第十八話 覚醒の刻
ミスリルの大剣を砕かれ、吹き飛ばされてうつ伏せに倒れたフレアさん。
「うっ……ぐぅっ!……ま、まだまだぁ!……」
武器が壊れても尚、立ち向かおうとするフレアさんを見て胸の奥から熱く湧き上がる物を感じた。フレアさんの人を思う優しさ、強さ、真っ直ぐな気持ちに心が震えていた。
……やっと決心できた。僕が禁忌を破るのに、理由なんて考える必要は無い…ただフレアさんが大切な友達だから、信じたから、守りたいから、ただそれだけだ。
僕はアイテムボックスを開き、フレアさんから預かった剣を取り出した。剣は破損してるわけでも劣化してるわけでも無い。だからきっと……僕は『創造主』を唱えた。
『◾️◾️の◾️◾️◾️の修理』
必要素材
・◾️◾️の◾️◾️◾️
・ヴォルカヌスの神槌
手順
・ヴォルカヌスの神槌を用いて◾️◾️の◾️◾️◾️の解呪をする。
やっぱり思った通り、鍛治台も炉も要らない。これならなんとかなる!
ギガントボアは再びフレアさんに向かって突進しようとしている。直してから持って行くんじゃ間に合わない。やるならコレしかない…大丈夫!選択体育テニスだったから!
「フレアさん!!!!!」
僕はフレアさんの剣を放り上げ、テニスサーブの様にヴォルカヌスの神槌でフレアさんめがけて打ち込んだ。ヴォルカヌスの神槌がぶつかった途端、フレアさんの剣を覆っていた黒い鉄の塊が剥がれ落ち、中から神々しい装飾を纏った大剣が現れ、フレアさんに向かって飛んでいく。
「受け取って下さい!!!!!」
僕の声に気づいたフレアさんが飛んで来た剣を受け取り、突進するギガントボアを食い止めた。
「……ぅおおおおおりゃあああああ!!!!!!!」
フレアさんはギガントボアの突進を弾き返し、ギガントボアは思わず後退した。
「な、何これ?……コレが……伝説の剣……なんだろう……力が沸いてくる!…」
『剣聖の斬竜刃」
武器種・大剣
クラス・神話級
ATK・1500
スキル
『旋刃』
所有者周辺の敵を一網打尽にする
『咆哮撃』
前方に強力な衝撃波を飛ばす
ユニークスキル
『剣神の加護』
所有者のSTRとVITを10倍に引き上げる
『滅竜斬』
所有者の体力を刀身に込め、強力な一撃を放つ
呪いが解けた事によってステータスが表示されるようになり、改めてとんでもない武器だという事がわかった。そしてこの『剣聖の加護』と言うスキルは、鍛錬を積み重ねたフレアさんにうってつけのスキルである。
「ブゴオオオオオオォオオオオ!!!!!!」
再び突進して来たギガントボアに対し剣を構えるフレアさん。
「はぁあああ!!!」
ギガントボアの突進に怯む事なく顎下から切り上げ、天を仰ぐギガントボアに向かってスキルを放つ。
「『咆哮撃』!!」
剣から放たれた衝撃波によってバランスを崩し、仰向けになったギガントボアに向かい、宙に飛び上がるフレアさん。
「でぇやああああああああ!!!!!!!!」
ギガントボアの真上から剣先を向け、勢い良くギガントボアの腹に突き刺した。
「ブゴオォオオオオオォ!!!!!!」
断末魔を上げたギガントボアは程なくして絶命し、ピクリとも動かなくなった。
「ハァ…ハァ…ハァ……」
突き刺した剣を抜き、ギガントボアの腹の上で肩で息をするフレアさんだったが、急に力尽きたように倒れてギガントボアから落ちた。
「フレアさん!?」
僕は慌ててフレアさんの元に駆け寄る。
「だ、大丈夫…疲れちゃっただけだから…」
フレアさんは仰向けになりながら空に向かって剣を掲げた。
「これが…伝説の剣の力なんだ……」
万が一にも無いと思いたいが、もしもフレアさんがこの剣の力に取り憑かれ、悪虐の限りを尽くす存在にでもなってしまったら……
「この力さえあれば……セルジアのみんなも守れるし、お父さんの事だって……」
「フレアさん……」
精も根も尽き果てていると思ってたフレアさんが、突然体を起こして僕に抱きついて来た。
「ウルカくん!!ありがとおぉ〜!!!!」
何度喰らってもこの球体の感触には慣れない。悪虐行為なんて常に周りのことを考えるフレアさんには不要な心配だった。きっとこの選択に間違いは無かっただろう。
安心しているとぐうぅ〜っと元気の良い腹の虫の声が。
「あ、あはは……」
アイテムボックスから取り出したお弁当を美味しそうに食べるフレアさん。
「う〜ん……おいしい〜!!!!!甘酸っぱいタレと卵のソースがお肉によく合う!!肉汁とソースが染みたパンも最高!!なんだっけこれ!?」
「チキン南蛮のサンドイッチです」
美味しそうに食べるフレアさんの横で、僕はギガントボアの解体をしていた。異常なデカさとは言え、骨や肉、毛皮まで、根本的に大きな異常は見られない。ただ……
「どうかしたのウルカくん?」
「見て下さいココ。右頬に小さな傷と、右の牙に折れた跡みたいなものがあるんです」
「えっ?じゃあコイツって……」
「恐らく、昨日フレアさんと戦って逃げたギガントボアです」
「それが…なんでこんな姿に?」
「さぁ……それにおかしな所があって。このギガントボア…魔石が無いんですよ」
「それって変な事?」
「はい…僕も文献でしか知らない情報ですが、そもそも魔獣は星が作り出す魔力の結晶、いわゆる『魔石』を素に肉体を形成した生物。つまり、魔獣にとって魔石は命その物なんです」
「…じゃあこのギガントボアはどうやって生きていたの?」
「わかりません……それにこのギガントボア、どう考えても普通の個体よりも大きいし、ステータスも異常だった。なんでこんな状態に……」
謎は深まるばかりだけど、答えが出る気配も無い。後日個体を冒険者ギルドに持ち込んでみようと思う。取り敢えず今はフレアさんを家で休ませてあげよう……やりたい事もあるし。
自宅に戻り、フレアさんを休ませながら夕飯の支度をする。
「ね、ねぇ……本当に食べるの?そのギガントボア…大丈夫なの?」
「い、一応鑑定の結果、普通のギガントボアと変わらないし、毒性なんかも無いので……」
「でも……」
フレアさんの気持ちは痛いほどわかる。あんな化け物みたいな状態だった魔物を口にするのは気が引けると思う。しかしこの肉……異常なほど肉質が良い。脂のノリや肉のきめ細やかさ。前世で出回っていた高級豚肉のそれに近い物がある。躊躇よりも探究心が勝ってしまったのだ。
「豚肉っぽいから…アレを作ってみよう!」
まずギガントボアの背中の部位を切り出し、肉と脂身に分ける。恐らく豚肉で言うところのロースと背脂になるはずだ。背脂を鍋に入れて火にかけ、油を抽出する。その間にロースを厚さ1cm程に切り分け筋を切る。塩とペパの種の粉、小麦粉、マンティコアの溶き卵、自家製のパンを砕いたパン粉をまぶす。脂がしっかり出たら残りカスを取り出し、充分脂が温まったのを確認して肉を投入。ある程度火が入ったところで一旦肉を上げ、脂をさらに高温にしてからもう一度投入。しっかりきつね色になったら肉を取り出して切り分ける。事前に用意したカベトの葉(キャベツの様な野菜)の千切りと一緒に皿に盛り付ける。
『ギガントボアのトンカツ風』の完成だ。
目の前に置かれた料理を複雑な表情で見るフレアさん。
「た、確かに美味しそう……だけどコレ…あのギガントボアなんだよね?…」
「はい…でも、食べても問題はないはずです!」
まずは毒味として僕から食べる事に。この世界の果実や野菜、スパイスを煮詰めて熟成させたなんちゃってソースをかけ、一口食べてみた。
「ど、どう?」
「……お、美味しい!!!脂身が甘くて赤身はきめ細やか!まさにブランドポークの味だ!」
僕の様子を見て思わずフレアさんも一口頬張る。
「なにコレ!!凄い美味しい!!!!ギガントボアもだけど、周りのサクサクとこの甘酸っぱいソースが最高!!!」
あまりの美味しさに二人とも一気に一皿たいらげてしまった。
「いやぁ美味しかった!普通のギガントボアよりも美味しいかも?」
「確かにそうかもしれませんね。でも流石にこれ以上食べるのは……ギルドへの報告もありますし。今日は休んで、明日は報告がてら素材をギルドに持っていきましょう」
フレアさんが神妙な面持ちでフォークを皿に置いた。
「…ウルカくん、本当にありがとう。ウルカくんが剣を直してくれなかったら、今頃……」
「……本当に、無事に倒せて何よりでした」
再びパァっと明るい顔で笑うフレアさん。
「でも凄いよね!王都の鍛冶屋さんでもどうにもならなかったのに、あんなにあっさり直しちゃうなんて!何か特別な理由があるのかな?それともその綺麗なハンマーに理由があるのかな?」
フレアさんの疑問に答えられず、乾いた笑いで誤魔化しながら、いつの間にかすっかり夜も更け、二人とも寝床についていた。
ふとヴォルカヌスの神槌を見ていた。
『ヴォルカヌスの神槌』
ATK・1500
短刀スキル
『アクセルステップ』『百烈剣』
剣スキル
『一閃』『刺突』
槍スキル
『エリアルトラスト』『スライドスティング』
ハンマースキル
『破砕撃』『地轟撃』
斧スキル
『ギロチンアックス』『スローイング』
大剣
『兜割』『百胴抜き』
その他
『戦鬼のオーラ』
ユニークスキル
『剣神の加護』
「ははっ、改めてとんでもない事になってるな。今日フレアさんの剣を直したから、また攻撃力も上がってるし、『剣神の加護』までコピーしてるし」
神器の恐ろしさを再確認すると共に、自分はいつまでこの秘密を隠し続けるのだろう…そんな事を思ったその時、祭壇部屋から光が漏れ出した。
「あぁ……解呪しちゃったからお説教かな?」
なんとなく重い足取りで祭壇部屋に入り、祈りを捧げた。




