第十七話 異形との邂逅
フレアさんがウチに泊まった次の日の朝、フレアさんが起きる前に支度を済ませる。
「ふあぁ……ウルカくんおはよ〜」
「おはようございますフレアさん」
「……なんかいい匂い!」
「朝食が出来てますよ。どうぞ召し上がって下さい」
朝のメニューは、昨日焼いたパンにマンティコアの卵のスクランブルエッグ、タムトとレソタ(レタスの様な野菜)のサラダ、カームの種(とうもろこしの様な野菜)のポタージュだ。
「わぁ…朝からこんなに美味しそうな物を…いただきます!」
まずはポタージュを一口食べるフレアさん。
「うううぅん…甘くて美味しいい!!寝起きのお腹にあったかくて優しい甘さが広がっていくよぉ…」
気に入って貰えたようで良かった。
「朝からこんな美味しい物食べれるなんて…今日は上手くいきそうだよ!」
その後、ポタージュを3杯おかわりして、しっかり朝食をとって気合い充分なフレアさんと共に今日も森を探索する。
「取り敢えず、昨日逃しちゃった辺りから見ていこう!」
「わかりました」
森を歩きながら、少し気になっていた事を尋ねてみた。
「クラトスさんは体調が悪いんですよね?本当に一晩泊まっちゃって大丈夫でしたか?」
「大丈夫!昨日も言ったけど、お父さんには依頼でしばらく帰れないって伝えてるし、近衛騎士団の頃の仲間の人が看ていてくれてるから」
「そうなんですね。奥さんは?」
「お母さんは、私が幼い頃に病気で死んじゃってるから」
「あっ、す、すみません!!」
「いやいや気にしないで!もうずっと前の事だし、今は家族も大勢いるし……」
嬉しそうに微笑むフレアさんの綺麗な横顔に、少しドキッとしてしまった。
目的の場所に辿り着くと、異様な光景が広がっていた。まるで何か巨大な岩でも転がっていった様に、あちこちの木が薙ぎ倒されている。
「……コレ…なんだろう…」
「わかりません……少し警戒して行きましょう」
薙ぎ倒された木の上を進んでいくと、フィールドサーチが異様な気配を察知した。
「コレは……ギガントボア?」
「え!居たの?」
「いや……違う?…いやでも…なんだこれ…」
個体としてはギガントボアの存在を示しているが、それと同時に異常な魔力量を察知している。
「どうかしたの?」
「わからない……でもマズイかもしれない!一旦離れましょう!」
そんなやり取りをしているうちに、謎の存在はどんどん近づいてくる。僕はフレアさんを強引に連れてその場を離れようとするも、相手のスピードが速すぎる。
「くっ!ダメだ!追いつかれる!」
「ブゴォオオオォオオォオ!!?!?!!!!?!」
「な、なにアレ……」
そこに現れたのは、ギガントボアだったと思われる異形の魔物。体は一回りも二回りも大きく、牙は禍々しく伸び、その瞳は赤黒く輝いていた。とにかく鑑定してみよう。
『◾️◾️のギガントボア』
◾️◾️◾️の◾️◾️
Lv300
HP 15000
MP 2000
STR 2500
VIT 2200
INT 800
RES 2000
DEX 500
AGI 1500
LUK 600
「な、なんだ……コレ…」
ステータスが異常…と言うより壊れてる。まるでゲームのバグレベルだ。こんなの……勝てるわけがない。
「フレアさん!逃げましょう!」
「に、逃げるってどうやって!?」
AGI1500…逃げたところで追いつかれる…どうすれば。そう言えば、ファングボアで使った括り罠を強化したものがあった!
「ミスリル製ワイヤー括り罠!これならどうだ!」
ギガントボアの近くに設置しておびき寄せる。
「ブゴォオオオ!!!!!」
ギガントボアの動きが止まった。
「やったか!?」
しかしミスリル製ワイヤーは15秒ほどでブチン!と音を立てて切れた。
「くっ!ダメか!……アレ?」
ギガントボアは僕達を無視して別方向へと向かった。しかしフレアさんが血相を変えて叫ぶ。
「待って!あっちは……セルジアの方角だよ!」
フレアさんは急いでギガントボアを追いかけ、その後をついて行く。
「どうしよう!このままじゃセルジアが!……そうだ!」
フレアさんが大剣のスキル『挑発』を使った。
「フレアさん!?そんな事したら!」
「ウルカくんお願い!ここから逃げて街のみんなにこの事を知らせて!」
「フレアさんはどうするんですか!?」
「私はここでアイツを食い止める!!」
「そんな無茶な!」
「無茶でもやらなきゃダメなの!」
フレアさんは再度『挑発』を使ってギガントボアを呼び寄せる
「やめて下さいフレアさん!!」
「ウルカくん早く行って!お願い!セルジアを…みんなを守って!」
フレアさんは強引に僕を突き飛ばし、ギガントボアの注目を自分一人に引きつけた。
「フレアさん!!」
「急いで!ウルカくん!!」
フレアさんは剣を構え、ギガントボアと応戦する。
「ブゴオォオオオオオ!!!!!!!!」
「でやあぁあああ!!!!!!!」
突進してくるギガントボアに向かって剣を振り下ろすが、全く歯が立たず斬撃もろとも吹き飛ばされた。
「ぐうぅっ!!!!!」
「フレアさん!!」
吹き飛ばされた勢いで背中から木に叩きつけられ、それでもまだ立ち向かうフレアさん。
「……ま、まだ倒れないよ…………どりゃああああ!!!!!」
街の方へと向かうギガントボアを足止めするために何度もギガントボアに立ち向かうフレアさん。なんとかギガントボアを食い止めるが、斬撃は歯が立たず何度も弾き返され、吹き飛ばされた。
「ぐうあぁっ!!!!」
「フレアさんもうやめて下さい!!一緒に逃げましょう!!」
「お父さんは!!!……どんな時も家族を守り続けた……お母さんが病気になった時も、騎士団が無くなった時も、お父さんだって辛かった筈なのに、自分よりも家族のために頑張ってた!」
剣を地面に突き立て、なんとか立ち上がるフレアさん。
「セルジアだってそうだよ……自分の事じゃなくて街のみんなの為に動いて、病気になった後もみんなや私の事を考え続けた……剣聖と呼ばれたのは剣の腕前だけじゃない……誰かのために戦う強さを持っていたから……だから私は…娘としてそんなお父さんの思いを受け継ぐ!何より……」
フレアさんがギガントボアに向かって剣を構えた。
「お父さんだけじゃない……セルジアの人達は、私にとって家族同然なの!!私だって……家族を……大切な人達を守りたい!!!だから……」
フレアさんはグッと剣を握り直した。
「私は絶対倒れない!!命を賭けてでも…守ってみせるんだから!!!はぁあああああ!!!!!」
ギガントボアに向かって行くフレアさん。それに対して大きな体と牙を振り回すギガントボア。フレアさんは必死にギガントボアの攻撃を捌き、反撃の機会を伺う。
家族のため、街の人達のために命を賭けるフレアさんの姿を見て思い悩んだ。フレアさんの意志を汲んで街に行くべきか、それとも……
(じゃあ!私達は友達ね!)
昨日の夜の会話が頭をよぎった時。
バキイィイイイイイイン!!!!!!!!
ギガントボアの一撃によってミスリルの大剣が砕けてしまい、吹き飛ばされたフレアさんがうつ伏せに倒れてしまった。
「フレアさん!!!!!!」




