呪いをかけることは無いって……」
「この件に関しては色々特例でして……そもそもバルティシオ家の始祖、ライオネル・バルティシオは私の父が別世界の死者の魂を呼び寄せた者。つまりウルカさんと同じ『転生者』だったのです」
「えぇっ!!」
まさか僕以外にも転生者が居たとは……と言うことは、フレアさんは転生者の子孫なのか。
「ライオネルの前世は少し可哀想なもので、元々学力不足だったせいで地元でも有名な不良校に嫌々進学し、素行の悪い生徒からのイジメで不登校、そのまま長い事引きこもり生活を送った末、暴飲暴食、運動不足が祟って体を壊し、誰にも気付かれずに亡くなった様です」
前世の社会の闇の部分で生きてた人だったんだな。
「それを憂いた父が転生を行い、その際にライオネルは圧倒的な武力を求めた為、高い身体能力と件の武器『剣聖の斬竜刃』を授けたのです。しかし…ライオネルはその力を悪用してしまいました」
「えっ……そ、それはどんな…」
「街行く派手な格好をした冒険者相手に因縁をつけてボコボコにしたり、危機を救う見返りに女性に関係を迫ったり、当時人気を博していた勇者のパーティを妬んで勝負を挑み、完膚無きまで叩き潰した挙げ句、女性の魔法使いと僧侶を無理矢理自分のパーティに引き入れたりと……」
「……なんというか…前世の歪んだ欲望にかられてる感じですね」
「まさしくその通りです。流石に見過ごせず、授けた武器の能力だけでも封じる事にしたのです。力を削がれた事に加え、相当惚れ込んでいた勇者パーティの女僧侶にこっぴどくフラれた事により、心を入れ替えたライオネルは剣術の鍛錬に励み、世のため人のためにと功績を積み上げたのです」
「更生したわけですね。その後もバルティシオ家が続いたという事は、良いパートナーにも出会えたんですかね?」
「心を入れ替えた後、先程出てきた女僧侶に再度猛アプローチをかけて、無事結婚されたそうです」
「えぇっ!?」
頑張ったなぁライオネルさん…
「バルティシオ家を剣術の名家として確立した後は、奥様の尻に敷かれながらも幸せに暮らしたそうです」
「な、なんというか……よかった?ですね」
「…………」
無言で満足気に頷く最高神。
「何を嬉しそうに頷いてるのでしょうか?」
「!!?!」
カミスワさんに静かに凄まれ、ビクッと震える最高神。
「そもそも、転生者の選定は神の重要な仕事だというのにあのような問題児を招き入れた上、不可侵である筈の人事に介入しなければ無くなる始末。しかもその事を数百年に渡って黙っていたとは……神として許される事なのでしょうか?」
「……………ったから…」
「はい?」
「……可哀想だったから…」
少し不貞腐れながら小声で反論する最高神。
「可哀想だったらどんな人間でも転生させて良いという事ですか?犯罪者予備軍だろうと凶悪犯罪者だろうと?そういった判断を平等かつ正しく行うのが……」
「……………」
どこの世界でも父親は娘に弱いものなんだと認識した。少し助け舟を出すついでに気になっていることを聞こう。
「で、でも!ライオネルさんの話を聞く限り、僕の住んでた時代と大した変わりないと思うんですが、数百年も前に転生してきたんですか?」
「あぁ…この世界とウルカさんの居た世界の時の流れは同一のものでは有りません。片方で数百年経っても、もう一方では数年だったりしますので」
「な、なるほど…」
説明を終えたカミスワさんが咳払いをする。
「まぁ、そういった訳で、今回の武器の件はこちら側の落ち度でしたので、何もお咎めなしという事で。色々お気遣いさせてしまい申し訳ありません。そちらの世界で文句を言う方が出ても、こちらでチョチョイと処理いたしますので」
「チョ、チョチョイ……」
一体何をするつもりなんだろう…
「ところで…ウルカさんは最近随分フレアさんと仲がよろしいのですね?もしかして惚れてらっしゃるのですか?」
「い、いや!そんなんじゃないですよ!」
「私とあんなに親密な仲になったというのに……あんまりですわ」
「!!!!?!」
「誤解を生む言い方をしないで下さい!!」
わざとらしくさめざめと泣くカミスワさんと、その後ろで鬼の形相を浮かべる最高神。
「まぁ冗談はさておき、神の私から言うのも何ですが、フレアさんは信頼に足る方だと思いますよ?」
「えっ……」
「確かに私は貴方に使命を託しましたが、それ以前に貴方には今世を楽しんでいただきたい。その中で心を許せる友人の存在というのはとても大切です。無闇矢鱈に真実を広めるのはウルカさんにとっても不都合が考えられると思いますが、それでも信頼をおける方が居ると世界はもっと楽しくなるはずですよ」
カミスワさんがニッコリと微笑んでくれた。
「あ、あの………」
「えっ?さ、最高神様?」
「……色々……なんかすまん…」
申し訳無さそうにしている最高神様。
「い、いえ。お気になさらないでください…」
「はいはい、もうそろそろ時間ですよ。では、引き続き異世界をお楽しみ下さい」
意識が現実へ戻って行った。
「………彼がウルカか…」
「はい。お父上がお連れになった転生者よりもずっと信頼出来ると思いますよ」
「………………彼なら大丈夫だろうか?…」
「えぇ。この世界の歪みを正してくれる……そう信じています」




